全射でありさえすれば開写像になる……開写像定理と逆写像の有界性
と をバナッハ空間、 を有界線形作用素とします。 が全射なら、 は開写像になります[1]。
連続性は「開集合の逆像が開集合」でした。開写像はその逆向きで、「開集合の像が開集合」という条件。
一般の連続写像では成り立ちません。 は から への連続写像ですが、 の像は で開集合になりません。
線形性と全射性と完備性、この 3 つがそろうと開写像になる[3,4]。バナッハ・シャウダーの定理とも呼ばれます。

系:逆写像が自動的に有界になる
が全単射なら、逆写像 も有界になります[1]。有界逆写像定理と呼ばれる形です。
開写像であることが、そのまま の連続性です。 が連続であることと が開写像であることが同じ条件だから。
驚くべきところは、 の有界性を別に確かめなくてよい点。 が有界で全単射だと分かれば、それだけで逆も有界です[3]。
一般の位相空間では成り立ちません。連続な全単射でも、逆が連続とは限らない。線形性と完備性が効いています。
系:完備な 2 つのノルムは同値になる
同じ線形空間に、比べられる 2 つのノルムが入っているとします。どちらでも完備なら、2 つは同値です[3]。
恒等写像を と見て、有界逆写像定理を当てるだけ。片側の不等式から、もう片側が自動で出ます。
完備なノルムを入れる入れ方は、実質ひととおりしかない。ノルムを変えたつもりでも、位相は変わらないことが多い、という主張です。
閉グラフ定理と同じもの
作用素のグラフを と書きます。
と がバナッハ空間なら、 が連続であることと が閉集合であることが同値です[2]。
閉であるとは、 かつ なら ということ。ふつうの連続性より仮定がひとつ多い形になっています[2]。
連続性を示すには「 なら が収束して になる」を言う必要があります。閉グラフなら「 が収束する」ことをただでもらえる。
この差があるので、閉グラフのほうが確かめやすい場面が多い[2]。開写像定理と閉グラフ定理は互いに導き合えて、実質は同じ定理です[3]。

と を仮定する
グラフが閉なので
が連続だと結論する
証明の骨格
ベールのカテゴリー定理から始めます[1]。 が全射なので、 は像 の可算合併で覆われる。
ベールの定理から、どれかの閉包 が内点を持ちます。線形性で原点へ移すと、 が原点まわりの球を含む。
ここまでは「ほとんど開」という弱い性質です。閉包が付いているぶん、まだ結論に届いていません。
閉包を外すのに の完備性を使います[1]。近似を繰り返し、誤差を半分ずつ縮めながら級数を組み立てる。その級数が で収束するので、閉包なしの包含が出ます。
証明の山場は、閉包を外すところにあります。
誤差を半分ずつ縮める級数を組み、 の完備性でその和を作る。
完備性が外せないこと
両方の空間の完備性が要ります[1]。片方でも欠けると崩れる。
有限個しか でない数列の全体に sup ノルムを入れ、 を考えます[1]。
は有界で全単射です。ところが逆写像は 番目の成分を 倍するので、有界ではありません。
定義域が完備でないので、有界逆写像定理が使えない。この空間を完備化して にすると、 は全射でなくなります。
フーリエ係数をとる写像でも同じことが見えます[3]。 から への写像は単射ですが全射でなく、逆が有界にならない。
全射なら開写像。全単射なら逆も有界。ノルムの同値も自動で出る
有界で全単射なのに逆が非有界、という例が作れる。定理の結論はどれも成り立たない
応用の見え方
方程式 の可解性を考えるとき、この定理が効きます。
が全射だと分かれば、解 は必ず存在します。しかも開写像なので、 を少し動かしたときの解の動きが の動きで押さえられる。
データの誤差が解の誤差に比例して収まる、という形になります。数値計算で言う安定性が、この不等式にあたる。
シャウダー基底の係数が連続に依存することも、同じ定理から出ます。展開係数をとる写像の有界性が、閉グラフ定理で片づく。
が有界線形で全単射のとき、 の有界性を言うのに必要なものはどれですか。
- が等長であること
- と がともにバナッハ空間であること
- がコンパクト作用素であること












開写像定理から有界逆写像定理が出ます。両方の完備性が要り、片方でも欠けると、有界な全単射で逆が非有界という例が作れます。