何回割れるかだけを測る環〜離散付値環と一様化元
割り切れる回数だけを数える環、それが離散付値環です。
整数を で割れるだけ割り、多項式から をくくり出せるだけくくり出す。この「何回割れるか」という操作を、環の構造そのものに埋め込んだもの。
素元が本質的に つしかないので、割り算の結果は つの整数、つまり位数に落ちます。
以下では定義から出発し、位数を測る写像を作り、整数・べき級数・ 進数・曲線上の点という 4 系統の例を並べます。最後に離散付値環にならない例を集め、境目がどこにあるかを確かめる。
定義
環 が離散付値環であるとは、次の 3 つが同時に成り立つことをいいます。
3 番目の を一様化元といいます。素元と呼ぶこともあり、指しているものは同じ。
を外すと体が紛れ込みます。体では なので、割れる回数を数える相手がいなくなる。
英語圏の資料では、単項イデアル整域のうち でない極大イデアルをちょうど つもつもの、という言い方もよくされます[1]。あとで見るように、この言い方と上の 3 条件は同じものを指しています。
一様化元は単元倍しか動かない
一様化元の選び方には自由がありますが、自由の幅はごく狭いものです。
と をどちらも一様化元とします。 なので かつ となる がとれる。
代入すると となり、整域なので で割って を得ます。よって は単元です。
つまり一様化元は単元倍を除いて一意に定まる。 で の代わりに を使ってもよいのは、この理由によります。
どの元も一様化元の冪と単元の積になる
離散付値環の計算がやさしいのは、元の形が完全に分かるからです。
を でない元とします。 となる最大の が存在すると仮定して、 と書けることを見ましょう。
と書いたとき、 が単元でなければ となり、 になります。最大性に反するので は単元です。
存在のほうは、共通部分がつぶれることから従います。ネーター局所環では が成り立つので、 でない がすべての に入ることはありません。
この は から一意に決まります。 で なら となり、左辺が単元、右辺が の元となって矛盾するからです。
位数を測る写像
いま得られた に名前を付けます。 と定め、これを の位数と呼びましょう。
商体 へは、割り算の形に伸ばして定義します。 に対して を対応させる。
分子と分母のとり方によらないことは、 なら となり、両辺の位数を比べれば分かります。
この が離散付値です。値の集まりが という離散的な群になることが、名前の「離散」にあたります[2]。
証明: 位数は付値の 2 条件をみたす
付値と呼ぶには、次の 2 つが要ります。
前者から見ましょう。、 と書けば です。 は単元どうしの積なので単元で、位数はちょうど になります。
後者は、共通因子をくくり出すだけで済みます。 として と書くと、括弧の中は の元です。
したがって は で割れ、位数は 以上になる。括弧の中が に入れば位数はもっと上がるので、等号とは限りません。
のときは括弧の中が単元 非単元となって単元なので、 とちょうど決まります。位数が違う 2 つを足すと、小さいほうがそのまま残る。
イデアルの鎖として見る
を の値で層に分けると、構造が図になります。位数 以上の元の全体がちょうど です。

層は無限に続き、どこまでも縮んでいきます。共通部分は だけになる。
外側の層から内側の層へ移る操作が、 を掛けることにあたります。逆に で割ると 1 枚外へ出ます。
例: 整数を素数で局所化する
素数 を つ固定し、分母が で割れない有理数の全体を と書きます。
これは整域で、単元は分子も分母も で割れない分数です。単元でない元は分子が で割れるので、 にすべて入る。
したがって が唯一の極大イデアルで、 が一様化元になります。
で計算してみましょう。 は と書け、 は単元です。よって 。
なら位数は になります。商体 の上では負の値もとります。
のように分子も分母も で割れなければ位数は で、これは単元です。
例: 形式的べき級数環
体 の上の形式的べき級数環 は、係数を無限に並べたものを元とする環です。
が単元であることと であることは同値です。 なら逆べき級数の係数を順に決められ、 なら定数項が の元しか作れないためです。
単元でない元は でくくれるので となり、 が一様化元になります。
位数は、最初に でなくなる係数の番号です。 なら 。
商体は形式的ローラン級数体 で、有限個の負冪を許した級数の全体になります。 の位数は です。
例: p 進整数環
を 進距離で完備化すると、 進整数環 が得られます。元は 進展開で書けます。
形が とそっくりなのは偶然ではありません。 の役割を が果たしています。
違いは繰り上がりの有無です。 では係数どうしが干渉しませんが、 では の足し算が上の桁へ繰り上がる。
も離散付値環で、位数は展開の最初に でなくなる桁の番号です。フランス語圏の資料も、この 2 つを離散付値環の代表例として並べています[3]。
例: 有理関数の零点と極
体 の上の 変数多項式環を、点 に対応する極大イデアル で局所化します。
これも離散付値環で、一様化元は です。位数は、点 での零点の位数そのものになる。
