ハーン・バナッハの定理は「部分空間上の線形汎関数を全空間に拡張できる」という主張ですが、これがなぜ重要なのかを説明します。
問題設定
ノルム空間 の部分空間 上で、良い性質をもつ線形汎関数 が定義されているとします。これを 全体に拡張したいのですが、できるでしょうか?
線形性を保つ拡張は無数にありますが、ノルムを保つ()拡張があるかどうかは自明ではありません。ハーン・バナッハの定理は、それが可能だと保証します。
なぜうれしいのか
双対空間の「大きさ」の保証
が十分に多くの元をもつことを保証します。これがないと、双対空間が貧弱すぎて役に立ちません。
点の分離
なら、 となる汎関数 が存在します。つまり、双対空間は点を区別できるほど豊富です。
部分空間の特徴づけ
閉部分空間 は、 上で になる汎関数すべてで になる元の集合として記述できます。
具体的な応用例
(sup ノルム)、 とします。 上の汎関数
は、微分可能な関数からなる部分空間で定義されています。ハーン・バナッハにより、これを 全体に(ノルムを保って)拡張できます。
存在定理としての性格
ハーン・バナッハの定理は「拡張が存在する」ことを言うだけで、具体的な拡張を構成しません。証明にツォルンの補題(選択公理)を使うためです。
うれしい点
どんな状況でも拡張が存在することが保証される。
困る点
具体的に拡張を書き下すことはできないことが多い。
双対空間を使った議論では「そういう汎関数が存在する」ということ自体が強力なツールになります。