バナッハ空間は「完備なノルム空間」と定義されますが、この「完備」という性質がなぜ重要なのかを具体例で説明します。
完備性がないと何が困るか
有理数 は完備ではありません。たとえば
という数列は に近づいていきますが、 は有理数ではありません。この数列はコーシー列(項どうしがいくらでも近づく)なのに、 の中に極限が存在しないのです。
完備な空間では、このような「行き先のないコーシー列」が存在しません。すべてのコーシー列がちゃんと空間内の点に収束します。
解析学で完備性が必要な理由
関数解析では、近似列を作って極限をとる議論が頻繁に登場します。
微分方程式の解の構成
ピカールの逐次近似法では、関数列 を作り、その極限として解を得ます。空間が完備でないと、極限が存在する保証がありません。
フーリエ級数の収束
空間でフーリエ級数が収束するのは、 が完備だからです。完備でない空間では、級数が「どこにも収束しない」可能性があります。
完備化という救済措置
完備でない空間は「完備化」できます。 を完備化すると が得られるように、ノルム空間を完備化するとバナッハ空間になります。
しかし最初から完備な空間で議論するほうが便利なので、関数解析ではバナッハ空間を舞台にすることが多いのです。
完備性の確認方法
空間が完備かどうかを直接確認するのは大変です。よく使われる事実として
| , | 常に完備 |
| 閉部分空間 | 完備な空間の閉部分空間は完備 |
| (sup ノルム) | 完備 |
| 空間 | 完備 |
「この空間はバナッハ空間である」という事実を知っておくと、極限操作を安心して行えます。