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English

双対空間はベクトルを測る道具の集まりだと思えばいい

双対空間 は、 の上の有界線形汎関数を全部集めたものです[1]

汎関数はベクトルを入れると数をひとつ返します。この数を「ある側面を測った結果」と読むと、 が測定器の棚に見えてくる。

なら、 成分を 倍、 成分を 倍して足した量を測っています。 成分のほうは見ていない。

測定器を替えると、同じベクトルから別の数が返ります。1 台では分からないことも、たくさん当てれば見えてくる。

測定器はどれくらいそろっているか

道具として使えるかどうかは、そろい方で決まります。2 つのベクトルを区別できる測定器があるか、という問いが出発点。

ハーン・バナッハの定理が、これを保証します[3] なら、 となる が必ずある。

もっと強いことも言えます。どの にも、ちょうどその長さを読みとる測定器がある[3]

ノルムを「いちばん都合のよい測定器で読んだ値」と言い直せます。

この保証がないと、双対空間が空っぽかもしれない、という心配が残ります。定理があってはじめて、道具として数えられる[5]

弱収束は「どの測定器でも近づく」

測定器の言葉で書き直すと、意味の見えやすくなる概念があります。弱収束がそれです[4]

に弱収束するとは、どの測定器で測っても値が近づくこと。

ノルムでの収束より弱い条件です。値がそろっていくのに、ベクトルそのものは近づかないことがある。

の標準基底 が分かりやすい例。どの についても なので、 に弱収束します。

ところが のままで、 に落ちません。どの測定器でも に見えるのに、長さは変わっていない。

ノルム収束

ベクトルそのものが近づく。強い条件で、弱収束を含む

弱収束

どの測定器で測っても値が近づく。長さが落ちないままでも起こりうる

作用素を測定器の側から見る

があるとき、 の測定器を の測定器に引き戻せます[1]

に対し、 をまず で送ってから で測る、という手続きを考える。合わせて 1 台の測定器になります。

これが共役作用素 です。向きが逆になるところが要点。 から への作用素が、 から への作用素を生みます。

ノルムは変わりません。 が成り立ちます[5]

側の測定器を選ぶ

で送ってから測る手続きを作る

側の測定器がひとつできる

測定器の棚から空間を見分ける

双対をとると、もとの空間の性質が見えます[1]

の測定器は の元で書けます()。 でも同じで、 なら自分自身が測定器の棚になる[2]

になると事情が変わります。積分する測定器だけでは足りず、1 点での値を返す測定器も入る。棚の正体はラドン測度の空間です[5]

もう一段進めて、測定器の測定器を考えることもできます。 をとって、もとの がそこに収まりきるかどうかを見る。収まりきるとき、 を反射的といいます[4]

測定器の棚が 。反射的
棚は 。反射的でない
棚はラドン測度の空間。反射的でない
ヒルベルト空間棚が自分自身。反射的

双対をとる操作は、空間を外から眺め直すことにあたります。

中身を直接いじる代わりに、測った値の集まりで空間の性質を読む。

何がうれしいのか

測定器の側へ移ると、扱いにくい対象が扱いやすくなります。

無限次元では、有界な列から収束する部分列がとれるとは限りません。ところが弱収束まで許すと、反射的な空間では必ずとれる[4]

最適化で解の存在を言うときに、この違いが効いてきます。強い意味では収束しなくても、弱い意味で収束先を用意できる。

微分方程式の弱解も同じ発想です。方程式をそのまま解く代わりに、測定器で測った等式が成り立つものを解と呼ぶ。

の標準基底 について正しいものはどれですか。

  • ノルムでも弱い意味でも に収束する
  • 弱い意味では に収束するが、ノルムでは収束しない
  • どちらの意味でも収束しない
__RESULT__

どの でも なので、弱収束します。ところが のままなので、ノルムでは に近づきません。

よくある誤り

双対空間が空っぽの可能性を気にしない。ハーン・バナッハの定理が中身を保証しています。
代数的双対と位相的双対を区別しない。無限次元では大きさが違います。
弱収束からノルム収束が出ると思う。標準基底が反例です。
共役作用素の向きをとり違える。 から の作用素が、 から の作用素を生みます。
の測定器が積分だけだと思う。1 点での値を返すものも入ります。
がいつも一致すると思う。反射的な空間でだけです。
測定器を増やしても情報が増えないと思う。点を分離できるだけの数がそろっています。

参考文献

Dual space. Wikipedia(英語).
Dualraum. Wikipedia(ドイツ語).
Hahn–Banach theorem. Wikipedia(英語).
Reflexive space. Wikipedia(英語).
J. K. Hunter, B. Nachtergaele. *Applied Analysis*, Chapter 5: Banach Spaces. University of California at Davis.
有界線形汎関数は、ベクトルを入れると数をひとつ返す測定器です。それを全部そろえた棚が双対空間。ハーン・バナッハの定理が「どの 2 点も区別できる測定器がある」ことを保証し、ノルムがいちばん都合のよい測定器の読みとして書き直せます。すべての測定器で読みが近づく弱収束が、ノルム収束より弱いこと。作用素を測定器の側へ引き戻す共役作用素と、棚の形から空間の反射性を読むところまで。