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開集合だけを認めるとどこまで届くか、ボレル集合族の中身

位相空間 の開集合をすべて含む最小の σ 加法族を、 のボレル集合族といいます[1]。記号は

開集合を測れるものとして認め、そこから σ 加法族の操作で届くところまで広げる。位相と測度をつなぐ最初の一手がこれです[3]

最小のものが存在する理由

「最小の σ 加法族」と書きましたが、そんなものが本当にあるのかは確かめておく必要があります。

作り方は交わりです。 を含む σ 加法族すべての交わりをとる。べき集合が候補に入っているので相手は必ず 1 つ以上あり、σ 加法族の交わりはまた σ 加法族になる[3]

下から積み上げる作り方もありますが、そちらは超限回の手続きが要ります。存在を言うだけなら上から交わらせるほうが早い。

生成元はとり替えがきく

上のボレル集合族は、開区間以外のものからも生成できます[6]。どれを出発点にしても同じ場所に着く。

半直線から閉区間が出るところを見ておきます。まず補集合で が入り、交わりで が入る。あとは可算交叉で右端を閉じます。

逆向きは、閉区間の可算合併で開区間が書けることから出ます。どちらの向きも通ったので、生成される族は一致する。

有理数を端点にするだけで足りる

もっと切り詰められます。端点を有理数に限った区間だけで、ボレル集合族の全体が生成できる[3]

理由は、任意の開区間が有理数端点の区間の可算合併で書けるからです。 の中に有理数の組 をとり、内側から寄せていく。

生成元が可算個で済むという事実は、あとで濃度を数えるときに効いてきます。無限に大きな出発点は要りません。

開集合と閉集合のすぐ隣

ボレル集合族の中身を、開集合から近い順に眺めてみる。開集合の可算交叉を 集合、閉集合の可算合併を 集合といいます[5]

はドイツ語の Gebiet、 は Durchschnitt。 はフランス語の fermé、 は somme に由来します。名前に 2 か国語が混ざっているのは、この分野の来歴そのもの。

開集合 そのもの
閉集合 の補集合
開集合の可算交叉
閉集合の可算合併
の可算合併
の可算交叉

補集合をとると が入れ替わります。片方を調べれば、もう片方は自動的に分かる。

例:有理数全体と無理数全体

は可算集合なので、1 点集合の可算合併として書けます。1 点集合は閉集合だから、 集合[5]

補集合をとると、無理数全体 集合になります。有理数を 1 点ずつ抜いた開集合の可算交叉。

のほうは にはなりません。もし なら、それを構成する開集合は稠密になる。無理数側の と交わらせると空集合が出て、ベールのカテゴリー定理と衝突します[5]

ここから面白い結論が出ます。関数の連続点の集合はいつも なので、有理数の上でだけ連続な関数は存在しない。逆向きの、無理数の上でだけ連続な関数はトマエ関数として実在します。

無理数で連続、有理数で不連続

トマエ関数。既約分数 、無理数で 。連続点の集合が無理数全体という 集合になる。

有理数で連続、無理数で不連続

存在しない。連続点の集合は必ず で、 ではない。

例:見慣れた集合はどこにいるか

代表的な集合を、階層の低いほうから並べます。ほとんどの集合は下の 2 段で足りる。

集合どこに属するか
開区間、閉区間開集合、閉集合
1 点集合閉集合
可算集合
カントール集合閉集合
有理数全体
無理数全体

日常の解析で出てくる集合は、たいてい までに収まります。階層の上のほうは、集合論の側からの関心で調べられている領域。

関数のほうから出てくる例もあります。どんな関数についても、連続点の集合は で、不連続点の集合は になる[5]

ディリクレ関数 はどこでも不連続なので、不連続点の集合は 全体。これは閉集合なので、もちろん です。

ボレル階層は超限に伸びる

を作る操作は、いくらでも繰り返せます。この繰り返しを整理したものがボレル階層です[2]

