ルベーグ測度の構成|外測度・カラテオドリからカントール集合・非可測集合まで
区間 の長さは である。では、有理数全体の「長さ」はいくつだろうか。区間ですらない、点が散らばっただけの集合に長さを割り当てられるのか。
この問いに答えるのがルベーグ測度である。 上で長さ・面積・体積の概念を広げ、区間のような素直な集合だけでなく、ずっと複雑な集合にも大きさを与える。これによってリーマン積分では歯が立たなかった関数の積分が可能になり、現代解析学の土台ができあがる。
構成の道具立ては 2 段階である。まず任意の集合に大きさの候補を与える外測度を作り、次にそのうち行儀のよいものだけを可測集合として選び出す。以下、この順に組み立てていく。
長さを測りたい
動機をはっきりさせておく。リーマン積分は、定義域を細かく区切って長方形で近似する。ところが区切り方に無理がある関数だと、この近似が破綻する。
典型例が有理数の指示関数 である。有理点で 、無理点で をとるこの関数は、どんなに細かく区切っても各小区間に有理点と無理点の両方が入るため、上和は 、下和は のまま縮まらない。リーマン積分は定義できない。
しかし直観的には、有理数は数直線上で「ほとんど場所を占めない」。だから の積分は であってほしい。この直観を測度として厳密にするのが出発点である。
ルベーグ外測度の定義
まず、あらゆる集合に大きさの候補を与える。区間の長さだけを既知として、そこから覆いによって外測度を作る。
任意の に対して、ルベーグ外測度 を次で定める。
を可算個の開区間で覆い、その長さの総和を考える。覆い方を全部動かしたときの下限が外測度である。
覆いの取り方はいくらでもあるが、そのうち最も無駄のないものを下限で選んでいる。区間の長さという素朴な量だけを材料に、任意の集合へ大きさを広げているのが要点である。
外測度は空集合で 、そしてどんな集合に対しても 以上 以下の値をとる。値が になる集合( 全体など)も許す。
例: 可算集合の外測度は 0
最初の例として、点が可算個しかない集合を測る。結論は、可算集合の外測度は必ず である。
とする。 を固定し、 番目の点 を長さ の開区間で覆う。覆いの長さの総和は等比級数で
となる。 はこれらの区間の合併に含まれるので である。 はいくらでも小さくできるから を得る。
<div class="lm-fig">
<svg viewBox="0 0 460 160" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="数直線上の可算個の点を、長さイプシロン割る2のn乗の縮む区間で覆う図。">
<rect x="0" y="0" width="460" height="160" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<line x1="30" y1="105" x2="440" y2="105" stroke="#9aa3ad" stroke-width="1.2"/>
<rect x="62" y="94" width="60" height="22" rx="3" fill="#3468d6" fill-opacity="0.15" stroke="#1b4fb8" stroke-width="1.2"/>
<rect x="188" y="94" width="30" height="22" rx="3" fill="#3468d6" fill-opacity="0.15" stroke="#1b4fb8" stroke-width="1.2"/>
<rect x="145" y="94" width="15" height="22" rx="2" fill="#3468d6" fill-opacity="0.15" stroke="#1b4fb8" stroke-width="1.2"/>
<rect x="304" y="94" width="9" height="22" rx="2" fill="#3468d6" fill-opacity="0.15" stroke="#1b4fb8" stroke-width="1.2"/>
<rect x="258" y="94" width="5" height="22" rx="1" fill="#3468d6" fill-opacity="0.15" stroke="#1b4fb8" stroke-width="1.2"/>
<g fill="#1b1d22">
<circle cx="92" cy="105" r="2.6"/>
<circle cx="203" cy="105" r="2.6"/>
<circle cx="152" cy="105" r="2.6"/>
<circle cx="308" cy="105" r="2.6"/>
<circle cx="260" cy="105" r="2.6"/>
