有限アーベル群の構造定理(さまざまな例)

有限アーベル群の構造定理は、有限アーベル群がどのような「部品」からできているかを完全に記述する定理だ。群論における最も基本的かつ美しい結果の一つであり、有限アーベル群の分類問題に決定的な解答を与えている。直感的にいえば、あらゆる有限アーベル群は巡回群という単純な部品の直積に分解でき、しかもその分解の仕方は本質的に一意である。

定理の主張

有限アーベル群 の構造は、2 つの同値な形式で記述できる。

不変因子形式

)と分解される。整除条件 を満たす列 は一意に定まり、不変因子と呼ばれる。最大の は群のすべての元の位数の最小公倍数に等しい。

素冪分解形式

は素数、)と分解される。各因子が素数冪位数の巡回群になっており、並べ替えを除いて一意である。

どちらの形式も同じ事実を述べているが、使いどころが異なる。素冪分解形式は群の内部構造を素数ごとに把握するのに適しており、不変因子形式は群全体の「大きさの階層」を一望するのに便利だ。両形式の間には明確な変換手続きが存在するので、状況に応じて自由に行き来できる。

具体例:位数 12

まずは小さな例で感覚をつかもう。位数 12 のアーベル群は、次の 2 種類しか存在しない。

巡回群

不変因子は 。素冪分解すると となる。位数 12 の元が存在し、群全体がその元で生成される。

非巡回群

不変因子は 。素冪分解すると になる。すべての元の位数は 6 以下で、位数 12 の元は存在しない。

なので、-成分の選び方が の 2 通りあり、-成分は の 1 通りのみ。組み合わせは 種類というわけだ。

位数 と整数の分割

構造定理の核心は、素数冪位数のアーベル群の分類にある。位数 のアーベル群は、 の分割( を正整数の和として表す方法)と一対一に対応する。分割 )に対して

が対応するのだ。たとえば位数 のアーベル群は、 の分割の数だけ存在する。

分割

巡回群。位数 8 の元が存在し、 の加法群と同型になる。最も「細長い」構造といえる。

分割

すべての元の位数は 4 以下。直積因子が 2 つあり、巡回群より少し「太い」構造をしている。

分割

すべての元の位数が 1 か 2。 上の 3 次元ベクトル空間と同一視でき、最も「平たい」構造だ。

この対応を通じて、位数 のアーベル群の個数は の分割数 に等しくなる。分割数は の増大に伴って急速に増えるため、位数が大きくなると群の種類も急激に増加していく。

位数 360 の完全分類

より実践的な例として、位数 360 のアーベル群をすべて列挙してみよう。この作業は「各素因子の指数をどう分割するか」という組み合わせ問題に帰着する。

まず素因数分解を行う。 である。構造定理により、位数 360 のアーベル群 と分解される。 は位数 の、 は位数 の、 は位数 のアーベル群だ。

次に、各素因子の指数について分割をリストアップする。

素数指数分割

各素数の分割の選び方を組み合わせると、 通りが得られる。これが位数 360 のアーベル群の総数だ。素冪分解形式で書き下すと次のようになる。

1 番目は巡回群 と同型であり、6 番目が最も多くの直積因子を持つ。群の種類が 6 つしかないのは、分割数がそれほど多くないためだ。

不変因子形式への変換

素冪分解から不変因子形式への変換には、「右詰めにして縦に掛ける」というテクニックを用いる。

具体例として、上の 4 番目(-成分の分割が -成分が -成分が )を変換しよう。各素数の指数を列として右詰めに並べ、縦の積を取って不変因子を求める。

各列を上から下へ掛け合わせる操作のこと。素数が異なるので中国剰余定理が適用できる。

具体的には次の表のようになる。

素数列 1(小)列 2(大)

各列の積を取ると、 となる。確かに が成り立っており、不変因子形式は だ。

同じ手順をすべてに適用すると、位数 360 のアーベル群の不変因子形式は以下の通りになる。

不変因子の最大値(最後の値)がその群の指数、すなわちすべての元の位数の最小公倍数を表している。巡回群 だけが指数 360 を持ち、他の群では指数がより小さくなる。

証明の骨格

構造定理の証明は、大きく分けて次の流れで進む。

を Sylow -部分群の直積に分解

-成分を帰納的に分類

一意性を不変量で証明

第一段階では、 のとき、 がその Sylow 部分群 の直積に分解されることを示す。アーベル群では Sylow 部分群が正規かつ一意であるため、この分解は自動的に成り立つ。非アーベル群の場合に Sylow の定理が必要となる困難さとは対照的だ。

第二段階では、位数 のアーベル群を帰納法で分類する。鍵となるのは商群 の構造である。-ベクトル空間となり、その次元が直積因子の個数を与える。 の構造を帰納的に調べることで、 全体の分解が決定される。

第三段階では、分解の一意性を示す。 の位数 の元の個数、 で割り切れる元の個数などの群不変量を用いて、異なる分解が同じ不変量を与えることはないと論証する。

群の同型類を区別するために使える、同型写像で変わらない数値的特徴のこと。

この証明戦略は、問題を素数ごとに分割し、各パーツを独立に処理するという代数学の典型的な手法に基づいている。

応用と一般化

有限アーベル群の構造定理は、それ自体が完結した美しい結果であると同時に、より広い理論への入口でもある。

有限生成アーベル群

有限群の場合を拡張すると、有限生成アーベル群は という形に分解される。 は自由階数と呼ばれ、有限部分には本定理がそのまま適用できる。

主イデアル整域上の加群

構造定理は -加群(= アーベル群)の理論として一般化される。 を任意の主イデアル整域 に置き換えると、 上の有限生成加群の構造定理が得られ、線形代数のジョルダン標準形や有理標準形もこの枠組みに含まれる。

Smith 標準形

整数行列の Smith 標準形は、不変因子形式の行列版といえる。整数行列に行・列の基本変形を施して対角行列に変換するアルゴリズムであり、連立一次方程式の整数解や格子の構造を調べる際に用いられる。