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ハーン・バナッハの定理|保証されることと、されないこと

に を入れ、 軸の上で とします。このノルムで測ると 。

これを平面全体へ、ノルムを のまま広げる方法は 1 つではありません。無限にある。

ハーン・バナッハの定理は、そのうち少なくとも 1 つが存在すると言います。どれになるかは言いません。

拡張は 1 つに決まらない

軸を含む拡張は の形です。ノルムを計算します。

ならどれも で、もとの とノルムが同じ。拡張は無限にあります。

ユークリッドノルム を入れた平面で同じ を広げると、ノルムの計算はこうなる。

これが になるのは だけで、拡張はひととおりに決まります。

分かれ目は双対の単位球の形にある。ノルムを保つ拡張がつねに一意になるのは、双対が狭義凸のときちょうどだと分かっています[2]。

有界でなければ広げられない

定理が要求するのは、もとの汎関数が部分空間の上で有界なことです。ここを外すと拡張は存在しない。

に最大値ノルムを入れ、 を微分可能な関数の全体とします。 の上で と定める。

線形ではありますが、有界ではない。次の関数を並べると分かります。

高さは で、 とともに へ近づきます。ところが だから、原点での値は 。

比をとると で、いくらでも大きくなる。 に有限のノルムはありません。

連続な が を広げたものだとすると、 の上で になります。これは が有界だという意味なので、そんな は存在しない。

証明は構成的でない

証明は、部分空間を 1 次元ずつ延ばし、その手続きの極大なものをとる形で進みます。極大なものがあることは、ツォルンの補題が保証します[1]。

ツォルンの補題は選択公理と同値です。だから拡張の存在は言えても、どれか 1 つを書き下すことはできません[1]。

集合論での位置も分かっています。選択公理は超フィルター定理を導き、超フィルター定理はハーン・バナッハの定理を導く。逆向きはどちらも成り立ちません[2]。

ZF の公理だけからは示せず、選択公理よりは弱い。そういう位置にある定理です。

書き下せない汎関数

収束する数列の全体を と書きます。 の部分空間です。

の上で は線形で、 だから有界。 で等号になるため、ノルムは です。

ハーン・バナッハの定理で、これをノルム のまま 全体へ広げます。得られた は、 のような収束しない数列にも値を返す。

この は の数列では書けません。 と書けたとして、 を第 成分だけ の数列とおく。

は に入り、その極限は です。だから が全部の で成り立ち、 は恒等的に になる。

ところが です。 では書けないと分かりました。

存在は言えたのに、どんな数列なのかは書けない。ハーン・バナッハの定理で得られるものは、たいていこの形です[1]。

の上で線形だが有界でない汎関数を、ノルムを保って全空間へ広げられますか。

  • 広げられる
  • 広げられない
  • 空間が完備なら広げられる
__RESULT__

保つべきノルムが有限の値をもちません。連続な拡張があれば、もとの汎関数が有界だったことになるので、そもそも存在しない。完備かどうかは関係ありません。

ノルムを保つ拡張が 1 つに決まるのは、どんなときですか。

  • もとの部分空間が閉のとき
  • 双対の単位球に平らな縁がないとき
  • 空間が有限次元のとき
__RESULT__

ノルムを入れた は有限次元で、部分空間も閉ですが、拡張は無限にありました。効いているのは双対の単位球の形で、狭義凸なら一意に決まります。

存在は保証されるが、一意でもなく、書き下せもしない。ハーン・バナッハの定理を使う議論では「そういう汎関数がある」という一行だけを持ち出して、その先は中身に触れずに進みます。

参考

Christian Clason. *Einführung in die Funktionalanalysis*. Universität Graz.
Lawrence Narici, Edward Beckenstein. *The Hahn-Banach Theorem: The Life and Times*. 2002.
$x$ 軸の上の $f(a, 0) = a$ を、$1$ ノルムを入れた $\mathbb{R}^2$ へノルムを保って広げる方法は、$F_\lambda(a, b) = a + \lambda b$ の $|\lambda| \le 1$ のぶんだけあります。ユークリッドノルムなら $\lambda = 0$ の 1 つに決まる。分かれ目は双対の単位球に平らな縁があるかどうかです。有界でない汎関数は広げられません。$f'(0)$ を最大値ノルムで測ると、比がいくらでも大きくなる。証明はツォルンの補題を使うため拡張を書き下せず、$c$ 上の $\lim$ を $\ell^\infty$ へ広げた汎関数が $\ell^1$ の数列で書けないところまで。