</g>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12" fill="#1b4fb8" text-anchor="middle">
<text x="92" y="86">ε/2</text>
<text x="203" y="86">ε/4</text>
<text x="152" y="82">ε/8</text>
</g>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12" fill="#5b6370">
<text x="92" y="130">x₁</text>
<text x="197" y="130">x₂</text>
<text x="146" y="130">x₃</text>
<text x="254" y="130">x₅</text>
<text x="302" y="130">x₄</text>
</g>
</svg>
</div>.lm-fig { margin: 0; text-align: center; }
.lm-fig svg { width: 100%; max-width: 460px; height: auto; }特に有理数全体 は可算なので である。数直線上に稠密に散らばっていても、長さの意味では でしかない。 の積分が であってほしいという直観が、ここで裏づけられる。
外測度の性質
外測度は、大きさとして期待される基本性質を満たす。証明はいずれも定義の覆いを取り替えるだけで済む。
単調性は、大きい集合を覆う区間は小さい集合も覆うことから出る。劣加法性は、各 の覆いを寄せ集めれば合併の覆いになることから従う。平行移動不変性は、覆いを丸ごと平行移動しても長さの総和が変わらないことによる。
注意したいのは、劣加法性が不等式でしかない点である。 という等式は、一般には成り立たない。この綻びが、あとで可測性を導入する動機になる。
区間の外測度は長さ
外測度が名に恥じないためには、区間ではもとの長さに一致してほしい。実際そうなる。
は 自身を覆いに使えば明らかである。難しいのは の向きで、どんな覆いを使っても総和が を下回れないことを言う。ここでハイネ・ボレルの定理を使い、コンパクトな の有限個の区間による覆いに帰着させて、長さの下からの評価を得る。
端点を含む でも値は同じである。 点の外測度が なので、端点を足しても引いても長さは変わらない。
外測度だけでは足りない
ここまで来ると、外測度をそのまま測度と呼びたくなる。しかし決定的な問題がある。外測度は可算加法的ではない。
測度に求められる本質は、互いに交わらない集合に対する加法性、とくに可算加法性である。ところが、あとでヴィタリ集合の例で見るように、交わらない集合 でも となる場合が実際に存在する。
そこで、すべての集合を測るのをあきらめる。外測度に対して行儀のよい集合だけを選び、その上で加法性を回復させる。この選別を与えるのがカラテオドリの条件である。
カラテオドリの可測性条件
行儀のよさを、外測度だけの言葉で定める。カラテオドリの発想は、集合 が任意の試験集合をきれいに二分するかどうかを問うものである。
がルベーグ可測であるとは、任意の試験集合 に対して次が成り立つことをいう。
とその補集合 で を切ったとき、2 つの断片の外測度がちょうど元に戻る。 の境界が外測度を無駄なく分ける、ということ。
劣加法性から は常に成り立つ。だから実際に確かめるのは の向きだけでよい。等号が破れるとしたら、それは の境界のせいで外測度に無駄が生じている場合である。
条件を図で見る
条件が言っているのは、どんな を持ってきても、 による切り分けで大きさが保たれる、ということである。
<div class="lm-fig">
<svg viewBox="0 0 440 210" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="試験集合 E を集合 A とその補集合で切り分ける図。">
<rect x="0" y="0" width="440" height="210" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<ellipse cx="165" cy="105" rx="120" ry="80" fill="#3468d6" fill-opacity="0.10" stroke="#1b4fb8" stroke-width="1.6"/>
<ellipse cx="255" cy="105" rx="85" ry="55" fill="none" stroke="#c93c41" stroke-width="1.8" stroke-dasharray="6 4"/>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="13" stroke="#fafbfc" stroke-width="3" paint-order="stroke">
