いちばん近い点はどこにあるのか?射影定理と最良近似
ヒルベルト空間 の空でない閉凸集合 と、任意の をとります。 の中で にいちばん近い点が、ただひとつ存在します[1]。
存在も一意性も、有限次元では当たり前に見えます。無限次元では、閉であることと凸であることの両方が要ります。
閉でないと最短の点が集合の外へ逃げ、凸でないと候補が複数になる。 が単位球面のとき、中心からの最近点が球面じゅうにあることを思えば分かります。

最近点の見分け方
最近点かどうかは、不等式ひとつで判定できます[1]。変分不等式と呼ばれる形です。
から のどの点へ向かっても、 との角度が鈍角になる。 の内側へ進むと から遠ざかる、という意味です。
が閉部分空間なら、条件がもっときれいになります。 が部分空間じゅうを動けるので、不等式が等式に締まる[1]。
残り が と直交する、というだけの条件です。最短距離を与える点から下ろした線が垂直、という素朴な図がそのまま定理になっている。
直交射影という作用素
を閉部分空間とし、 にその最近点を返す写像を と書きます[3]。
は線形で、次の 2 つを満たします[2]。この 2 つが直交射影の定義になっている[3]。
1 つ目は、すでに にある点を写しても動かないこと。2 つ目は自己共役で、内積のどちら側に置いても同じ、という性質です。
ノルムは になります[3]。コーシー・シュワルツの不等式から が出て、 の点で等号が立つ。
も直交射影で、像が になります[3]。空間が 2 つに分かれる。
かつ自己共役。ノルムは で、最短距離を与える
だけ。斜めに落とす写像で、ノルムが より大きくなりうる
応用:最小二乗法
データ点にいちばん合う直線を引く問題は、そのまま射影。
観測を 、モデルの張る空間を の列空間とすると、残差を最小にする は をその空間へ射影した点になります。
直交条件がそのまま正規方程式です。残差 が列空間と直交する、と書けばよい。
線形代数で公式として覚える式が、射影定理の言い換えになっています。

応用:フーリエ部分和は最良近似
正規直交系 が張る空間への射影は、係数を内積で読むだけで書けます。
これがその空間の中での最良近似になります。別の係数を使うと、必ず誤差が大きくなる。
フーリエ級数の部分和が「最もよい三角多項式近似」と呼ばれるのは、この意味です。係数を後からとり替える必要がない。
誤差の大きさも書けます。ピタゴラスの定理から、二乗誤差が残った係数の二乗和になる。
応用:条件付き期待値
確率空間 で、部分 σ 加法族 をとります。
可測な二乗可積分関数の全体は閉部分空間です。そこへの直交射影が、条件付き期待値 にあたる。
最良近似という読み方ができます。 で分かる情報だけを使って を当てるとき、二乗誤差を最小にする予測がこれ。
直交条件は、残差が 可測な量と相関を持たない、という形になります。予測できる部分を残していない、という意味。
で分かる量の全体をとる
閉部分空間になるので射影できる
射影が条件付き期待値になる
射影として読むと、条件付き期待値の性質が幾何の言葉に戻ります。
繰り返し期待値の法則は 、つまり射影を 2 回かける話。
quiz で確かめる
閉部分空間 への最近点 を特徴づける条件はどれですか。
- が成り立つ
- が のすべての元と直交する
- が の内点である









閉凸集合なら変分不等式で特徴づけられ、M が部分空間ならその不等式が等式に締まります。残りが部分空間と直交すること。それが最近点の条件です。