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積分の順序を変えてよいのはいつか〜トネリで確かめてフビニで動かす

2 つの σ 有限な測度空間 と をとります。トネリの定理は、非負可測な について 3 つの積分が一致すると述べます[1]。

非負でありさえすればよく、可積分性は要りません。3 つとも になる場合も含めて等号が立ちます[3]。

フビニの定理は符号のある関数を扱います。 が積測度について可積分なら、同じ 3 つの等式が成り立つ[1]。

条件の違いが、そのまま使い方の違いになる。トネリは非負、フビニは可積分。

使うときの定石

実際の場面では 2 つを組にして使います[1]。

まず にトネリを当てます。 は非負なので無条件で順序を変えてよく、累次積分のどちらかを計算すれば の値が分かる。

それが有限なら は可積分なので、こんどはフビニが使えます。有限でなければ、順序交換は保証されません。

にトネリを当てて累次積分を計算する

有限だと分かれば は可積分

にフビニを当てて順序を変える

実際の手つきは、計算しやすいほうの順序で を評価すること。片方が計算しにくくても、もう片方で足ります。

canvas: 式は呼び出しにそのまま書いてください。この引数は焼けません -> drawMath(… orderVertical ? '\\int\\!\\!\\int f\\, dy\\, dx' : '\\int\\!\\!\\int f\\, dx\\, dy' …)

切り口の関数が可測になる

累次積分を書くには、内側の積分が意味を持つ必要があります。 を固定した切り口 が可測でなければ、 が定義できない。

積 σ 加法族の元は切り口が可測でした[2]。同じ議論が関数にも移ります。 が積 σ 加法族について可測なら、各 について は 可測になる[4]。

さらに、内側の積分を の関数と見たものも可測です。これで外側の積分が書けるようになる。

反例:符号があると順序で答えが変わる

可積分性を外すと、累次積分の値が食い違います[1]。いちばん短い例は行列で作れます。

自然数の組 に対し、 のとき 、 のとき 、それ以外は と定めます。

行ごとに足すと、 の行だけ で、残りは と が打ち消して 。全部足して 。

列ごとに足すと、どの列も と の組があって 。全部足して です。

絶対値をとると和は発散する。可積分でないので、フビニの仮定を満たしていません。

連続の場合にも同じ型の例があります[1]。

符号が反転しているのは、被積分関数が と の入れ替えで符号を変えるから。原点の近くで正と負が激しく打ち消し合い、絶対値の積分が発散します。

トネリの定理

非負が条件。値が でも等号が立つ。まず に当てて可積分性を調べる道具になる

フビニの定理

可積分が条件。符号があってよい。順序を変えて計算するのはこちらの役目

反例:σ 有限でないと崩れる

もうひとつの落とし穴が σ 有限性です[3]。 で、 をルベーグ測度、 を数え上げ測度にとります。

対角線の指示関数 を考えます。非負なのでトネリの形をしていますが、結論が成り立たない。

を固定すると は 1 点だけで なので、数え上げ測度での積分は 。それを について積分すると になります。

を固定すると は 1 点だけで なので、ルベーグ測度での積分は 。それを について足しても のままです。

canvas: 置き場が受け取りませんでした

非負なのに順序で答えが変わりました。トネリの定理が σ 有限性を要求している理由が、この例に出ています。

完備な測度では a.e. の但し書きが付く

ルベーグ測度のように完備化した空間で使うときは、言い方が少し変わります[4]。

が でルベーグ可測なとき、切り口 はすべての ではなく、ほとんどすべての について可測になります。

例外の では内側の積分が定義できませんが、その集まりは測度 なので外側の積分に影響しません。結論の等式はそのまま成り立つ[4]。

積 σ 加法族で可測

すべての切り口が可測。内側の積分がどの でも定義できる

完備化した σ 加法族で可測

ほとんどすべての切り口が可測。例外は測度 なので、外側の積分は変わらない

応用:層ケーキの公式を導く

トネリの使い道のひとつは、積分を水位ごとの測度に書き直すこと。非負可測な について、次の集合を考えます。

にトネリを当てます。 を固定して で積分すると 、 を固定して で積分すると 。

順序を変えただけで公式が出ました。非負なので、可積分性の確認も要らない。

応用:たたみこみの評価

のたたみこみについて、次の評価が出ます。

にトネリを当て、 を固定して で積分すると平行移動不変性から 。それを で積分すれば右辺です。

有限だと分かったので、 が a.e. で定義されて可積分になる。ここまで来てはじめてフビニが使えます。

たたみこみの評価は、非負にしてからトネリという型の見本です。

絶対値をとれば非負になるので、可積分性を確かめる前でも順序を変えてよい。

quiz で確かめる

累次積分の順序を変えたいとき、最初にすることは何ですか。

  • が連続かどうか調べる
  • にトネリを当てて、累次積分が有限か調べる
  • 2 つの累次積分を計算して一致するか見る
__RESULT__

は非負なのでトネリが無条件に使え、どちらの順で計算しても の値が出ます。それが有限なら は可積分で、フビニで順序を変えてよいと分かります。

よくある誤り

連続なら順序を変えてよいと思う。 は原点を除いて連続なのに食い違います。
2 つの累次積分が一致すれば可積分だと思う。一致しても が発散する例があります。
トネリに可積分性が要ると思う。要るのは非負であることだけです。
フビニを非負でない関数に、可積分性を確かめずに当てる。行列の例で答えが変わります。
σ 有限性を忘れる。数え上げ測度との積では、非負でも順序で答えが変わります。
完備な空間で切り口がすべて可測だと思う。ほとんどすべて、が正しい言い方です。
のとき片方の累次積分の値を答えにする。順序を変えると別の値が出ます。

参考文献

Fubini's theorem. Wikipedia(英語).
Mesure produit. Wikipédia(フランス語).
Product measure. Wikipedia(英語).
J. K. Hunter. *Measure Theory*. University of California at Davis, 2011.
非負なら無条件で順序を変えてよい(トネリ)、可積分なら符号があっても変えてよい(フビニ)。定石は、まず $|f|$ にトネリを当てて有限性を確かめ、それから $f$ にフビニを当てること。$1$ と $-1$ が並ぶ行列で行和と列和が $1$ と $0$ に割れる例、原点の近くで打ち消し合う関数で $\pi/4$ と $-\pi/4$ に割れる例を見ます。数え上げ測度との積で σ 有限性が効くところ、層ケーキの公式とたたみこみの評価まで。