連続な汎関数はどれも内積のかたち……リースの表現定理
ヒルベルト空間 の上の有界線形汎関数は、どれも内積の形に書けます[3]。
に対し、次を満たす がただひとつ存在します。
汎関数という抽象的な対象が、ベクトル 1 本に置き換わる。しかもノルムまで一致します[1]。
一般のバナッハ空間では、 と のあいだに自然な対応がありませんでした。内積が入ると、その壁が消えます[2]。

証明
なら でよいので、 とします[3]。
は の真の閉部分空間です。閉であるのは が連続だから。直交分解から、 と直交する でないベクトル がとれます。
という直交直和になる。 をこの形に分けて と内積をとると、係数が読める。
なので 。ここへ を代入して整理すると、 の形が出ます。
一意性は差をとれば出ます。 がすべての で成り立てば、 とおいて 。
の核が閉部分空間になる
直交分解でその補空間から をとる
の定数倍として が定まる
対応は反線形
から への写像 は、実の場合は線形です。複素の場合は共役が付きます[2]。
スカラー倍で共役がかぶるので、線形ではなく反線形。ノルムは保つので、反線形な等長全単射という言い方になります[2]。
実の場合はこの手間がありません。 と が線形に等長同型で、自己双対と呼ばれます[1]。
例: の汎関数
の上の有界線形汎関数は、どれも掛けて積分する形になります[3]。
の の場合にあたります。ヘルダーの不等式を使う一般論と、内積を使う議論の行き先が一致する。
フーリエ係数をとる汎関数も同じ形[3]。 で、表現するベクトルが そのもの。 になります。
例:評価汎関数は に入らない
すべての汎関数が内積で書けるなら、1 点での値を返す汎関数はどうなるか、という疑問が出ます。
の元は a.e. で同一視した同値類なので、1 点での値がそもそも定まらない。答えは、評価汎関数をそもそも作れないということ。
定義できる空間もある。点での評価が有界になるヒルベルト空間を再生核ヒルベルト空間といい、そこでは表現するベクトルが再生核と呼ばれます。
1 点の値が定まらない。評価汎関数を作れない
点での評価が有界。表現定理から出るベクトルが再生核になる
例:有限次元での見え方
に標準の内積を入れると、汎関数は行ベクトルとの掛け算になります。
線形代数で「行ベクトルと列ベクトル」と呼び分けていたものが、内積を通して同じ空間の住人になる。双対基底が標準基底と一致するのも、この同一視のおかげです。
一般のバナッハ空間では、この一致が起きません。 と の対応が基底の選び方に依存してしまう[2]。

弱収束の言い換え
表現定理があると、弱収束の定義がすっきりします。
が に弱収束するとは、すべての で になること。表現定理でこれを内積に書き換えられます。
どの向きから見ても成分が収束する、という読み方になる。ノルム収束より弱い条件で、 が に近づく保証はありません。
正規直交系 は に弱収束します。ベッセルの不等式から が出るのに、 のまま。弱収束とノルム収束の差が、いちばん短く見える例です。
応用:弱形式とラックス・ミルグラム
偏微分方程式を弱形式で書くと、汎関数と双線形形式の言葉になります。
が有界で強圧的なら、この方程式に解がただひとつ存在する。ラックス・ミルグラムの定理です。
が内積そのものならリースの表現定理と一致します。表現定理を、対称でない双線形形式まで広げた形になっている。
有限要素法の理論はこの枠の上に立っています。近似解の存在と誤差評価が、同じ道具から出る。
応用:共役作用素の定義
有界作用素 に対し、共役作用素 を定めるのにも表現定理を使います[3]。
を固定すると は有界線形汎関数です。表現定理から、これを と書くベクトル がただひとつ定まる。
と定めれば、共役作用素ができあがります。定義がうまくいくのは、汎関数が必ずベクトルで表せるから[3]。
自己共役、ユニタリ、正規といった作用素の分類も、この定義の上で書かれます。
共役作用素の定義は、表現定理をベクトルごとに使うという形をしています。
各 について汎関数を作り、それを表すベクトルを と名づける。
quiz で確かめる
リースの表現定理から、 と の関係はどうなりますか。
- 線形な等長同型がある(複素の場合も含めて)
- 反線形な等長全単射がある
- 同型は基底の選び方に依存する











y から ⟨⋅,y⟩ への対応はノルムを保つ全単射ですが、複素の場合はスカラー倍で共役がかぶります。基底を選ばずに決まるところが、一般のバナッハ空間との違いです。