で試しましょう。 は と書け、 も も で消えません。よって位数は です。
なら位数は で、 に 3 位の極があることを表します。
零点の位数が正、極の位数が負。 つの整数で両方を言い表せる点が、この道具の便利なところです。
位数を数えるようす
を掛けるたびに層が 1 枚内側へ進むようすを動かしてみましょう。
点が内側へ入るほど位数が上がり、 に近づいていきます。 進距離で「 で何回も割れる数ほど小さい」と言うときの、その小ささが図の内側です。
逆向きに読むと、外側へ出る操作が での割り算になります。商体まで広げると層は外へも無限に伸び、位数が負の元が並びます。
イデアルは一様化元の冪しかない
離散付値環のイデアルは、驚くほど少ししかありません。
を でないイデアルとします。 の元の位数のうち最小のものを とし、それを実現する元を と置く。
は単元なので となり、 が出ます。
逆向きも位数から従います。 なら なので です。
イデアルは と一列に並びます。単項イデアル整域であることも、これで確かめられました。
素イデアルは と の 2 つだけです。 では なのに となるので、素にならない。
Spec は 2 点しかない
素イデアルが 2 つということは、幾何の側から見ると点が 2 つということです。
閉点は に対応し、位数が正の元がすべて消える場所です。生成点は に対応し、位数の情報を捨てた商体の側にあたります。
ドイツ語圏の資料も、この 2 点からなるスペクトルを離散付値環の特徴として挙げています[2]。曲線の 1 点とその近傍を、たった 2 点の空間に凝縮したもの、と読めます。
同値な言い換え
上の 3 条件のほかにも、離散付値環を言い当てる条件がいくつも知られています。
英語圏の資料には、これを含む 11 個の同値条件が並んでいます[1]。フランス語圏の資料も、ネーター局所環に対する 7 条件の形で同じ内容を整理しています[3]。
4 番目は 次元の場合の正則性そのものです。正則局所環のうち次元が のものが離散付値環にあたる、という言い方もできます[5]。
証明: ネーター局所整域で極大イデアルが単項なら離散付値環
同値性のうち 3 番目を確かめておきます。ネーター性が効く場所が分かるためです。
をネーター局所整域とし、 かつ とします。
クルルの交叉定理から です。 でない に対して、 となる の集合は有限で止まります。
その最大値をとれば、前に見たとおり と書けます。あとの議論はすべてこの表示から出るので、 は離散付値環です。
ネーター性を落とすと崩れます。付値環がネーターであることと、離散付値環または体であることは同値なので[4]、ネーターでない付値環はこの枠から外れます。
離散付値環にならない例
境目を見るには、条件を 1 つずつ壊した例が早道になります。
は整域で単項イデアル整域ですが、極大イデアルが と無限にあります。局所環でないので離散付値環になりません。素数を 1 つ選んで局所化すると条件がそろいます。
局所環で、極大イデアル は単項です。しかし なので整域ではありません。位数を定めようにも、 で 2 回割ると になってしまいます。
は局所整域ですが、極大イデアルの生成に と の 2 つが要ります。単項ではないので離散付値環になりません。次元が である点に対応しています。
を で局所化した環は 次元の局所整域です。それでも極大イデアルは単項になりません。 だけでも だけでも生成できず、整閉でもないためです。
ピュイズー級数の環のように、値群が になる付値環があります。値が離散的に並ばないので、これは離散付値環ではありません。ネーターでもない環です。
最後の 2 つが特に大切です。 次元で局所で整域でも、まだ足りない。整閉性という条件が、尖点のような環をはじいています。
完備化しても離散付値環のまま
と 、 と は、それぞれ完備化で結ばれた組です。
分数の形で書ける元だけからなる。有理数や有理関数のうち、分母が点で消えないものが並ぶ。
無限に続く級数が入ってくる。 には が元として存在する。
完備化しても離散付値環であることは変わりません。極大イデアルが単項という性質が、極限をとっても残るからです。
位数の値も変わりません。 の元を の中で見ても、 で割れる回数は同じです。
級数が増えるぶんだけ計算はしやすくなります。 で単元の逆元を係数から順に決められたのは、無限個の係数を許していたおかげです。
練習
次のうち離散付値環はどれですか。
- を原点の極大イデアル で局所化した環
- を の像で局所化した環
- を で局所化した環
条件のどれが壊れているかを言えるようになれば、定義を使いこなせています。
よくある誤り
最後に、間違えやすい点を並べます。
どれも定義の 3 条件に戻れば区別が付きます。整域・局所・単項という 3 つを、別々に確かめる習慣が効きます。










k[x,y]/(y)≅k[x] なので、局所化すると k[x](x) になります。極大イデアルは (x) の 1 つの元で生成され、1 次元の局所整域なので離散付値環です。ほかの 3 つは順に、次元が 2、整域でない、極大イデアルが単項でない、という理由で外れます。