コンパクト作用素の定義と基本性質
コンパクト作用素は、有界線形作用素のなかでも「有限次元的な振る舞い」に近い性質をもつ特別なクラスだ。無限次元空間の解析において中心的な役割を果たす。
コンパクト作用素の定義
ノルム空間 , の間の有界線形作用素 が コンパクト作用素 であるとは、 の任意の有界列 に対して、像の列 が で収束する部分列をもつことをいう。
同値な言い換えとして、 の単位球 の像 が で相対コンパクトである、という表現もよく使われる。
ノルム空間 から へのコンパクト作用素全体を と書く。
有界作用素との関係
すべてのコンパクト作用素は有界だが、逆は成り立たない。有界性は「球を球に写す」程度の条件だが、コンパクト性は「球をコンパクト集合に写す」というはるかに強い要請になっている。
有界列の像がふたたび有界列になる。拡大率に上限があるということ。
有界列の像から収束する部分列が取れる。像が「散らばりすぎない」ということ。
有限次元空間では有界閉集合がコンパクトになるため、すべての有界線形作用素がコンパクトになる。コンパクト作用素が真に意味をもつのは無限次元の場合だ。
基本性質
コンパクト作用素は、代数的にも位相的にも扱いやすい構造をもっている。
まず、コンパクト作用素全体 は (有界線形作用素全体)の線形部分空間になる。すなわち、 がコンパクトならば もコンパクトであり、スカラー倍や和で閉じている。
さらに、合成に関しても良い性質がある。 がコンパクトで が有界ならば、 も もコンパクトになる。直感的には、一度コンパクト作用素を通ると像が「ぎゅっと詰まる」ため、その後に有界作用素をかけても詰まったままだ。
, ならば
, ならば 。逆順も同様。
がバナッハ空間ならば は の閉部分空間になる。
最後の「閉部分空間」という性質は特に重要だ。コンパクト作用素の作用素ノルムでの極限がふたたびコンパクトであることを意味しており、有限ランク作用素による近似理論の基礎となる。
有限ランク作用素との関係
像の次元が有限な有界線形作用素を 有限ランク作用素 という。有限ランク作用素は常にコンパクトだ。有限次元空間では有界集合の閉包がコンパクトになるためである。
逆方向として、ヒルベルト空間上のコンパクト作用素は有限ランク作用素の作用素ノルムでの極限として表せる。つまり、コンパクト作用素は「有限ランク作用素で好きなだけ精密に近似できる作用素」と理解できる。
ここで は有限ランク作用素全体を表す。一般のバナッハ空間ではこの近似性質が成り立つとは限らず、これが成り立つかどうかは 近似性質(approximation property)と呼ばれる深い問題につながる。
恒等作用素とコンパクト性
無限次元ノルム空間 上の恒等作用素 はコンパクトでない。これは、無限次元空間では単位球がコンパクトでないことの直接的な帰結だ。
この事実は一見当たり前に思えるが、重要な意味をもっている。コンパクト作用素が恒等作用素から「離れている」ことを示しており、フレドホルム理論では ( がコンパクト)の形の作用素が主役になる。