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各点で有界なら一様に有界?バナッハ・シュタインハウスの定理

をバナッハ空間、 をノルム空間とします。有界線形作用素の族 について、次が成り立ちます[1]。

各点で押さえられているだけで、作用素ノルムまで一斉に押さえられる。一様有界性原理、あるいはバナッハ・シュタインハウスの定理と呼ばれます[2]。

主張の強さが目につきます。左辺は ごとに上限を許す条件で、 が変わるたびに別の値でよい。それでも右辺の一様な上限が出てくる。

なぜ驚くのか

有限個の作用素なら当たり前です。有限個の数の最大値をとればよい。

無限個になると事情が変わります。 ごとの上限が とともにいくらでも大きくなり、全体では上限がない、という状況が想像できるからです。

その状況が起きないと保証してくれる。それがこの定理で、しかも仮定は の完備性だけです[2]。

完備でないと本当に壊れる

の完備性は外せません[2]。有限個の成分しか でない数列の全体 で反例が作れます。

に ノルムを入れ、作用素を と定めます。 番目の成分を 倍して返す汎関数。

各 を固定すると、成分は有限個しか でないので、 が大きければ 。したがって です。

ところが なので、作用素ノルムの上限は 。各点有界なのに一様有界でない、という形がここに出ています[2]。

が完備でないところが効いている。完備化して にすると、 の族はもう各点有界になりません。

証明はベールのカテゴリー定理から

完備距離空間は、可算個の疎な閉集合では覆えません[1]。ベールのカテゴリー定理です。

これを使って、次の集合を考えます[2]。

各 が連続なので は閉集合です。仮定から、どの もどれかの に入るので、合併が 全体になる。

ベールの定理から、ある が内点を持ちます。中心 、半径 の閉球が に収まる。

あとは線形性です。 なら と の両方が にあるので、。正規化すると一様な上限が出ます[1]。

証明で完備性を使ったのは、ベールの定理を呼ぶ 1 か所だけです。仮定が の完備性しか要らない理由がここにあります。

各点有界な族を用意する

閉集合 で を覆う

ベールの定理でどれかが内点を持つ

線形性で一様な上限に広げる

系:各点収束する作用素列

が各点で成り立つとき、極限 も有界線形作用素になります[2]。

各点収束すれば各点で有界なので、原理から 。この上限を と置くと、 の極限で が出ます。

一般の連続写像では、各点極限が連続とは限りません。線形性と完備性がそろってはじめて、この形が成り立つ[3]。

ノルムでの収束までは言えない点に気をつけます。 は別の主張で、各点収束からは出ません。

各点収束

がどの でも成り立つ。極限が有界であることは原理から従う

ノルム収束

。各点収束より強く、原理からは出ない

系:弱収束する列は有界

双対の側でも同じ形が効きます。 が弱収束する、つまりすべての で が収束するとします。

を の元と見ると、各 で値が収束するので有界。原理を の上で使うと、 が出ます。

弱収束する列は必ずノルム有界、という便利な事実。 が完備であることを使うので、 の完備性は要りません。

応用:フーリエ級数が発散する連続関数

いちばん有名な応用です[1]。連続関数のフーリエ級数が、ある点で発散する例が存在する。

を部分和とし、 を固定して という汎関数を考えます。これは有界線形汎関数で、ノルムがディリクレ核の ノルムに一致します[1]。

もし全部の連続関数でフーリエ級数が収束するなら、 は各 で有界です。すると原理から も有界になるはずで、発散と矛盾する。

したがって、フーリエ級数が発散する連続関数が存在します。しかもそういう関数の全体は で稠密[1]。

存在を言うのに、具体的な関数をひとつも作っていないところが特徴です。原理が「作らずに存在を言う」型の道具だと分かります。

伸び方は ほどで、ゆっくりです。それでも上限がないので、原理を当てるには十分。

一様有界性原理を使うのに、完備性はどこに要りますか。

  • 値域の が完備であること
  • 定義域の が完備であること
  • どちらも完備であること
__RESULT__

証明でベールのカテゴリー定理を呼ぶのは定義域の側です。 に をとると、各点有界なのに作用素ノルムが で発散し、結論が崩れます。

2 つの「有界」を並べておく。

各点で有界

ごとに上限があればよい。 が変わるたびに別の値でよく、確かめやすい

一様に有界

ひとつの定数がすべての作用素に効く。強い結論だが、完備性があれば前者から従う

よくある誤り

の完備性が要ると思う。要るのは の完備性だけです。
完備性を外しても成り立つと思う。 上の が反例になります。
各点収束からノルム収束が出ると思う。出るのは極限の有界性までです。
有限個の族でしか使えないと思う。無限個の族で意味を持つ定理です。
結論を各点の評価と読む。作用素ノルムの一様な上限が結論です。
フーリエ級数の反例を具体的に作れると思う。原理は存在だけを言います。
弱収束する列が有界でないことがあると思う。原理から必ず有界になります。

参考文献

Uniform boundedness principle. Wikipedia(英語).
Satz von Banach-Steinhaus. Wikipedia(ドイツ語).
J. K. Hunter, B. Nachtergaele. *Applied Analysis*, Chapter 5: Banach Spaces. University of California at Davis.
$x$ ごとに上限があればよい、という弱い仮定から、作用素ノルムの一様な上限が出てきます。要るのは定義域の完備性だけ。ベールのカテゴリー定理で閉集合のどれかが内点を持つことを言い、線形性で全体へ広げる筋をたどります。$\ell_c$ 上の $A_k x = k x_k$ が完備性を外した反例。各点収束する作用素列の極限が有界になること、弱収束する列がノルム有界になること、そしてフーリエ級数が発散する連続関数の存在まで。