生成系があっても基底はとれない、自由アーベル群と階数
は 、、 の 3 本で生成されます[1]。ところが、この 3 本からどの 2 本を選んでも基底になりません。
ベクトル空間なら、生成系から基底がとり出せます。係数が体でなく になると、その性質が消えます。
自由アーベル群
集合 の元を基底とし、整数係数の有限和の全体を作ります。これが 上の自由アーベル群です[2]。
有限集合なら と同型で、 を階数といいます。
特徴づけは普遍性です。アーベル群 と写像 に対し、 を延長する準同型 がただ 1 つ存在する。
基底の行き先を勝手に決めてよい、という点はベクトル空間と同じです。違いは、部分集合の側に出ます。
階数は決まる
なら です[1]。
証明は係数を体に落とすだけ。同型 があれば、両辺を 倍した部分群で割った商どうしも同型になります。
これは 上のベクトル空間としての同型です。次元が一意なので になります[1]。
一般の可換環でも、極大イデアルで割れば同じ議論が通ります[1]。可換性は要ります。非可換なら となる環があるためです[1]。

基底かどうかは行列式で決まる
の 本のベクトルが基底になるのは、それらを列に並べた行列の行列式が のときに限ります[1]。
行列式が なら逆行列も整数成分になり、標準基底へ戻せます。逆に基底なら、両向きの変換行列がどちらも整数成分で積が単位行列なので、行列式の積が になる。整数で積が なら です[1]。
行列式が だと、張るのは指数 の部分群にとどまります。ベクトル空間なら「 でなければよい」で済むところが、 では に絞られる。
生成系から基底がとれない
は を生成します。 だからです。それでも も も基底ではありません[1]。
階数 でも同じことが起きます[1]。、、 の 3 本をとります。
整数結合で標準基底が作れます。
だから 3 本は を生成します。ところが 2 本ずつの行列式を計算すると
どれも ではありません[1]。どの 2 本も基底にならない。
3 本の生成系から基底がとり出せず、基底は別に作り直すしかない。ベクトル空間との差がいちばんはっきり出る場面です。
部分群も自由
失うものもあれば、得るものもあります。階数 の自由アーベル群の部分群は、階数 以下の自由アーベル群です[1]。
証明は についての帰納法です[1]。 は自明、 は の部分群が か で、後者は と同型なので成り立ちます。
と分け、第 1 成分への射影を とします。部分群 をとると、 は の部分群なので、帰納法の仮定から階数 の自由アーベル群です。
なら で、階数 以下。
とします。 の基底を ()と書きます。この たちは の中で線型独立です。 に を当てれば となり、係数がすべて になるためです[1]。
に対し と一意に書けるので、 は の核に入ります。これで
が出ます。核は の部分群なので階数 以下。合わせて の階数は か で、どちらも 以下です[1]。
階数は下がることはあっても、上がりません。 のように、真部分群でも階数が同じことはあります。
自由と、ねじれがないこと
自由アーベル群にはねじれ元がありません。 なら各成分で となり、 にねじれがないので です。
逆は成り立ちません。ねじれがなくても基底を持つとは限らない[1]。有理数の加法群がその例です。
有限生成という条件を足すと逆も成り立ちます[2]。 が単項イデアル整域であることが効いています。
生成系から基底がとれる。次元より小さい生成系はない
生成系から基底がとれるとは限らない。部分群はつねに自由になる
一般のアーベル群の階数
自由でないアーベル群にも階数が定まります[2]。線型独立な元の最大個数として決めます。
上で線型独立とは、 が をすべて に強いること。ねじれ元は を満たすので、単独で従属になります。
だからねじれ群の階数は です。 の階数は 、 の階数は になります。
有限指数の部分群では階数が変わりません。 の指数が有限なら、 の階数も です。指数が有限であることは、 がねじれ群であることと同じだからです。
の中で と は基底になりますか。
- 行列式が なので基底になる
- 成分に より大きい数があるので基底にならない
- 2 本では足りないので基底にならない
自由アーベル群は、ベクトル空間から「割り算」をとり上げた形をしています。基底の存在という性質は残り、生成系から基底を選べるという性質だけが落ちる。その落差が、行列式が に限られるという一点に集まっています。












行列式は 3×2−1×5=1 です。Zn の n 本のベクトルが基底になるのは、列に並べた行列の行列式が ±1 のときに限るので、この 2 本は基底になります。逆行列も整数成分になり、標準基底へ戻せます。