射影表現が線型に直せるか - Schur 乗数と普遍中心拡大
群を行列で表そうとして、係数のスカラー倍ぶんだけずれる。そのずれをとり除けるかどうかを測る群が Schur 乗数です[1]。
Schur が 1904 年に射影表現を調べる中で導入し、あとから と一致することが分かりました[3]。
射影表現
準同型 が線型表現、 が射影表現です。後者ではスカラー倍の違いを無視します。
射影表現が与えられたとき、各 に対して行列 を選んで持ち上げます。準同型になるとは限りません。
が 2 次のコサイクル条件を満たすことは、行列の積の結合律から出ます。 を選び直すと はコバウンダリぶんだけ動く。
だから射影表現が線型表現に持ち上がるかどうかは、 の類が かどうかで決まります。
有限群では を Schur 乗数と呼ぶ流儀もあります[1]。 が成り立つので、次数をずらせば整数係数の話になります[2]。
定義
いま標準的なのはホモロジーによる定義です[1]。
これを Schur 乗数といいます。中心拡大を扱うときに効きます[1]。
Hopf の公式
と表示したとき、 が具体的に書けます[1]。
は自由群の交換子部分群です。 に入る交換子のうち、 で自明になるものを割ったもの、と読めます[3]。
全体ではなく をとる点が大事です[1]。交換子として書ける関係式だけを見ています。
を作ると、 が中心に入る中心拡大になります[1]。 はその中心のうち、交換子部分群に入る部分にあたる。

計算してみる
で計算します。表示は です。
は階数 の自由群で、 は が生成する部分群を含みます。 は の類で生成される無限巡回群です。
で割ると関係が入ります。 から 、 から が に落ちる。
だから の類の位数は と の最大公約数になります。
巡回群では です。 が階数 なら なので、 も自明になります。
なら 。クラインの四元群には、自明でない中心拡大があります。
普遍係数の列
を自明な 加群とすると、次の完全列があります[1]。
が 2 つの部分に分かれています。アーベル化から来る部分と、Schur 乗数から来る部分です[1]。
が完全群、つまり なら なので左端が消えます[1]。
完全群では、拡大の分類が Schur 乗数だけで決まります。
Stem 拡大と Schur 被覆
中心拡大 で、 が の交換子部分群に入るものを stem 拡大といいます。
が と同型になる stem 拡大を、 の Schur 被覆といいます。位数は です。
一般には Schur 被覆が複数あります。ところが が完全群なら、同型を除いてただ 1 つに決まる。それを普遍中心拡大といいます。
普遍という名は、どんな中心拡大へも一意に写せることから来ています。
の Schur 乗数は です。普遍中心拡大は位数 で、 になります。中心が で、それで割ると に戻る。
の射影表現は、この 元の群の線型表現として実現されます。 自身の線型表現では届かないものが、2 重被覆の側に出てくる。
値の例
小さい群の値を並べます。
| 巡回群 | 0 |
| Z/m x Z/n | Z/gcd(m, n) |
| 四元数群 Q8 | 0 |
| An (n が 5、8 以上) | Z/2 |
| A6 と A7 | Z/6 |
| Sn (n が 4 以上) | Z/2 |
の乗数が なのは、位数 の群の中では珍しい形です。射影表現がすべて線型表現から来る、ということになります。
交代群では と だけ値が大きくなります。 の 重被覆は、散在型単純群とのつながりでも現れる群です。
射影表現はすべて線型表現に持ち上がる。中心拡大は自明なものだけ
持ち上がらない射影表現がある。被覆群の側に新しい表現が現れる
名前の順序
Schur が先で、 があとでした[3]。
1904 年に Schur が射影表現の障害として乗数を導入します[3]。Hopf が 1942 年に の公式を出し、その形が Schur の乗数と一致することが 1940 年代に分かりました[3]。
同じ時期に、 が導分、 が因子団に対応することも整理されます[3]。低い次数のコホモロジーには、それぞれ先行する名前があったことになります。
群 の Schur 乗数が自明なとき、言えることはどれですか。
- は可換群である
- の射影表現はすべて線型表現に持ち上がる
- の中心拡大は存在しない
射影表現を線型に直せるか、という問いから出た量が、あとから位相の側のホモロジーと一致しました。表示の言葉では、交換子として書ける関係式のうち自明でないものを数えている。3 つの見え方が同じ群を指しています。










射影表現を持ち上げたときのずれが 2 次のコサイクルになり、その類が消えることが持ち上げ可能性と同じでした。Schur 乗数はその類が入る群にあたるので、自明なら障害がありません。四元数群がその例で、可換でないのに乗数は 0 です。