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長さを決められない集合はあるのか?ヴィタリ集合と非可測集合

の部分集合で、ルベーグ可測でないものが存在します[1]。ヴィタリが 1905 年に示した例が、いちばん短く書けるもの。

作り方は 2 行で済みます。実数に で同値関係を入れ、各同値類から の代表をひとつずつ選ぶ。

これがヴィタリ集合です。以下で、この に長さを与える方法がないことを見ていきます。

同値類はどんな形をしているか

の属する類は 。有理数を全部足しただけなので、可算無限個の点からなり、 の中で稠密になります[3]。

類の個数のほうは非可算です。 を可算集合で割っているので、商の濃度は連続体のまま。

3 本の帯はそれぞれ別の類です。どれも同じくらい密に見えるのに、互いに 1 点も共有しない。

各類が と交わることも確かめておきます。 に対し小数部分 をとれば、 の中の同じ類の点が見つかる[3]。だから代表を から選べます。

選択公理を使うところ

非可算個の類それぞれから、1 点ずつ同時に選ぶ。この操作に選択公理が要ります[1]。

選び方の規則は書けません。「いちばん小さい元」も「最初に見つかる元」も定義できない。類には最小元がなく、稠密に散らばっているだけだからです。

規則を書かずに存在だけを認める。ここが以降の議論のすべての出どころです[4]。

ヴィタリ集合は存在するのに書き下せない。証明が使うのは選択公理だけで、具体的な構成法はありません。

選択関数の存在だけを認めており、どの点を選んだかは最後まで分からない。

有理数でずらしたコピーは重ならない

の有理数を と並べ、 とおきます[2]。

これらは互いに交わりません。もし が で成り立つなら、 は でない有理数。

すると と は同じ類に属し、 が各類から 1 点しか持たないことに反します。だから 、したがって 。

上下から挟む

つぎに合併の位置を押さえます。 で なので、合併は に収まる。

逆向きも成り立ちます。 をとると、 の類の代表 があって 。 ともに にいるので となり、この差はどれかの です。

単調性から、合併の測度は 以上 以下でなければなりません[2]。

矛盾が出る

ここで が可測だと仮定します。平行移動不変性から がすべての で成り立つ。

互いに交わらないので、可算加法性で和がとれます。

右辺は同じ数を可算個足したものです。 なら和は 、 なら和は 。この 2 つしかありません。

どちらも 以上 以下という範囲に入らない。仮定が誤りで、 は可測でない[1]。

canvas: 式は呼び出しにそのまま書いてください。この引数は焼けません -> drawMath(… sumZero ? '\\lambda(V) = 0' : '\\lambda(V) > 0' …)

証明で使ったのは 3 つだけです。可算加法性、平行移動不変性、そして が可測だという仮定。

円周に移すと図が簡単になる

同じ議論を円周 の上でやると、挟み込みが要らなくなります[7]。

を法として考えると、 の有理数平行移動たちは円周を可算個の交わらない集合に分割する。 のようなはみ出しがなく、ちょうど覆い尽くします。

全部が同じ測度なので、和は か 。ところが円周全体の測度は です[7]。

直線でやったときの という余裕は、円周に巻きつけると消えます。矛盾がむき出しになる形。

3 つのうちどれかを捨てるしかない

矛盾の読み方はひとつではありません。すべての部分集合に長さを与えたいなら、次のどれかを諦めることになります[4]。

可算加法性を捨てる。有限加法性までなら と で全部の部分集合に載せられる。
平行移動不変性を捨てる。長さという言葉の意味は失われる。
すべての部分集合に定義するのを諦める。可測集合の族を決めて、その上でだけ測る。
選択公理を捨てる。ヴィタリ集合の存在そのものが言えなくなる。

測度論が選んだのは 3 番目です。σ 加法族という枠を先に決めて、その中でだけ測る。この記事の最初に σ 加法族が出てくる理由が、ここにあります。

全部の部分集合を測りたい

可算加法性か平行移動不変性のどちらかを手放すことになる。長さの直観と引き換え

可測な族に限って測る

3 つの性質を全部保てる。代わりに、測れない集合が残ることを認める

選択公理を外すとどうなるか

ヴィタリ集合の存在は選択公理に頼っています。では選択公理なしなら非可測集合はないのか、という問いが立つところ。

ソロヴェイが 1970 年に答えを出しました。到達不能基数の存在を仮定すると、ZF に従属選択公理を足した体系で「実数のすべての部分集合がルベーグ可測」となるモデルが作れる[4]。

