ルベーグ測度の平行移動不変性は、「長さ」や「体積」の直観に合致する基本的な性質である。集合を空間内で動かしても、その大きさは変わらない。この性質はルベーグ測度を特徴づける重要な条件にもなっている。
平行移動不変性
上のルベーグ測度 は平行移動不変である。任意のルベーグ可測集合 と に対し、 もルベーグ可測であり、
が成り立つ。
証明は外測度の段階から確認できる。 を区間(直方体)で覆うとき、各区間を だけ平行移動した区間は を覆い、体積は変わらない。したがって である。カラテオドリ条件の保存も直接確認でき、可測性と測度の不変性が従う。
スケーリング
拡大縮小に対しては次が成り立つ。 とするとき、
のとき係数は 、 のとき 、 のとき となり、長さ・面積・体積のスケーリングに一致する。
一般のアフィン変換
線形変換 に対しては、
が成り立つ。行列式の絶対値が体積の変化率を与える。 のとき は退化しており、像の次元が下がるため測度は 0 になる。
アフィン変換 については、平行移動が測度を変えないので線形部分のみが効く。
平行移動不変性によるルベーグ測度の特徴づけ
ルベーグ測度は平行移動不変性によって本質的に一意に定まる。次の定理が成り立つ。
を 上のボレル測度で、次の 2 条件を満たすとする:
- は平行移動不変である
このとき、定数 が存在して である。
特に を正規化条件として課せば、 となる。すなわち、ルベーグ測度は「平行移動不変で、単位立方体の体積が 1 であるボレル測度」として一意に特徴づけられる。
回転不変性
のルベーグ測度は直交変換(回転と鏡映)についても不変である。直交行列 は を満たすので、
が成り立つ。この性質により、球や円といった対称性を持つ図形の測度計算が容易になる。
より一般に、ルベーグ測度はユークリッド空間の等長変換(平行移動・回転・鏡映)の全体について不変であり、このことが の幾何学的構造と調和する測度としてのルベーグ測度の自然さを示している。
不変測度の非存在
平行移動不変性は強い制約であり、すべての状況で不変測度が存在するわけではない。たとえば、 上で を満たす平行移動不変な測度は (零測度)しかない。有限測度と平行移動不変性は両立しないのである。
これは直観的にも理解できる。 と分解すると、平行移動不変性から各 の測度は等しい。それが正なら となり、0 なら となる。