<text x="80" y="60" fill="#1b4fb8">A</text>
<text x="380" y="60" fill="#5b6370">Aᶜ</text>
<text x="205" y="110" fill="#1b4fb8" text-anchor="middle">E∩A</text>
<text x="312" y="110" fill="#c93c41" text-anchor="middle">E∩Aᶜ</text>
<text x="248" y="168" fill="#c93c41">E</text>
</g>
</svg>
</div>.lm-fig { margin: 0; text-align: center; }
.lm-fig svg { width: 100%; max-width: 440px; height: auto; }破線の が の境界をまたいでいる。 のうち に入る部分と に入る部分に分かれ、その 2 つの外測度を足すと に戻る、というのが条件の主張である。境界がいくら複雑でも大きさが保たれる集合だけを、可測と認める。
可測集合は σ 加法族をなす
この条件を満たす集合を集めると、測度論に必要な閉じた構造ができあがる。これがカラテオドリの定理である。
-可測集合の全体 は 加法族をなす。すなわち を含み、補集合をとる操作と可算合併をとる操作で閉じている。条件が と について対称なので、補集合で閉じるのはただちにわかる。可算合併で閉じることの証明が定理の核心である。
さらに、外測度 をこの に制限すると、互いに交わらない集合の可算合併に対して加法性が回復する。すべての集合ではあきらめた可算加法性が、 の上ではよみがえる。
ルベーグ測度の定義
こうして測度が定まる。
外測度 を 加法族 に制限したものをルベーグ測度 という。 の元をルベーグ可測集合と呼ぶ。
は測度空間になり、 は可算加法的である。
区間はすべて可測で、その測度は長さに一致する。外測度の段階で持っていた望ましい値はそのまま引き継がれ、加えて可算加法性という測度の生命線が手に入った、という構図である。
ルベーグ測度も平行移動不変
外測度が平行移動不変だったことは、測度にも受け継がれる。 が可測なら も可測で、測度は等しい。
長さや面積が、図形を動かしても変わらないという当たり前の要請が、こうして厳密な形で保証される。この平行移動不変性は、次のヴィタリ集合の構成で決定的な役割を果たす。
例: 区間・1 点・可算集合
定義が具体的な値を与えることを確かめる。まず区間は、端点を含むかどうかによらず長さに等しい。
点集合 の測度は である。長さ の区間で覆えて を に飛ばせるからで、だから端点の有無は測度に響かない。
可算集合の測度も である。とくに 、そして の中では となる。加法性から の無理数全体は であり、区間の長さをまるごと無理数が担っている。
ヴィタリ集合: 可測でない集合
すべての集合が可測なら、 をわざわざ考える必要はない。しかし可測でない集合が実在する。1905 年にヴィタリが与えた例を見る。
上で、差が有理数である 2 点を同値とみなす。 である。これで は互いに交わらない同値類に分かれる。各同値類から代表を つずつ選び、集めた集合を とする。この「 つずつ選ぶ」操作に選択公理を使う。
は、有理数だけずれた点をちょうど つずつ含む集合である。この が可測でないことを、平行移動不変性と可算加法性の組み合わせで示す。
平行移動した複製が敷き詰める
を有理数だけずらした複製を考える。 に対する平行移動 を並べると、2 つの事実が成り立つ。
異なる に対する どうしは交わらない。もし共有点があれば、 の中に差が有理数の異なる 2 点があることになり、代表を つずつ選んだことに反する。
そしてこれらの複製の合併は を覆い、かつ に収まる。 の各点は、ある代表と有理数だけずれているからである。式で書けば次の包含になる。
加法性からの矛盾
ここで が可測だと仮定して、測度を計算してみる。矛盾が出る。
複製 は可算個あり、互いに交わらない。可算加法性と平行移動不変性から、合併の測度は の可算個の総和である。
同じ数 を可算無限個足すと、 なら総和は 、 なら総和は にしかならない。ところが先の包含から、この合併の測度は と の測度に挟まれ、 以上 以下でなければならない。 でも でもありえない。仮定が誤りで、 は可測でない。
だから可測性で制限する
ヴィタリ集合は、外測度をすべての集合に押しつけると加法性が壊れることの、具体的な証拠である。交わらない複製を足しても大きさがつじつま合わせできない集合が、現に存在する。
だからこそ、カラテオドリの条件で集合をふるいにかける意味がある。 に制限してはじめて可算加法性が保証され、測度論が回りだす。 のような病的な集合は の外に置かれる。
選択公理なしでは作れない
ヴィタリの構成では、無限個の同値類から代表を選ぶのに選択公理を使った。実はこの使用は本質的である。
