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付値はいったい何を測っているのか?割り切れる回数という物差し

付値が測っているのは、ある素元で何回割り切れるかという回数です。

なら、 で 回、 で 回割れます。この回数を 、 と書く。

大きさを測る道具に見えて、実際に測っているのは深さです。深く割り切れるほど値が大きくなります。

以下では素朴な数え方から公理へ進み、6 種類の付値を計算します。付値環との対応と、絶対値へ翻訳したときに起きる逆転まで見ていく。

有理数へ伸ばす

整数の上での は、分数へそのまま伸びます。 と定めるだけです。

分子と分母のとり替えによらないことは、 なら となり、両辺の回数を比べれば分かります。

です。分母に が入っているので、値は負になる。

です。分子だけに が入っています。

負の値が出るのが自然です。割り切れる回数を、割られる回数まで込みで数えている。

定義

体 の上の付値とは、順序付きアーベル群 へ向かう写像です[1]。

次の 3 つを要求します。

が成り立つ。
が成り立つ。
であることと であることが同値。

の像 を値群といいます。値群が に同型なとき、 を離散付値と呼びます[1]。

積が和になる点が要です。掛け算の情報を足し算に翻訳する道具、と読めます。

値が違えば不等号は等号になる

2 番目の公理は、値が異なるときに強くなります。

とすると が成り立ちます[1]。証明は 2 回の適用で終わります。

まず です。逆向きを示しましょう。

と書けるので、 が成り立ちます。 です。

もし右辺が なら となり仮定に反します。したがって右辺は で、 が出ました。

2 つの不等号を合わせて です。値が違う 2 つを足すと、小さいほうがそのまま残る。

例: 進付値を数える

で計算しましょう。

です。 なので、 で 2 回割れます。

です。 は で 1 回も割れません。

です。 が分母にあります。

です。値が違う 2 つの和なので、小さいほうの がそのまま出ました。

です。 と が等しいので、和で値が上がっています。

等しいときだけ上がる。この非対称が、超距離的な性質のもとになります。

割れる深さで層に分ける

整数を の値で塗り分けてみます。

の倍数が 1 段、 の倍数が 2 段、 の倍数が 3 段と、階段状に高くなります。

高い棒はまばらです。深く割れる数ほど数が少ない、という当たり前の事実が絵になっています。

例: べき級数と曲線

進付値のほかにも、同じ形の道具がいくつもあります。

べき級数の位数

の元 に対して、最初に でなくなる係数の番号を とします。 と書けるので、 で何回割れるかを数えていることになります。

曲線上の点での位数

滑らかな曲線の点 をとり、一様化元を とします。関数 に対して を、 での零点の位数と定めます。極では負の値になります。

自明な付値

でないすべての元に を対応させる写値です。公理はみたしますが何も測っていないので、ふつうは除外します[1]。

値群が になる付値

ピュイズー級数の体では、指数に分数が現れます。 の位数は です。値が整数に並ばないので、離散付値ではありません。

最初の 3 つは値群が か で、離散付値です。最後の 1 つだけが外れます。

離散かどうかは値群だけで決まる。環の側で言えば、ネーターかどうかに対応します[4]。

絶対値へ翻訳する

付値から絶対値を作れます。 を固定して と定めるだけです[1]。

進の場合は をとり、 とするのが慣習です[3]。

公理は次のように翻訳されます。 が に、 が になる。

3 番目の形を超距離不等式といいます。通常の三角不等式より強い条件です。

符号が逆になる点に注意が要ります。付値が大きいほど絶対値は小さい。深く割れる数ほど に近い、という感覚になります。

深く割れる数は 0 に近い

この逆転を動かして見ましょう。

は、ふつうの絶対値では大きくなる一方です。 進絶対値では になり、 へ収束します。

同じ数列が、物差しを変えると逆の向きに動く。どちらが正しいという話ではなく、測る対象が違います。

この見方のもとでは、級数の収束判定がとても単純になります。項が に近づくことと級数が収束することが同値になるためです[3]。

付値環

付値 に対して、値が非負の元を集めます。

これは環です。積については 、和については から従います[1]。

は局所環になります。値が正の元の全体 が唯一の極大イデアルです。

証明は単元の判定に帰着します。 が単元であることと であることが同値なので、単元でない元がちょうど になる。

