バナッハ空間とヒルベルト空間は関数解析の二大主役です。両者の違いと関係を整理します。
定義の違い
バナッハ空間
完備なノルム空間。ノルムは「長さ」を測るが、「角度」は測れない。
ヒルベルト空間
完備な内積空間。内積から でノルムが定まる。角度や直交も定義できる。
すべてのヒルベルト空間はバナッハ空間ですが、逆は成り立ちません。
判定方法:平行四辺形の法則
ノルムが内積から来ているかどうかは、平行四辺形の法則
で判定できます。これを満たせばヒルベルト空間、満たさなければ「バナッハ空間だがヒルベルト空間ではない」です。
| 空間 | ヒルベルト空間か |
|---|---|
| ○ | |
| ○ | |
| () | × |
| (sup ノルム) | × |
構造の豊かさ
ヒルベルト空間には追加の構造があります。
直交性
で直交を定義。バナッハ空間では「直交」は意味をもちません。
正規直交基底
どんな元も正規直交基底で展開できます(フーリエ展開の一般化)。
射影定理
閉凸集合への最良近似が一意に存在します。バナッハ空間では存在も一意性も保証されません。
リースの表現定理
が成り立ちます。バナッハ空間では一般に です。
どちらを使うか
ヒルベルト空間で済む問題ならヒルベルト空間を使うべきです。構造が豊かなので、多くの定理が使えます。
しかし ()や など、自然にバナッハ空間になる状況も多いです。そのときはバナッハ空間の理論を使います。
量子力学やフーリエ解析ではヒルベルト空間(主に )が中心で、偏微分方程式の弱解理論ではソボレフ空間(ヒルベルト空間の場合とバナッハ空間の場合がある)を使います。