非可測集合の存在には選択公理が要ることが知られている。選択公理を外した集合論の模型では、 のすべての部分集合がルベーグ可測になるものもある。可測でない集合を具体的に「書き下す」ことはできず、選択公理による非構成的な存在としてのみ現れる。
したがって、日常的に出会う集合はまず可測である。非可測集合は、選択公理が生む影のような存在だと言える。
カントール集合の構成
測度と大きさの直観がずれる、もっとも有名な例がカントール集合である。 から中央を削り続けて作る。
の中央 の開区間 を除く。残った 2 本の閉区間それぞれから、また中央 を除く。これを無限に繰り返し、最後まで残る点の全体をカントール集合 とする。
<div class="lm-fig">
<svg viewBox="0 0 460 200" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="カントール集合の構成。各段で中央3分の1を除いていく様子。">
<rect x="0" y="0" width="460" height="200" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<g fill="#1b4fb8">
<rect x="40" y="35" width="380" height="14" rx="1"/>
<rect x="40" y="68" width="127" height="14" rx="1"/>
<rect x="293" y="68" width="127" height="14" rx="1"/>
<rect x="40" y="101" width="42" height="14" rx="1"/>
<rect x="124" y="101" width="43" height="14" rx="1"/>
<rect x="293" y="101" width="43" height="14" rx="1"/>
<rect x="378" y="101" width="42" height="14" rx="1"/>
<rect x="40" y="134" width="14" height="14" rx="1"/>
<rect x="68" y="134" width="14" height="14" rx="1"/>
<rect x="124" y="134" width="14" height="14" rx="1"/>
<rect x="153" y="134" width="14" height="14" rx="1"/>
<rect x="293" y="134" width="14" height="14" rx="1"/>
<rect x="321" y="134" width="14" height="14" rx="1"/>
<rect x="378" y="134" width="14" height="14" rx="1"/>
<rect x="406" y="134" width="14" height="14" rx="1"/>
</g>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12" fill="#5b6370">
<text x="34" y="45" text-anchor="end">0</text>
<text x="426" y="45">1</text>
<text x="230" y="172" text-anchor="middle" fill="#1b1d22">残る測度 = (2/3)ⁿ → 0</text>
</g>
</svg>
</div>.lm-fig { margin: 0; text-align: center; }
.lm-fig svg { width: 100%; max-width: 460px; height: auto; }各段階で長さの ずつが失われていく。図の黒い帯が残っている部分で、段を追うごとに細かく散っていく。この極限に残る が、これから測る対象である。
カントール集合の測度は 0
の測度を、残っている部分の長さの極限として求める。答えは である。
段目で残るのは 本の区間で、各区間の長さは である。合計の長さは次のようになる。
はすべての に含まれるので、 がすべての で成り立つ。 で右辺は に行くから、 である。削った区間の長さの総和 が、区間 をちょうど食い尽くしている。
それでも非可算
測度が なら点が少ないと思いたくなるが、 は非可算である。可算集合どころではない、 と同じ濃度の点をもつ。
各点を三進法で表すと見通しがよい。中央 を除く操作は、三進小数の各桁から を禁じる操作にあたる。結局 は、 と だけを桁にもつ三進小数の全体である。
各桁で か かを選ぶ自由があるので、 は の可算無限個の列と対応し、その濃度は 、すなわち連続体濃度である。 全体と同じだけの点がある。
測度と濃度は別物
