ノルムを保ったまま広げられる、ハーン・バナッハの定理
部分空間の上で決めた有界線形汎関数は、ノルムを変えずに空間全体へ延ばせます[1]。
をノルム空間 の部分空間、 を有界線形汎関数とすると、次を満たす が存在します[3]。
延ばせることだけなら、基底を継ぎ足せば済みます。ノルムが増えないところが、この定理のかなめ[2]。

劣線形関数で押さえる形
もとの形はノルムを使いません[1]。劣線形関数 で押さえる、というより一般的な言い方をします。
と ()を満たす を劣線形といいます。
の上の線形汎関数 が を満たすとき、 全体への線形な延長 で を保つものがある[3]。
ととればノルム版になります。 をもっと自由に選べるので、凸集合の分離などにも使えます[1]。
証明は 1 次元ずつ延ばして極大をとる
手続きは 2 段です[3]。まず、まだ全体でないなら 1 次元だけ延ばせることを示す。
をとり、 の上へ延ばします。 の値をどこに置けるかを調べると、押さえの条件から区間が定まり、その中から選べば条件が保たれる。
つぎに、条件を保つ延長の全体を包含で順序づけます。鎖の上界が作れるので、ツォルンの補題から極大元がある[2]。
極大元の定義域が 全体でなければ、1 段目でもう 1 次元延ばせて極大に反します。だから定義域は 全体[2]。
選択公理と同値なツォルンの補題を使う点が特徴です。具体的な延長を書き下す手続きにはなっていません。
系:ノルムを実現する汎関数がある
いちばんよく使う系です[1]。 に対し、次を満たす が存在します。
作り方は簡単で、 の上で と定め、定理で延ばすだけ[2]。
ここからノルムの双対的な表示が出ます。ふつうのノルムを、汎関数の側から測り直した形。
上限ではなく最大値と書けるところが、この系の内容です。 が反射的かどうかにかかわらず成り立ちます。
系:点を分離できる
なら、 となる があります[2]。差 にノルム実現の系を当てるだけ。
言い換えると、 が十分に豊富だということ。もしすべての で値が一致するなら、2 つのベクトルは同じもの。
双対空間が空っぽでないことも、ここから分かります。ハーン・バナッハがないと、 に 以外の元があるかどうかすら言えません[3]。
系:部分空間からの距離を測る
閉部分空間 と について、距離を実現する汎関数がとれます[2]。
商空間 の上で考えると見通しがよくなります。 をつぶした空間でノルム実現の系を使い、引き戻すだけ。
系として、 が稠密であることと、 の上で消える でない汎関数がないことが同値になる[2]。近似の議論でよく使う判定です。
から までの距離を測る
でノルムを実現する汎関数をとる
引き戻して 上で消える汎関数を得る
幾何の形:凸集合の分離
汎関数を超平面と読み替えると、幾何の主張になります[1]。
交わらない 2 つの凸集合があるとき、適切な条件のもとで、両者を分ける超平面が存在します。片方が開集合、あるいは片方がコンパクトでもう片方が閉、といった条件を付けます。
劣線形関数の版から出ます[3]。凸集合のミンコフスキー汎関数が劣線形になるので、そこへ定理を当てる。
最適化や凸解析では、この分離定理のほうがよく顔を出します。双対問題を立てる根拠になっている[1]。

で押さえる。延長がノルムを増やさない、という形になる
を自由に選べる。凸集合のミンコフスキー汎関数を使えば分離定理が出る
quiz で確かめる
ハーン・バナッハの定理がとくに主張しているのはどれですか。
- 部分空間の汎関数を全体へ延ばせること
- 延ばしてもノルムが増えないこと
- 延ばし方が一意であること












基底を継ぎ足すだけなら、線形な延長はいつでも作れます。ノルムを保ったまま延ばせるところが定理の内容で、延ばし方は一般に一意ではありません。