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平行移動しても長さが変わらないことがルベーグ測度を決めている

集合を丸ごと横へずらしても、ルベーグ測度は変わりません[1]。 と に対し、平行移動を と書きます。

しかも が可測であることと が可測であることは同値[5]。測度も可測性も、位置には依存しません。

外測度が動かない理由

証明は定義まで戻れば数行で終わる。外測度は、区間(高次元なら直方体)の可算被覆の総体積の下限でした。

ここで が の被覆であることと、 が の被覆であることは同値です。しかも直方体の体積は平行移動で変わらない。

つまり下限をとる相手の集合が、 だけずれて全く同じ形で並び替わるだけ。下限も当然一致します[5]。

可測性のほうも同じ調子で移ります。カラテオドリ条件に出てくる交わりが、平行移動と交換するから[5]。

テスト集合を から にとり替えれば、 の条件が の条件にそのまま書き換わります。

回転と鏡映でも変わらない

平行移動は定義から素直に出ますが、回転は自明ではありません。外測度を作るときに使った道具が、座標軸に平行な直方体だからです[5]。

軸を傾けた直方体の体積が、ルベーグ測度と一致することを別に示す必要があります。それが済むと、直交変換で測度が変わらないことが従う。

結果として、ルベーグ測度は等長変換すべてで不変になります[2]。定義に入り込んだ座標軸の任意性が、答えには残らない。

線形写像では行列式の絶対値だけ倍になる

もっと一般の線形写像 については、倍率がはっきり書けます[1]。

直交変換は なので、さきほどの結果はこの特別な場合。 倍の拡大は なので、 になります。

行列式が のとき、像は低い次元の部分空間に落ちます。 の中で次元が より小さい部分空間は、測度 [5]。式の両辺が で釣り合っています。

直交変換

。長さも角度も測度も変わらない。回転と鏡映がこれにあたる

せん断変換

だが形は大きく歪む。それでも測度は保たれる。保たれるのは面積であって形ではない

退化した写像

。像が低い次元に落ち、測度は になる

平行移動不変性がルベーグ測度を決めてしまう

不変性は、ルベーグ測度の性質のひとつというより、正体そのものです。

上のボレル測度で、平行移動不変かつコンパクト集合で有限、単位立方体の測度が になるものは、ルベーグ測度ただひとつ[3]。

これは局所コンパクト群のハール測度の一意性の特別な場合にあたります[4]。 は加法についての局所コンパクト群で、そこに載る平行移動不変な測度は定数倍を除いて一意。

平行移動で変わらないことを要求する

コンパクト集合で有限であることを要求する

単位立方体を 1 と決める

3 つ決めるだけで測度が 1 つに定まる。「長さ」「面積」「体積」という言葉に期待するものを書き下すと、答えの自由度が消えてしまいます。

不変性の代償

ところが、この気持ちのよい性質には代償がついてきます。平行移動不変性と可算加法性を、すべての部分集合の上で両立させることはできません[5]。

で同値関係を入れ、各類から の代表をひとつずつ選んだ集合 を考えます。選択公理が要るところ。

の有理数を と並べ、 とおくと、これらは互いに交わらず、次で挟まれます。

もし が可測なら、平行移動不変性から はすべて等しい。可算加法性で足すと、和は か のどちらかにしかなりません。

ところが挟み込みから、和は 以上 以下でなければならない。矛盾します[5]。

結論は、 が可測でないということ。ルベーグ測度がべき集合全体に載らないのは、平行移動不変性を手放さなかった帰結です。

有限加法性まで下げると事情が変わる

可算加法性を有限加法性に弱めると、 と では話が通ります。すべての部分集合に定義された、平行移動不変で有限加法的な測度が存在する[6]。

3 次元以上では作れません。バナッハ・タルスキーの分割が、その不可能性をそのまま示しています[6]。

分かれ目は等長変換群の性質にあります。低い次元では群が可解で従順、3 次元以上では自由群を含んでしまう。フォン・ノイマンが、逆説的分解を持たない群がちょうど従順群だと示しました[6]。

1 次元と 2 次元

全部の部分集合に、平行移動不変で有限加法的な測度を載せられる。可算加法性まで求めると壊れる

3 次元以上

有限加法性ですら載らない。球を分割して 2 つの球に組み直せてしまう

例:不変でない測度もいくらでもある

平行移動不変性は測度一般の性質ではありません。むしろ持っているほうが特別な部類。

ディラック測度 は原点を含む集合に 、含まない集合に を与えます。 の測度は ですが、 の測度は 。ずらしただけで値が変わる。

標準正規分布も同じです。区間 の確率と の確率は違う。確率測度で平行移動不変なものは、全体の測度が という条件と衝突するので 上には存在しません。

ルベーグ測度平行移動で不変。全体の測度は無限大
数え上げ測度平行移動で不変。全体の測度は無限大
ディラック測度不変でない。全体の測度は 1
正規分布不変でない。全体の測度は 1

平行移動不変で全体が有限、というのは の上では両立しません。長さ の区間で を可算個に埋め尽くせるので、和が か になるためです。

上のボレル測度で、平行移動不変かつ単位立方体の測度が のものはいくつありますか。

  • 定数倍の自由度があるので無数にある
  • ルベーグ測度ただひとつ
  • 次元ごとに 2 つずつある
__RESULT__

ハール測度の一意性から、平行移動不変な測度は定数倍を除いて一意です。単位立方体の測度を と決めた時点で定数倍の自由度も消えるので、残るのはルベーグ測度だけになります。

よくある誤り

平行移動不変性を定義から明らかだと片づける。外測度の被覆が対応することを言う必要があります。
回転不変性も定義から明らかだと思う。外測度は軸に平行な直方体で作るので、別に示すことになります。
線形写像で測度が変わらないと思う。変わらないのは のときだけです。
測度がどれも平行移動不変だと思う。ディラック測度も正規分布も不変ではありません。
不変性と可算加法性がべき集合の上で両立すると思う。ヴィタリの構成が両立しないことを示します。
有限加法性でも 3 次元で不変な測度を作れると思う。バナッハ・タルスキーの分割が邪魔をします。
平行移動不変で全体が有限の測度が に載ると思う。区間で埋め尽くすと和が か になります。

参考文献

Lebesgue measure. Wikipedia(英語).
Lebesgue-Maß. Wikipedia(ドイツ語).
Mesure de Lebesgue. Wikipédia(フランス語).
Haar measure. Wikipedia(英語).
J. K. Hunter. *Measure Theory*. University of California at Davis, 2011.
Banach–Tarski paradox. Wikipedia(英語).
集合を丸ごとずらしても外測度は動きません。下限をとる相手の被覆が、そのままずれて並び替わるだけだから。回転や鏡映でも不変になること、線形写像では行列式の絶対値だけ倍になることを確かめ、平行移動不変でコンパクト集合に有限、単位立方体が $1$ のボレル測度がルベーグ測度ただひとつに決まるところまで進みます。代償はべき集合全体に載らないこと。有限加法性まで下げれば 2 次元までは救えるのに、3 次元では球が 2 つに増えてしまう。