係数を内積ひとつで読み出す(正規直交基底とフーリエ展開)
ヒルベルト空間 のベクトルの族 が を満たすとき、正規直交系といいます[1]。
長さが で、互いに直交している。それだけの条件です。
この条件があると、係数が内積ひとつで読み出せます。 の両辺に を当てると、他の項が消えて だけが残る。
連立方程式を解く必要がありません。基底が直交していることの、いちばん分かりやすい御利益です。
ベッセルの不等式
有限個の が張る空間へ を射影すると、長さは増えません[3]。
を増やしても右辺は変わらないので、無限個でも同じ不等式が立ちます。係数の二乗和が収束することが、ここから分かる。
証明は を展開するだけ。引いた残りが直交補空間に落ちるので、ピタゴラスの定理が使えます。

完全であることの同値な言い方
系が「基底」と呼べるかどうかは、次のどれかで判定します[1]。どれも同値。
3 番目がいちばん確かめやすい場面が多い。「この系と直交するものは だけか」を見るだけで済みます。
完全な正規直交系を正規直交基底と呼びます[1]。ただしハメル基底とは別物で、有限和では書けません。無限和が要ります[1]。
無限和を許す。係数は内積で読め、パーセバルの等式が成り立つ
有限和しか許さない。無限次元では非可算個になり、具体的に書けない
パーセバルの等式と展開
完全な系のもとでは、ベッセルの不等式が等式になります[3]。
右の展開は のノルムで収束します。各点収束ではないところが、関数空間では効いてくる。
内積そのものも係数だけで書けます。極化して並べれば出る形。
情報が係数に全部移った、と読めます。ベクトルの側で計算するか、係数の側で計算するかを選べる。
例:三角関数系
で ()は正規直交基底になります[1]。
直交性は積分で確かめられます。 なら 。
完全性のほうは、三角多項式が で稠密であることから出ます。フーリエ級数の理論そのもの[4]。
係数 がフーリエ係数で、パーセバルの等式が次の形になります。
エネルギーが時間の側でも周波数の側でも同じ、という言い方をされる関係です。
例:ルジャンドル多項式
で、単項式 にグラム・シュミットを当てます[1]。
出てくる多項式がルジャンドル多項式です。正規化を除くと次のように並ぶ。
多項式が で稠密なので、この系は完全になります。フーリエ級数の多項式版として使える。
可分性と との同型
可算な正規直交基底を持つことと、 が可分であることは同値です[1]。
可算な基底があれば、有理係数の有限和が可算な稠密集合になる。逆に可分なら、稠密列にグラム・シュミットを当てて基底が作れます。
基底があると、係数の列をとる写像で と同一視できます[2]。
パーセバルの等式から、この対応はノルムを保ちます。内積まで保つので、等長同型というより内積を保つ同型。
可分な無限次元ヒルベルト空間は、どれも と同じもの、ということになります。関数空間も数列空間も、この見方では区別がありません。
正規直交系を用意する
完全かどうかを直交するものが だけかで判定する
係数の列をとって と同一視する
係数の落ち方が滑らかさを表す
展開係数の減り方には意味があります。滑らかな関数ほど、高い番号の係数が速く落ちる。
区分的に滑らかで跳びのある関数だと、フーリエ係数は 程度でしか落ちません。跳びがなく連続に微分できるなら、もっと速く落ちる。
パーセバルの等式は、二乗和が有限であることまでしか言いません。落ち方の速さは、関数の滑らかさを別に調べて分かること。
係数の二乗和が有限であることと、級数が各点で収束することは別の話です。
の収束はノルムの意味で、各点での挙動は保証しない。
quiz で確かめる
正規直交系が完全であることを確かめるのに、いちばん手軽な条件はどれですか。
- 張る空間が 全体に一致する
- すべての と直交するベクトルが だけである
- 各点収束する展開が書ける










張る空間が全体と一致することまでは要らず、稠密であれば足ります。実際の判定では、直交するものが 0 しかないことを見るほうが軽い場合が多くなります。