リースの表現定理は「ヒルベルト空間上の有界線形汎関数はすべて内積で表せる」という主張です。この定理が意味することを解説します。
定理の主張
ヒルベルト空間 上の任意の有界線形汎関数 に対して、一意の が存在して
これが意味すること
双対空間の完全な記述
の元は の元で完全にパラメトライズされます。 と は「同じもの」と見なせます(共役線形同型)。
汎関数の具体化
抽象的な「汎関数」が、具体的なベクトル との内積として書けます。 を見つければ が完全にわかります。
自己双対性
ヒルベルト空間は自分自身と双対的です。これは一般のバナッハ空間にはない特別な性質です。
対比:バナッハ空間の場合
の双対空間は です。これらは全く異なる空間で、 とはなりません。
の双対空間は 自身です。リースの表現定理が効いています。
具体例
上の汎関数 を考えます。
リースの表現定理より、 となる が存在します。
比較すると ( は実空間とする)がわかります。
応用
| 量子力学 | 状態とオブザーバブルを同じヒルベルト空間で扱える |
| 変分問題 | 汎関数の勾配をヒルベルト空間内のベクトルとして特定 |
| 偏微分方程式 | 弱解の存在証明に使われる |
リースの表現定理によって、ヒルベルト空間では「双対」を考える必要がほとんどなくなります。空間自体が十分に豊かな構造をもっているからです。これがヒルベルト空間の扱いやすさの一因です。