可測写像は逆像で決まる - 可測空間と可測関数の判定
集合 と、その上の σ 加法族 の組 を可測空間といいます[4]。 の元が可測集合。
まだ測度は載っていません。どの部分集合を測る対象として認めるか、そこまでを決めた段階です。
2 つの可測空間 と のあいだの写像 が可測であるとは、次が成り立つことをいいます[1]。
行き先で測れると決めた集合を引き戻したとき、こちら側でも測れている。それだけの要求です。
順像ではなく逆像で定義する
なぜ ではなく なのか。理由は逆像が集合演算と完全に交換するからです[3]。
順像はこうなりません。 は言えても、等号は一般に崩れる。補集合にいたっては、 が全射でなければ形すら合いません。
σ 加法族は補集合と可算合併で組み立てられた族なので、その 2 つと交換する操作でしか引き回せない。逆像で定義するのは好みではなく、必然です。
引き戻された集合は、区間の有限合併という素直な形を保っています。この素直さが σ 加法族の 3 条件と噛み合う。
生成系だけ確かめれば足りる
定義どおりに の全部の元を調べるのは無理です。ところが調べる相手は生成系まで減らせます[2]。
のとき、 が可測であることと、すべての について が成り立つことは同値になる。
証明は逆像が演算と交換することから出ます。 という族を作ると、これは σ 加法族です。 を含むので も含む。
生成系で足りる理由は、逆像で引き戻した族がそれ自体 σ 加法族になるところにあります。
補集合と可算合併が逆像と交換するので、3 条件がそのまま移る。
実数値関数は不等式ひとつで判定できる
にボレル集合族を入れると、生成系は半直線でとれます[5]。
したがって次の 4 つはどれも の可測性と同値になります。ひとつ確かめれば残りは自動です。
以後は のように略記します。可測性の議論はほとんどこの形の集合を追うだけで済む。
高さ をどこに置いても、下にある の集まりが に入る。可測関数とはそれだけのものです。
例:すぐに可測と分かるもの
いくつか並べます。定数関数は逆像が か にしかならず、無条件で可測[2]。
指示関数 が可測であることは、 が可測集合であることと同値です。逆像が 、、、 の 4 つしかないから。
連続関数はボレル可測になります。開集合の逆像が開集合で、開集合はボレル集合だからです[4]。
単調関数も可測です。 が区間になり、区間はボレル集合。連続でなくても、跳びがいくつあっても構造は変わりません。
は有理数の上で 、無理数の上で 。どこでも不連続だが、逆像は 4 つしかないのでボレル可測。
非可測集合 の指示関数 。 の逆像が そのものになり、可測集合の族から外れる。作るには選択公理が要る。
可測関数の族は、連続関数の族よりずっと広い。開集合の逆像に課す条件が、「開集合であること」ではなく「ボレル集合であること」だけだからです[5]。
合成は可測性を保つ
と がともに可測なら、 も可測になります[4]。
証明は 1 行です。 に対し逆像を 2 段に分けます。
内側は の可測性から に入り、外側は の可測性から に入る。
Z 側の可測集合をとる
g で引き戻して Y 側の可測集合になる
f で引き戻して X 側の可測集合になる
ルベーグ可測どうしの合成は崩れる
ところが定義域側に完備化した σ 加法族を使うと、話が変わります[2]。
がルベーグ可測、 がルベーグ可測でも、 はルベーグ可測とは限りません。
理由は逆像の行き先にあります。 がルベーグ可測というのは、ボレル集合 の逆像が「ルベーグ可測」だと言っているだけで、ボレル集合だとは言っていない。外側の で引き戻す相手がボレル集合でないと、次の段が保証されません[5]。
のほうがボレル可測なら合成は通ります。値域側の σ 加法族と、次に引き戻す側の σ 加法族が揃っているかどうか。そこだけの話です。
がルベーグ可測、 がボレル可測なら はルベーグ可測。逆像がボレル集合に落ちるので次へつながる
の逆像がルベーグ可測なだけで、ボレル集合とは限らない。 で引き戻した先が可測になる保証がない
演算で閉じる
実数値の可測関数どうしは、四則演算で閉じています[5]。 を定数として 、、、 のときの がすべて可測。
和の証明が代表的です。工夫は有理数を挟むところ。
右辺は可測集合の可算合併です。有理数が可算個しかないおかげで、σ 加法族の中に収まる。
積は と書き直し、 の可測性に帰着させます。 が になるところがかなめ。
絶対値、、 も可測です。最大は 、最小は交わりを合併に替えるだけ。
極限で閉じる
ここが可測関数のいちばん強いところです。可測関数列 に対し、上限も下限も上極限も下極限も可測になります[5]。
上極限と下極限は と書けるので、上の 2 つの組み合わせで出ます。
各点収束する列の極限も可測です。 と一致するから。連続関数の族はこの操作で壊れるのに、可測関数の族は壊れません[3]。
の各点極限は でだけ をとる関数で、連続ではありません。それでも は区間か区間から 1 点を除いた集合なので、可測性は保たれる。
解析で可測関数の族を使うのは、この閉じ方のためです。極限をとっても外へ出ない族でないと、収束定理が書けません。
単関数とその近似
可測集合の指示関数を有限個ならべた関数を単関数といいます[5]。
非負可測関数 は、単関数の増加列で下から近づけられます。値域 を幅 に刻み、 の値がどの段にあるかで を振り分ける。
で各点収束し、 が有界なら一様収束します。刻む相手が定義域ではなく値域である点が、リーマン積分との分かれ目です。
可測関数を判定するとき、確かめる集合はどれで足りますか。
- 値域のすべての部分集合の逆像
- 値域の σ 加法族を生成する集合系の逆像
- 定義域のすべての可測集合の像
押し出しで測度が移る
可測写像が用意できると、測度を行き先へ移せます。 に測度が載っているとき、次で 上の測度が定まる。
右辺が意味を持つのは、 が可測で が に入っているからです。可算加法性も、逆像が合併と交換することからそのまま移る。
確率論ではこれを分布と呼びます。確率変数 の分布とは、標本空間の確率測度を で実数直線へ押し出したもの。可測写像の定義が逆像で書かれている理由が、ここでもう一度効いてきます。











逆像は補集合と可算合併と交換するので、逆像が可測になる集合の族はそれ自体 σ 加法族です。生成系を含めば、生成された σ 加法族まで丸ごと含む。実数値なら {f<b} だけで足ります。