行列のノルム

行列のノルムは、行列の「大きさ」を測る尺度である。数値解析において誤差の評価や収束性の議論に欠かせない概念である。

ノルムの定義

行列ノルム は、以下の条件を満たす関数である。

かつ
(斉次性)
(三角不等式)
(劣乗法性)

最後の条件は行列ノルムに特有である。この条件により、行列の積の大きさが制御できる。

作用素ノルム

ベクトルノルム が与えられたとき、対応する作用素ノルム(誘導ノルム)を次で定義する。

これは がベクトルをどれだけ伸ばすかの最大値を測る。

代表的な作用素ノルムを挙げる。

1-ノルム(列和ノルム)

。列の絶対値和の最大値。

-ノルム(行和ノルム)

。行の絶対値和の最大値。

2-ノルム(スペクトルノルム)

の最大特異値に等しい。

フロベニウスノルム

フロベニウスノルムは行列の全成分の二乗和の平方根である。

これは を長いベクトルと見なしたときのユークリッドノルムに相当する。計算が容易だが、作用素ノルムではない点に注意が必要である。

フロベニウスノルムは特異値を用いて とも書ける。

条件数

行列 の条件数は で定義される。2-ノルムを用いた場合

となる。条件数が大きいと、連立方程式 は入力の小さな変化に対して解が大きく変動する(悪条件)。

応用

行列ノルムは数値計算の至るところで現れる。反復法の収束速度は で評価され、LU 分解の安定性は条件数に依存する。行列近似の誤差もノルムで測られる。