カントール集合の教訓は、測度と濃度がまったく別の尺度だという点にある。
可算集合は測度 だったが、逆に測度 の集合が可算とは限らない。 は非可算なのに測度 である。点の個数が多くても、長さとしてはいくらでも小さくなりうる。
「大きさ」には少なくとも 2 つの独立した意味がある。数えたときの多さ(濃度)と、広がりの量(測度)である。カントール集合は、この 2 つが噛み合わない典型例になっている。
太ったカントール集合
削り方を変えると、疎なのに測度が正の集合も作れる。スミス・ヴォルテラ・カントール集合、通称「太ったカントール集合」である。
中央を削る幅を、 ではなく段ごとに素早く縮める。 段目で削る 本の区間の長さを にとると、削る長さの総和は次のようになる。
削り切っても半分が残り、この集合の測度は になる。
<div class="lm-fig">
<svg viewBox="0 0 460 175" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="太ったカントール集合。削る中央の幅が段ごとに小さくなり、太い帯が残る様子。">
<rect x="0" y="0" width="460" height="175" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<g fill="#c93c41" fill-opacity="0.9">
<rect x="40" y="35" width="380" height="15" rx="1"/>
<rect x="40" y="72" width="142" height="15" rx="1"/>
<rect x="278" y="72" width="142" height="15" rx="1"/>
<rect x="40" y="109" width="59" height="15" rx="1"/>
<rect x="123" y="109" width="59" height="15" rx="1"/>
<rect x="278" y="109" width="59" height="15" rx="1"/>
<rect x="361" y="109" width="59" height="15" rx="1"/>
</g>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12" fill="#5b6370">
<text x="230" y="150" text-anchor="middle" fill="#1b1d22">残る測度 = 1/2(なのに区間を含まない)</text>
</g>
</svg>
</div>.lm-fig { margin: 0; text-align: center; }
.lm-fig svg { width: 100%; max-width: 460px; height: auto; }太ったカントール集合は、通常のカントール集合と同じく、どこにも区間を含まない疎な集合である。それでいて測度は を保つ。疎であることと測度が であることは、まったく別の条件だと分かる。
ボレル集合との関係
可測集合の族 が、どれくらい大きいかを見ておく。比較の相手はボレル集合族 である。
ボレル集合族 は、開区間から出発して、補集合と可算合併・可算共通部分を有限回・可算回とる操作で得られる集合の全体である。開集合・閉集合・それらの可算操作で書ける集合はみなボレル集合になる。ボレル集合はすべてルベーグ可測なので が成り立つ。
しかもこの包含は真の包含である。
ルベーグ可測集合には、ボレル集合でないものが含まれている。次にその存在を濃度の勘定で示す。
非ボレル可測集合の存在
ボレル集合でないルベーグ可測集合があることは、集合の個数を数えると分かる。カントール集合を舞台に使う。
ボレル集合族の濃度は連続体濃度 である。生成の操作が可算回でしかないので、それ以上には増えない。一方、カントール集合 は濃度 をもつので、その部分集合は 個ある。
ところが だから、あとで見る完備性により の部分集合はすべてルベーグ可測である。可測集合が 個あるのに、ボレル集合は 個しかない。 なので、ボレルでない可測集合が大量に存在する。
開集合による近似
は抽象的に定義されたが、可測集合には具体的な特徴づけがある。開集合でいくらでも精密に外から近似できる、というものである。
がルベーグ可測であることは、次と同値である。任意の に対して、開集合 が存在して となる。
つまり、はみ出しの部分 をいくらでも小さくできる開集合で を覆える、ということである。カラテオドリの条件よりも直観的で、この開集合近似を可測性の定義に採る流儀もある。
閉集合による近似
外からの近似があれば、補集合を考えることで内からの近似も出る。可測集合は閉集合で内側から近似できる。
が可測なら、任意の に対して閉集合 で となるものがとれる。 を開集合で外から近似し、その補集合をとれば閉集合による内側近似になる。
