線形代数で学ぶ有限次元空間と、関数解析で扱う無限次元空間では、成り立つ性質が大きく異なります。何が変わるのかを整理します。
有限次元で当たり前、無限次元で成り立たないこと
すべての線形写像が連続
有限次元ではすべての線形写像が有界(連続)です。無限次元では有界でない線形写像が存在します(例:微分作用素)。
ノルムの同値性
有限次元では任意の2つのノルムが同値です。無限次元では同値でないノルムが存在します。
閉球のコンパクト性
の閉球はコンパクト(ハイネ・ボレル)。無限次元では閉球はコンパクトではありません。
全射=単射
有限次元では、線形写像が全射であることと単射であることは同値です。無限次元では片方だけが成り立つことがあります。
具体例
シフト作用素 , を考えます。
は単射ですが全射ではありません( は像に入らない)。
有限次元の行列では、単射なら正則なので全射でもありますが、無限次元ではこれが崩れます。
閉球がコンパクトでない例
の単位閉球 を考えます。点列 (標準基底)はすべて単位閉球内にありますが
なので、収束する部分列をもちません。コンパクト性が成り立ちません。
無限次元で新たに必要になること
| 有限次元 | 無限次元 |
|---|---|
| 当然成立 | 完備性の確認が必要 |
| 当然成立 | 有界性の確認が必要 |
| 当然成立 | 閉グラフ定理で連続性を示す |
| コンパクト性あり | 弱コンパクト性で代用 |
有限次元の直感は出発点として有用ですが、無限次元では「追加の条件」が必要になることが多いです。関数解析の基本定理(ハーン・バナッハ、一様有界性原理、開写像定理など)は、この追加の構造を与えてくれます。