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いちばん伸ばす倍率を測る(作用素ノルムの定義と計算)

有界線形作用素 に対し、作用素ノルムは「いちばん伸ばす倍率」として定まります[1]。

上限を与える定数のうち、いちばん小さいものをとった形です。使うときは次の 3 つの表示のほうが便利[1]。

どれも同じ値です。線形性から、大きさ に正規化してから測っても情報が落ちないため。

定義そのものから、いちばんよく使う不等式が出ます[2]。

ノルムとしての性質

という記号のとおり、これはノルムの条件を満たします[1]。

で、等号は が零作用素のときに限る。
が成り立つ。
が成り立つ。

作用素の空間 がノルム空間になります。しかも がバナッハ空間なら、 もバナッハ空間[3]。

定義域の には完備性が要りません。値域の完備性だけで、作用素の列の収束先が確保されます。

合成では掛け算より小さくなる

作用素を続けて施すと、ノルムに劣乗法性が現れます[1]。

と 2 段で押さえるだけ。

等号になるとは限りません。 がいちばん伸ばす向きと、 がいちばん伸ばす向きが食い違えば、積の倍率は落ちます。

で を 軸への射影、 を 度回転にとると分かりやすい。 ですが、 は 軸方向を 軸へ送るだけで、向きによっては になります。

劣乗法性が等号にならないのは、伸びる向きがそろっていないときです。

が最大に伸ばした先が、 の縮む向きに落ちると倍率が下がる。

例:行列のノルムはノルムの選び方で変わる

行列を線形写像と見たとき、作用素ノルムは定義域と値域に入れたノルムに依存します[1]。

なら列ごとの絶対値の和の最大値、 なら行ごとの和の最大値、 なら最大特異値[1]。

入れるノルム作用素ノルムの値
p = 1列ごとの絶対値の和の最大
p = 2最大特異値
p が無限大行ごとの絶対値の和の最大

同じ行列でも 3 つの値は一致しません。「行列のノルム」と言うだけでは値が決まらない、というところが要注意です。

無限次元でも同じ形の公式が出ます。 上の無限行列 では、ノルムが行ごとの和の上限になる[3]。

例:シフト作用素

の上で、右シフトと左シフトを考えます[3]。

どちらもノルムは です。成分を並べ替えるだけで大きさを変えないから。

ところが性質は対称ではありません。 は単射ですが全射でなく、 は全射ですが単射でない[3]。

有限次元では起きないことです。 上の線形写像なら、核が であることと像が全体であることが同値になります。

例:積分作用素

に最大値ノルムを入れ、連続な核 でフレドホルム型の積分作用素を作ります[3]。

行列の最大行和の連続版です。 を固定した行に沿って絶対値を積分し、その最大値をとる。

積分の上端を動かすボルテラ型なら、核が で 、そうでなければ の場合にあたります[3]。

は から出ます。等号になるのは のときで、 のノルムが だから。

フレドホルム型

積分区間が固定。核が退化していれば像が有限次元になり、閉部分空間になる

ボルテラ型

積分の上端が動く。像は微分できる関数の集まりで、閉部分空間にならない

上限が達成されるとは限らない

と書きましたが、この上限が実際に達成される保証はありません[1]。

ボルテラ作用素で見ます[3]。 は ですが、像のノルムは へ落ちる。

この列では倍率が に向かいます。逆に の側から を押さえることができない、という事情がここに出ている。

反射的なバナッハ空間なら、有界線形汎関数についてはノルムが必ず達成されます[1]。ジェームズの定理と呼ばれる結果です。

恒等作用素1
右シフトと左シフトどちらも 1
ボルテラ作用素1。 で達成される
フレドホルム型核の行ごとの絶対値の積分の最大値

同じ 行列に対して、、、 の作用素ノルムはどうなりますか。

  • どれも同じ値になる
  • ふつうは 3 つとも違う値になる
  • が大きいほど必ず大きくなる
__RESULT__

は最大列和、 は最大行和、 は最大特異値です。どれも別の量なので、一般には一致しない。単位球の形が で変わるので、いちばん伸びる向きも変わります。

よくある誤り

「行列のノルム」で値が決まると思う。定義域と値域に入れるノルムを指定して決まります。
を成分の二乗和の平方根だと思う。それはフロベニウスノルムで、作用素ノルムは最大特異値です。
だと思う。成り立つのは不等号のほうです。
上限がいつも達成されると思う。ボルテラ作用素のように達成されない例があります。
の完備性に の完備性が要ると思う。要るのは の完備性だけです。
単射なら全射だと思う。無限次元ではシフト作用素が反例になります。
をすべての で成り立つと思う。成り立つのは不等号で、等号は特別な向きだけです。

参考文献

Operator norm. Wikipedia(英語).
Bounded operator. Wikipedia(英語).
J. K. Hunter, B. Nachtergaele. *Applied Analysis*, Chapter 5: Banach Spaces. University of California at Davis.
$\|Tx\| \le M\|x\|$ を満たす $M$ のうち最小のもの。単位球のどの向きがいちばん伸びるか、と読み替えられます。ノルムの 3 条件と劣乗法性を確かめ、$Y$ が完備なら $B(X, Y)$ も完備になるところまで進む。行列では $p = 1$ が最大列和、$p = \infty$ が最大行和、$p = 2$ が最大特異値と、入れるノルムで値が変わります。シフト作用素、フレドホルム型とボルテラ型の積分作用素、上限が達成されない例まで。