可測集合とは、外から開集合で、内から閉集合で挟み撃ちにできる集合だと言える。この挟み撃ちが、あとで正則性という形に整理される。
完備性
ルベーグ測度のもう 1 つの重要な性質が完備性である。
測度 の集合の任意の部分集合もルベーグ可測であり、その測度も である。
零集合の中身は、どんな部分をとっても測度 のまま可測。測り落としが生じない。
証明は外測度の単調性からすぐ出る。 で なら なので であり、外測度が の集合はカラテオドリの条件を自動的に満たして可測になる。零集合の部分集合が測度 で可測、というのが完備性である。
ボレル測度は完備でない
対照的に、ボレル集合族に制限したルベーグ測度は完備ではない。ここにボレルとルベーグの差が現れる。
カントール集合 はボレル集合(閉集合)で である。ところが先に見たとおり、 の部分集合にはボレルでないものがある。零集合 の部分集合なのにボレル集合族には入っていないので、ボレル測度の枠内では「測度 の集合の部分集合が測れない」事態が起きる。
は、この抜けを埋めたものにほかならない。ボレル集合族に、零集合の部分集合をすべて付け加えて完備化したものが、ちょうどルベーグ可測集合族 である。
高次元への拡張
ここまでは で話したが、 でも構成は変わらない。区間の長さの代わりに、箱の体積を出発点にする。
次元の直方体(箱)
の体積を とする。これを覆いの素材にして、 のときとまったく同じ手順で外測度を作り、カラテオドリの条件で可測集合を選ぶ。こうして 上のルベーグ測度が定まる。
積測度としての構成
別の道もある。 次元ルベーグ測度を 個掛け合わせた積測度としても、 の測度を構成できる。
と定める方法である。箱の体積が各辺の長さの積になることは、この積測度の定義そのものである。 有限な測度の積は一意に定まるので、箱から直接作った測度と積測度は完全に一致する。どちらの道を通っても同じ にたどり着く。
これにより、フビニの定理のような重積分の道具が、測度のレベルで裏づけられる。
正則性: 外部正則性
上のルベーグ測度は正則である。可測集合を、開集合とコンパクト集合で外・内から近似できる。まず外部正則性で、 を含む開集合 を動かす。
どんな可測集合 の測度も、 を含む開集合の測度でいくらでも近くから押さえられる。開集合による近似を、測度の値の等式として書き直したものである。開集合は扱いやすいので、この近似は計算のうえで役に立つ。
正則性: 内部正則性
内側からはコンパクト集合で近似できる。これが内部正則性で、 に含まれるコンパクト集合 を動かす。
に含まれるコンパクト集合の測度を大きくとっていくと、 にいくらでも近づけられる。閉集合ではなくコンパクト集合で言い切れるのは、 が コンパクトだからである。測度が無限大の集合でも、大きな測度のコンパクト集合をその内部に見つけられる。
正則性の意味
外部正則性と内部正則性を合わせると、可測集合は開集合とコンパクト集合に挟まれる。
任意の に対して、コンパクト集合 と開集合 で かつ となるものがとれる。抽象的な可測集合が、内と外の両方から具体的な集合で近似される、ということである。
正則性のおかげで、可測集合に関する多くの主張は、まず開集合やコンパクト集合で確かめてから極限に移る、という方針で証明できる。可測集合の扱いにくさを、具体的な集合の扱いやすさで包み込む道具になっている。
リーマン積分を超える
最初の動機に戻る。ルベーグ測度は、リーマン積分で測れなかった関数に積分を与える。
有理数の指示関数 は、リーマン積分できなかった。しかしルベーグ積分では、 上で
と難なく積分できる。値が になる集合の測度が だからである。測度の言葉で積分を組み直すことで、リーマン積分の適用範囲が大きく広がる。ルベーグ測度が現代解析学の基盤とされるゆえんである。
構成の歴史
ルベーグ測度は、19 世紀末から 20 世紀初頭の解析学の刷新の中で生まれた。
エミール・ボレルが、区間から可算操作で生成される集合族に測度を与え、測度論の骨格を用意した。
アンリ・ルベーグが博士論文で外測度と積分を構成し、リーマン積分を包含する積分論を打ち立てた。
ジュゼッペ・ヴィタリが非可測集合を構成し、すべての集合を測ることはできないと示した。
コンスタンティン・カラテオドリが外測度からの可測性条件を抽象化し、一般の測度構成の枠組みを与えた。
ボレルが枠組みを、ルベーグが積分を、ヴィタリが限界を、カラテオドリが一般化を与えた。今日の構成は、これらを組み合わせた到達点である。
理解の確認
最後に 1 問。測度と濃度の違いを思い出してほしい。
カントール集合 のルベーグ測度と濃度について、正しいのはどれか。
- 測度は正で、濃度は可算
- 測度は で、濃度は非可算
- 測度は で、濃度は可算
- 測度は正で、濃度は非可算










各段で残る長さは (2/3)n→0 なので λ(C)=0。一方、0 と 2 だけの三進小数と対応するので濃度は連続体濃度であり、非可算である。測度と濃度は独立した尺度だと分かる。