単元でない元の全体がイデアルをなす環は局所環でした。だから は局所環です。

離散付値と離散付値環

値群が のとき、 は離散付値環になります[2]。

となる をとりましょう。 なら なので、 と書けます。

極大イデアルは です。値が 以上の元は、すべて で割り切れます。

逆に離散付値環からは位数の写像が作れました。2 つは同じものを別の角度から見たものです[5]。

ネーター性が離散性に対応します。付値環がネーターであることと、離散付値環または体であることが同値です[4]。

剰余体をとり出す

付値環からは、もう 1 つ体が出てきます。極大イデアルで割った剰余体です[1]。

進付値なら です。もとの体は標数 なのに、剰余体は標数 になります。

なら です。この場合は標数が変わりません。

曲線の点 でとると、剰余体は での関数の値がなす体になります。付値が「深さ」を測り、剰余体が「値」を担う。

例: 3 進で級数を足す

超距離の効果を、収束の判定で見てみましょう。

ふつうの絶対値では発散します。項が大きくなる一方だからです。

進絶対値では で、項が へ近づきます。 進では、項が に近づくことと級数が収束することが同値なので、この級数は収束します[3]。

値まで求まります。 とすると から です。

の中では等比級数の公式がそのまま使えます。 という計算が正当化される。

実数の世界では意味をもたない式が、別の物差しのもとでは値をもちます。

付値環という言葉のもう 1 つの意味

には、付値を持ち出さずに書ける特徴があります[4]。

整域 とその商体 について、 の でない元 に対して または が成り立つとき、 を付値環といいます。

から作った がこの条件をみたすことは、すぐ確かめられます。 でなければ になるためです。

逆向きも成り立ち、この条件をみたす環からは付値が復元できます。値群は に順序を入れたものです。

つまり付値と付値環は、同じ対象の 2 つの書き方です。どちらから出発しても同じところへ着きます。

三角形はすべて二等辺になる

超距離不等式からは、直観に反する事実がいくつも出ます。

3 点 をとり、距離を で測ります。値が違えば等号になるという性質から、次が言えます。

3 つの距離のうち、最大のものは必ず 2 回現れる。つまりどの三角形も二等辺三角形です。

なら になるためです。値が違う 2 つを足したときの規則そのものです。

球の内部の点はすべて中心になれる、という性質も同じ理由から出ます。 進の世界では、球に中心という特別な点がありません。

練習

を体 上の付値、、 とします。 について確実に言えることはどれですか。

  • である
  • である
  • である
  • である
__RESULT__

値が等しい場合は、公理からの不等号 しか言えません。 なら で値は 、、、 なら です。等号になることも上がることもあります。値が違う場合にだけ、小さいほうに等しいと言い切れます。

等しいときだけ結論が弱くなる。ここを押さえておくと計算で迷いません。

よくある誤り

まとめて並べます。

付値が大きいほど数が大きいと思う。絶対値へ翻訳すると向きが逆になる。
がいつでも成り立つと思う。値が等しいときは上がることがある。
値群が でなくても離散付値と呼ぶ。値群が に同型な場合だけである。
を とする。 はいくらでも割れるので と約束する。
付値環が体だと思う。値が正の元は逆元をもたないので、体にはならない。
自明な付値を数えない。公理はみたすので、除外するときは明示する。

積を和に翻訳する道具、と一言で覚えておくと使いどころが見えてきます。

参考文献

Valuation (algebra)), Wikipedia (English).
Discrete valuation ring, Wikipedia (English).
Nombre p-adique, Wikipédia (français).
Section 10.50: Valuation rings, The Stacks Project.
Diskreter Bewertungsring, Wikipedia (Deutsch).
$12$ が $2$ で 2 回割れる、この回数を数える写像が付値です。積が和になるという公理から出発し、値が違う 2 つを足すと小さいほうがそのまま残ることを証明します。$3$ 進付値の計算、べき級数の位数、曲線上の零点と極、値群が $\mathbb{Q}$ になる例まで並べる。絶対値へ翻訳すると向きが逆転し、深く割れる数ほど $0$ に近くなります。付値環が局所環になること、三角形がすべて二等辺になることも扱います。