x=(1,21,31,…) を ℓ1 で測ると、∑n1 が発散します。ℓ2 で測れば ∑n21=6π2 で有限。
同じ数列でも、p を替えると入る空間と入らない空間に分かれる。p が大きいほど条件はゆるくなります。
ℓp 空間の定義
実数列 x=(x1,x2,x3,…) に対して、1≤p<∞ のときのノルムを次で定めます。
∥x∥p=(n=1∑∞∣xn∣p)1/p
これが有限になる数列の全体が ℓp です。p=∞ では、和のかわりに上限をとる。
∥x∥∞=nsup∣xn∣
有界な数列の全体が ℓ∞ になります。
例:n1 を 3 通りで測る
| ℓ1 | ∑n1 が発散し、x∈/ℓ1 |
| ℓ2 | ∑n21=6π2 で ∥x∥2=6π |
| ℓ∞ | supnn1=1 で ∥x∥∞=1 |
p が 1 から 2 へ動いただけで、外にいた数列が中に入りました。
p を大きくすると空間は広くなる
p<q なら ∥x∥q≤∥x∥p が成り立ち、この 1 本から包含 ℓp⊂ℓq が導けます。
x=0 とし、y=∥x∥px とおきます。∥y∥p=1 だから、どの成分も ∣yn∣p≤1、つまり ∣yn∣≤1。
1 以下の数は、指数を大きくすると小さくなります。q>p なので ∣yn∣q≤∣yn∣p で、和をとると次のようになる。
n=1∑∞∣yn∣q≤n=1∑∞∣yn∣p=1
∥y∥q≤1 です。x に戻せば ∥x∥q≤∥x∥p になる。
右辺が有限なら左辺も有限。だから ℓp の数列は ℓq にも入ります。
q=∞ でも同じ形になる。∣xn∣p≤∑k∣xk∣p から ∥x∥∞≤∥x∥p が導けます。
例:すき間に入る数列
包含は真です。xn=n−1/p とおくと、ℓp には入らないのに ℓq には入る。
p 乗すると ∣xn∣p=n1 で、和は発散します。q 乗すると ∣xn∣q=n−q/p になり、pq>1 だから収束する。
p=1 なら xn=n1、p=2 なら xn=n1 です。冒頭の数列は、ℓ1 と ℓ2 のすき間にいました。
ℓ2 だけが内積から来る
ℓ2 には内積が入ります。
⟨x,y⟩=n=1∑∞xnyn
コーシー・シュワルツの不等式から和は絶対収束し、⟨x,x⟩=∥x∥22 になる。
ほかの p では、この形が置けません。内積から来るノルムは中線定理 ∥x+y∥2+∥x−y∥2=2∥x∥2+2∥y∥2 を満たすので、e1 と e2 で試します。
e1+e2=(1,1,0,…)、e1−e2=(1,−1,0,…) で、どちらも p ノルムは 21/p。左辺と右辺を並べます。
2⋅(21/p)2=21+2/p,2(1+1)=22
等しくなるのは 1+p2=2、つまり p=2 のときだけです。p=∞ では左辺が 2、右辺が 4 で合わない。
中線定理が破れればノルムは内積から来ません。ℓp のノルムを与える内積は、p=2 以外には存在しない。
ℓp は完備
1≤p≤∞ のどれでも ℓp は完備です[1]。有限 p で確かめます。
(x(m))m を ℓp のコーシー列とします。成分ごとに ∣xn(m)−xn(l)∣≤∥x(m)−x(l)∥p が成り立つ。
n を止めると (xn(m))m は R のコーシー列です。R は完備だから極限が決まり、それを xn とおく。
次に、この x が行き先になることを見ます。ε>0 をとり、m,l≥N なら ∥x(m)−x(l)∥p≤ε となる N を選ぶ。
どの K についても、有限個の和は次で押さえられる。
n=1∑Kxn(m)−xn(l)p≤εp
l→∞ とすると、左辺は ∑n=1K∣xn(m)−xn∣p になる。K は何でもよいので、無限和にしても εp を超えません。
つまり ∥x(m)−x∥p≤ε です。x=x(m)−(x(m)−x) と書けば、右の 2 つがどちらも ℓp の元だから x も ℓp に入る。
行き先が同じ空間の中にあり、ℓp はバナッハ空間になります。
双対空間
1≤p<∞ のとき、ℓp 上の有界線形汎関数は ℓq の数列との内積の形に書けます[2]。
| 空間 | 双対空間 | | ℓ1 | ℓ∞ |
| ℓp(1<p<∞) | ℓq(1/p+1/q=1) |
ℓ2 の双対は ℓ2 自身、ℓ3 の双対は ℓ3/2 です。p と q は、足して 1 になる逆数の組で対応する。
表に ℓ∞ がないのは、そこだけ形が違うためです。ℓ∞ の双対は ℓ1 より真に大きく、ℓ1 の数列では書けない汎関数があります。
xn=3n1 が入るのはどれですか。
__RESULT__
p 乗すると n−p/3 になり、和が収束するのは 3p>1、つまり p>3 のときです。ℓ4 には入り、ℓ1 と ℓ2 には入りません。
ℓ3 のノルムを与える内積が存在しないのは、なぜですか。
- ℓ3 が完備でないから
- e1 と e2 で中線定理が破れるから
- ℓ3 の双対が ℓ3 でないから
__RESULT__
左辺が 21+2/3、右辺が 22 で食い違います。ℓ3 は完備ですし、双対が自分自身でない空間にも内積が入ることはあるので、ほかの 2 つは理由になりません。
まちがえやすい点
p が大きいほど空間が狭くなると思う。数列の空間では逆で、広くなります。
有限次元の感覚で ℓ1 と ℓ2 を同じ集合だと思う。住んでいる数列が違います。
ℓp のどれにも内積が入ると思う。ノルムを与える内積があるのは p=2 だけです。
ℓ∞ の双対を ℓ1 だと思う。表の対応は p<∞ でだけ成り立ちます。
p を動かすと、ノルムの値だけでなく空間の中身が入れかわります。どこまでゆるめるかを p が決めていて、p=2 のところにだけ内積が乗る。
参考
J. K. Hunter, B. Nachtergaele. *Applied Analysis*, Chapter 5: Banach Spaces. University of California at Davis.
$x = \left(1, \frac{1}{2}, \frac{1}{3}, \dots\right)$ は $\ell^2$ に入りますが $\ell^1$ には入りません。$p$ が大きいほど条件はゆるみ、$\|x\|_q \le \|x\|_p$ から包含 $\ell^p \subset \ell^q$ が導ける。すき間を埋めるのは $x_n = n^{-1/p}$ で、$p$ 乗すると $\sum 1/n$ になって発散する。$e_1$ と $e_2$ で中線定理を計算すると左辺が $2^{1+2/p}$、右辺が $2^2$ になり、等号は $p = 2$ のときだけ成り立ちます。完備であることの証明と、双対が $\ell^q$ になる対応まで。
p 乗すると n−p/3 になり、和が収束するのは 3p>1、つまり p>3 のときです。ℓ4 には入り、ℓ1 と ℓ2 には入りません。