つまり非可測集合の存在は、選択公理を外した体系では証明できません。到達不能基数の無矛盾性は ZFC では証明できないので、この結果には仮定がひとつ乗っています[1]。

1905
ヴィタリの構成

同値類の代表を選んで、ルベーグ可測でない集合を作った。

1924
バナッハとタルスキー

3 次元の球を有限個に分けて 2 つの球に組み直せることを示した。

1970
ソロヴェイのモデル

選択公理を外せば、すべての部分集合が可測なモデルを作れることを示した。

ヴィタリ集合の中には測れる部分がほとんどない

もう一歩踏み込みます。 の部分集合で可測なものは、すべて測度 になる。

が可測で だとします。シュタインハウスの定理から、差集合 は原点のまわりの区間を含む[6]。

区間には でない有理数が入っています。すると の中に、差が有理数になる相異なる 2 点がある。同じ類から 2 点を持つことになり、 の作り方に反します。

したがって 。 の外測度は正なのに、内側から測れるものは何もない。可測でないというのは、こういう形をしています。

同じ議論を裏返すと、外測度が正の集合はどれも非可測な部分集合を含みます。非可測集合はごく特殊な存在ではなく、正の大きさを持つところならどこにでも潜んでいる。

別の型の非可測集合

ヴィタリの構成のほかにも例があります。ベルンシュタイン集合は、 の非可算閉集合すべてと交わるが、そのどれも丸ごとは含まない集合[5]。

超限帰納法で作ります。非可算閉集合を順序数で並べ、各段でその集合から 2 点を選び、片方を へ、もう片方を補集合へ振る。

正の測度を持つ可測集合は非可算閉集合を含むので、 もその補集合も正の測度の可測集合を含めません。したがって は非可測[5]。ベールの性質も持ちません。

ヴィタリ集合

有理数による平行移動で作る。可算加法性と平行移動不変性の衝突を突く

ベルンシュタイン集合

超限帰納法で作る。測度でもカテゴリーでも同時に壊れる

バナッハ・タルスキーの断片

回転を使って作る。3 次元で有限加法性まで壊す[8]

quiz で確かめる

ヴィタリ集合が非可測であることの証明で、使っていないものはどれですか。

  • ルベーグ測度の平行移動不変性
  • ルベーグ測度の完備性
  • ルベーグ測度の可算加法性
__RESULT__

証明に出てくるのは、平行移動でコピーの測度が変わらないことと、交わらない可算個の和がとれることの 2 つです。測度 の集合の部分集合が可測であるという完備性は、どこにも使っていません。

よくある誤り

ヴィタリ集合を具体的に書き下せると思う。選択公理は存在だけを保証します。
非可測集合が珍しいものだと思う。外測度が正の集合はどれも非可測部分集合を含みます。
選択公理なしでも非可測集合が作れると思う。ソロヴェイのモデルがそれを否定します。
の外測度が だと考える。内側の可測な部分は測度 ですが、外測度は正です。
コピーが重なると思う。差が有理数になる 2 点を が持たないので、重なりません。
和が 以上 以下になるはずだと押し切る。その範囲に入らないことが結論です。
非可測なのは奇妙な公理のせいだと片づける。可算加法性と平行移動不変性の衝突が本体です。

参考文献

Vitali set. Wikipedia(英語).
Vitali-Menge. Wikipedia(ドイツ語).
Ensemble de Vitali. Wikipédia(フランス語).
Non-measurable set. Wikipedia(英語).
Bernstein set. Wikipedia(英語).
Steinhaus theorem. Wikipedia(英語).
J. K. Hunter. *Measure Theory*. University of California at Davis, 2011.
Banach–Tarski paradox. Wikipedia(英語).
実数を「差が有理数」で類別し、各類から代表をひとつずつ選ぶ。ヴィタリ集合はそれだけで作れます。有理数だけずらしたコピーが重ならないこと、合併が $[0, 1]$ と $[-1, 2]$ に挟まれることを確かめると、同じ値を可算個足して 1 以上 3 以下になるという、満たせない要求が残る。選択公理をどこで使ったか、外すと何が起きるか、そしてヴィタリ集合の可測な部分がすべて測度 $0$ になる理由まで。