低い次数だけ先に知られていた〜群のコホモロジー入門
群 と、 が作用する可換群 から、群の列 が作れます。
最初の 3 つは、それぞれ別の場所で先に知られていました[2]。 は不変元、 は交叉準同型、 は拡大の分類です。あとから 1 本の理論にまとまりました。
加群
可換群 に が自己同型として作用しているとき、 を 加群といいます。加法で書きます。
すべての で となる作用を自明な作用といいます。 や に自明な作用を入れたものが、いちばんよく使われます。
コチェインとコバウンダリ
変数の写像 の全体を と書きます。 とします。
境界写像 を次で定めます[1]。
が成り立ちます。だから像が核に入り、商をとれる。
核の元をコサイクル、像の元をコバウンダリといいます。

は不変元
では で、 です。
コサイクルであることは、すべての で になること。 とするのでコバウンダリはありません。
で動かない元の全体です。
は交叉準同型
では です。コサイクルの条件はこうなります[1]。
この条件を満たす写像を導分、あるいは交叉準同型といいます[1]。
コバウンダリは、ある から で作られるものです。主導分と呼びます[1]。
作用が自明なら、条件が になります[1]。ふつうの準同型です。主導分は しかない。
に自明な作用を入れると、 です。有限群なら になります。
Hilbert の定理 90
作用が自明でない例が、古くから知られていました[3]。
を巡回拡大、 をそのガロア群とします。 は に体の自己同型として作用する。
これが Hilbert の定理 90 です[3]。1897 年の結果で、コホモロジーという言葉ができる 50 年前にあたります。
主張の中身は、ノルムが の元が の形に書ける、というものです。交叉準同型がすべて主導分になる、と言い直したのがこの式です。
は拡大を数える
でのコサイクル条件は次の形です[1]。
この を因子団といいます[3]。 を可換な正規部分群として持ち、商が になる群を作るときに現れる量です。
因子団という考え方は Hölder が 1893 年の論文で使い、Schur が 1904 年に射影表現の研究で再び使いました[3]。 が可換とは限らない一般の場合を系統的に扱ったのは、1926 年の Schreier の論文です[3]。
位相から来た
代数の側と別に、位相の側からも同じものが出てきました[2]。
Hurewicz が 1936 年に非球面空間を導入します[2]。 で となる空間で、こうした はホモトピー同値を除いて基本群だけで決まります[2]。
だから のホモロジーを群の不変量と見なせる。 と定義できます[2]。
でつまらず、 はアーベル化。 から面白くなります[2]。階数 の自由アーベル群なら をトーラスにとれるので です[2]。
Hopf が 1942 年に、( は自由群)と書いたときの公式を出しました[2]。
交換子のあいだの関係のうち、自明に成り立つものを割ったもの、と読めます[2]。
1940 年代のうちに代数的な定義が固まり、 が導分、 が因子団に対応することが分かりました[2]。 は Schur の乗数と一致します[2]。
巡回群で計算する
巡回群では計算が簡単です。標準的な分解より効率のよい、階数 の自由加群だけを使う分解があります[1]。
とし、 と置きます。
を掛ける写像と を掛ける写像が交互に並びます[1]。周期 で繰り返すので、コホモロジーも周期的になる。
に自明な作用を入れて計算します。 は 倍、 は 倍として働くので
有限群では位数が効く
が有限なら、 のコホモロジーは 倍で消えます。
で書き下します。 を導分とし、 と置きます。
コサイクル条件 を について足します。
左辺は が 全体を走るので です。よって 、つまり
右辺は から作った主導分です。 がコバウンダリになったので、 の元は 倍で になります。
同じ形の計算が高い次数でも通ります。だから が の中で可逆なら、 のコホモロジーはすべて消える。
では 倍で消える。標数が位数を割らなければ何も残らない
係数だと、巡回群でも偶数次に位数ぶんのねじれが並ぶ
何を測っているのか
は「動かないもの」、 は「準同型からのずれ」、 は「拡大の作り方」を数えています。
どれも先に別の名前で知られていました[2]。導分、因子団、Schur の乗数。それらが同じ複体の別の次数として並ぶ、と分かったのが 1940 年代です[2]。
は Teichmüller の仕事に現れていました[2]。低い次数だけが先に見つかっていたのは、意味づけがそこで止まっていたためです。
群 が可換群 に自明に作用しているとき、 は何と一致しますか。
- そのもの
- から への準同型の全体
- つねに
低い次数の 3 つは、それぞれ独立に見つかっていました。同じ複体の 次、 次、 次として並べ直したとき、初めて先へ続く道が見えた。位相の側から来た定義と代数の側から来た定義が一致したことが、その裏づけになっています。










自明な作用ではコサイクル条件が f(gh)=f(g)+f(h) になり、ふつうの準同型の条件と同じです。コバウンダリは f(g)=g⋅a−a=0 しかないので割る相手がありません。よって H1(G,M) は Hom(G,M) に一致します。