を開集合、 を閉集合とし、以下を帰納的に定めます。 にあたる。

は、 集合の可算合併。
は、 集合の補集合。
は、 の両方に属するもの。

非可算なポーランド空間では、この包含はどの段でも真になります[2] でも でもないボレル集合が実在する、ということ。

階層は最初の非可算順序数 で閉じます[2]。可算個の集合を選んでも、それぞれが現れる段の上限はまだ可算順序数だから。そこで可算合併をとっても外へ出ません。

可算回で止まらないのは、どの可算順序数 についても に真に新しい集合が現れるからです[4]。有限回や 回では足りない。

個数を数えると連続体濃度になる

生成元が可算個で足りることと、階層が で閉じることを合わせると、個数が数えられます[3]

各段で作れる集合は、それ以前の可算個の族から可算列を選ぶぶんだけ。これを 段ぶん積み上げても、総数は連続体濃度 を超えません。

いっぽう の濃度は になる。ボレル集合族はべき集合よりはるかに小さい族だと分かります。

ボレル集合でないルベーグ可測集合

濃度の差から、存在がそのまま出ます。カントール集合はルベーグ測度 で、濃度は連続体[6]

ルベーグ測度は完備なので、測度 の集合の部分集合はすべてルベーグ可測です。カントール集合の部分集合は 個あり、全部がルベーグ可測。

その個数はボレル集合の個数 を超えています。したがってボレル集合でないルベーグ可測集合が存在する。

具体例も知られていて、ルジンが連分数展開を使って作った集合が挙げられます[1]。存在だけなら数えるだけで済むところが、この議論のうまみです。

ルベーグ可測集合はボレル集合の完備化

2 つの族の関係は、はっきり書けます。ルベーグ可測集合は、ボレル集合に測度 の集合の部分集合を継ぎ足したものとして表せる[3]

ボレル集合族が完備でないぶんを埋めた族がルベーグ σ 加法族、という関係です。測る力そのものは変わらず、扱える集合の粒だけが細かくなる。

ボレル集合族

開集合から生成される。位相だけで決まり、どの測度を載せるかに依存しない。完備ではない

ルベーグ可測集合族

ボレル集合族をルベーグ測度で完備化したもの。測度 の集合の部分集合をすべて含み、濃度が上がる

解析集合という一段外側

ボレル集合を真に含む族も調べられています。ポーランド空間の連続像として書ける集合を解析集合といい、ボレル集合はその特別な場合[4]

スースリンの判定が両者をつなぎます。解析集合がボレル集合であることと、その補集合も解析集合であることが同値になる。

開集合から生成してボレル集合

連続像をとって解析集合

補集合も解析なら、ボレル集合に戻る

quiz で確かめる

について正しいものはどれですか。

  • 集合だが 集合ではない
  • 集合だが 集合ではない
  • 集合でも 集合でもない
__RESULT__

1 点集合は閉集合で、 はその可算合併なので です。 だとするとベールのカテゴリー定理と衝突するので、 にはなりません。

よくある誤り

ボレル集合を「開集合か閉集合か、その可算合併か可算交叉」で尽くせると思う。階層は まで伸びます。
生成元が変わると別の σ 加法族になると思う。開区間でも半直線でも有理数端点でも同じ族に着きます。
ボレル集合族がべき集合と一致すると思う。濃度が で違います。
ルベーグ可測ならボレル集合だと思う。カントール集合の部分集合を数えるだけで反例の存在が出ます。
だと思う。ベールのカテゴリー定理から否定されます。
有理数の上でだけ連続な関数を作ろうとする。連続点の集合は必ず なので作れません。
ボレル集合族が測度に依存すると思う。決めているのは位相だけです。

参考文献

Borel set. Wikipedia(英語).
Borel-Hierarchie. Wikipedia(ドイツ語).
Tribu borélienne. Wikipédia(フランス語).
Borel set. Encyclopedia of Mathematics.
Gδ set. Wikipedia(英語).
J. K. Hunter. *Measure Theory*. University of California at Davis, 2011.
開集合をすべて含む最小の σ 加法族がボレル集合族です。開区間から始めても半直線から始めても行き先は同じで、端点を有理数に限っても足りる。$G_\delta$ と $F_\sigma$ から超限に伸びるボレル階層をたどり、有理数全体が $F_\sigma$ なのに $G_\delta$ にはならないこと、そこから有理数の上でだけ連続な関数が存在しないことまで見ます。濃度が連続体にとどまるので、ボレル集合でないルベーグ可測集合は数えるだけで見つかる。