余因子展開のやり方と符号の決め方(3 次と 4 次の行列式)
4 次の行列式は、3 次の行列式 4 個の和に書き直せます。3 次なら 2 次 3 個へ。次数が 1 ずつ落ちていく手順が余因子展開です[1]。
落とす先の個数は、選んだ行や列の成分の個数と同じ。 の多い行や列を選べば、消える項のぶんだけ計算が減ります。
小行列式
次正方行列 から第 行と第 列を消すと、 次の正方行列が残ります。その行列式を と書き、 小行列式と呼ぶ[3]。
3 次から 1 行 1 列を消せば 2 次。行と列を 1 本ずつ抜くので、大きさはちょうど 1 だけ小さくなります。
余因子は符号つきの小行列式
小行列式に を掛けたものが余因子 です[3]。
が偶数なら正、奇数なら負。左上を として、市松模様に並びます。
模様なので、途中の成分でも数え直さずに読めます。隣へ 1 つ動けば符号が変わる、それだけ。
展開の式
行列式は、どの行に沿っても、どの列に沿っても展開できます[1]。第 行に沿った形は次のとおり。
第 列に沿っても同じ値が出ます。
どこで展開しても値は変わらない。だから、いちばん楽な行か列を選べます[2]。
例:3 次を第 1 行で展開する
第 1 行の 3 つの成分について、余因子を順に出します。
成分と掛けて足すと 。
例: の多い列を選ぶ
4 次では 3 次の行列式が 4 個できるので、そのまま展開すると手数がかかります。
第 2 列は です。 の項は消えるので、残るのは の 1 個だけ[2]。
符号は なので 。よって です。
4 個の 3 次を計算する代わりに 1 個で済みました。 を数えてから展開先を決める、という順番が効きます。
符号はどこから来るのか
は、あとから付けた飾りではありません。行列式が持つ交代性から出てきます。
行列式は、2 つの行を入れ替えると符号が変わります。第 行を第 1 行まで運ぶには、隣どうしの入れ替えを 回。列も同じく 回。
合わせて 回の入れ替えなので、符号は になります。
展開の式が正しいことは、右辺が 行について多重線形で、交代性を持ち、単位行列で になる と示せば足ります。
この 3 条件を満たす関数は行列式ただ 1 つなので、右辺は に一致する。
つまり余因子展開は、行列式の定義を言い換えたもの。計算法として天下り式に覚える必要はありません。
別の行の余因子を掛けると になる
第 行の成分に、第 行の余因子を掛けて足すとどうなるか。 なら、答えは です[2]。
理由は入れ替えで見えます。第 行を第 行のコピーで置き換えた行列を考えると、この和はその行列式に等しい。
同じ行が 2 つある行列の行列式は なので、和も になります。
になる。展開の式そのもの
になる。同じ行が 2 つ並んだ行列式にあたる
この 2 つを 1 つの式にまとめると、次の形になります。
余因子行列と逆行列
余因子 を並べ、転置したものを余因子行列(随伴行列) と呼びます[2]。転置するので、 成分は です。
上の の式は、行列の積として次のように書けます。
なら両辺を割って、逆行列の公式が出ます。
例:余因子で逆行列を出す
第 1 行で展開すると 。
9 個の余因子を全部出します。第 1 行ぶんが 、第 2 行ぶんが 、第 3 行ぶんが 。
並べて転置すると、次の行列になります。
なので、これがそのまま です。
転置を忘れると、 が 成分の位置に残ります。行と列が入れかわるだけなので、掛け算するまで気づきません。

文字が入ると展開が効く
数値だけの大きな行列なら、掃き出し法のほうが速い。展開が生きるのは、成分に文字が混ざっている場合です[4]。
割り算をすると場合分けが増えるので、掃き出しは文字と相性がよくありません。展開なら、掛け算と足し算だけで進みます。
固有多項式がその例。 を 3 重対角の行列とし、 と置きます。
第 1 行で展開すると 。因数分解して です。
を戻せば、固有値は と と分かります。
計算量
次を展開すると 次が 個。それをまた展開すると、掛け算の回数はおよそ に届きます。
掃き出し法なら 程度で終わるので、 が大きいと差は開く一方です。 で は を超えます。
が多ければ余因子展開
数値だけで大きければ掃き出し法
文字が入っていれば余因子展開
実際には混ぜるのが速い。行基本変形で を作ってから展開すれば、両方の利点をとれます[4]。
例: を作ってから展開する
第 2 行から第 1 行の 2 倍、第 3 行から第 1 行の 3 倍を引きます。行列式は変わりません。
第 1 列に が 2 つ並んだので、そこで展開して 。
はじめから展開すると 3 個の 2 次を計算します。変形を 2 回入れるだけで、1 個で済みました。
5 次の行列式を余因子展開するとき、第 3 行に が 3 つあります。計算する 4 次の行列式はいくつですか。
- 5 個
- 2 個
- 3 個
符号の読み方も確かめます。
次正方行列で、 成分の余因子に付く符号はどちらですか。
- 行列の中身で変わる
なので負です。 が奇数なら負、偶数なら正で、行列の成分には関係しません。左上の から市松模様に数えても同じ結果になります。
検算
展開した行と別の行で、もう一度展開します。どこで展開しても値は同じなので、違えばどちらかに計算違いがあります。
上の なら、第 2 列で 、第 4 行で展開しても 。一致しました。
逆行列を出したときは、 の非対角成分が になるかを見ます。第 1 行と第 2 列の組では です。
対角成分が全部 になり、それ以外が全部 になれば、余因子の符号も転置も正しく入っています。
次数を 1 つ落とす。この操作を繰り返すだけなので、大きな行列でも手順は変わりません。 をどこに作るかだけが工夫のしどころ。














第 3 行の成分は 5 つで、そのうち 3 つが 0 です。0 の項は消えるので、残る 4 次の行列式は 5−3=2 個になります。展開先を選ぶときは、0 の個数がそのまま手数の差になります。