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「位数を測る物差し」としての曲線上の点と離散付値環

曲線の滑らかな点を 1 つ選ぶと、そこに離散付値環が 1 つ決まります。

その環がもつ位数の写像が、「この関数は で何位の零点をもつか」を答えます。点を選ぶことと、物差しを 1 本選ぶことが同じになる。

以下では局所環を書き下し、滑らかな点でそれが離散付値環になることを示します。位数の計算を 6 つ並べ、点と付値が 1 対 1 に対応するところまで進む。

曲線の局所環

体 の上のアフィン曲線 をとります。定義多項式を として、座標環は です。

点 に対応する極大イデアルを と書きます。 なら の像です。

局所環は、この極大イデアルでの局所化として定めます。

分母に で消えない関数を許した環です。 の近くだけを見る、という操作にあたります。

が既約なら は 次元の整域で、局所化しても次元は のままです。

滑らかな点では離散付値環になる

が滑らかなら、 は離散付値環です[1]。理由を順にたどります。

滑らかとは局所環が正則であることでした。 次元で正則なら、極大イデアルは 1 本の元で生成されます[4]。

次元の局所整域で極大イデアルが単項なら、それが離散付値環の定義そのものです。

言い換えの側から見ることもできます。整閉なネーター局所整域で次元が のものが離散付値環になる[3]。滑らかな点の局所環はこの条件をみたします。

環がネーターであることは、 が有限生成 代数であることから出ます。局所化はネーター性を保ちます。

一様化元は局所座標である

極大イデアルの生成元 を一様化元といいます。曲線の上では、これが での局所座標にあたります。

の近くの点を 1 つの数で指定するための目盛り、と読めます。滑らかな点の近くが直線と同じようにふるまう、という事実の代数版です。

目盛りのとり替えには自由があります。 と はどちらも一様化元で、単元倍の違いしかありません。

自由があっても、位数は変わりません。位数は目盛りの選び方によらない量です。

例: 放物線の原点

の原点を調べます。座標環は です。

を で置き換えられるので、変数が 1 本に減ります。極大イデアルは になる。

局所環は で、一様化元は です。位数は で何回割れるかを数えます。

の位数は です。曲線の上では が に等しいので、 で 2 回割れます。

座標の と で位数が違う。曲線に制限したときに初めて決まる量だ、と分かります。

例: 円の上の点

の点 をとります。 です。

曲線の上では 、つまり が成り立ちます。 は で なので単元です。

したがって となり、 は に入ります。 と単項に書けました。

一様化元は で、 の位数は になります。円が で 軸に平行な接線をもつことと対応しています。

でとれば立場が入れ替わります。そこでは が一様化元で、 の位数が です。

例: 尖点では成り立たない

の原点では、対応が崩れます。局所環は です。

次元は ですが、極大イデアルは単項になりません。定義式が 次から始まるので、 と のあいだに 次の関係が生まれないためです。

整閉でもありません。 が商体の元で、 という整な関係をみたすのに環に入らない。

次元で局所で整域という条件だけでは足りない、という例になっています[3]。

位数を定めようとしても、 の位数を 、 の位数を とするしかありません。値が を飛ばすので、 の全体を値域にできない。

消え方の速さを見る

位数の違いを動かして見ましょう。

canvas: 置き場が受け取りませんでした

3 本の棒が、同じ に対して違う高さになります。位数が高いほど短い。

位数とは、この消え方の速さに付けた番号です。 と同じ速さで消えるなら位数 、と決めています。

比べているのは速さであって、値そのものではありません。だから座標のとり方に左右されない量になります。

零点と極を 1 つの整数で書く

位数の写像は、商体まで自然に伸びます。曲線の関数体を と書きましょう。

に対して を定めます。( は で でない)と書いたときの です。

零点の位数と極の位数が、符号だけの違いで書けます。2 つの概念を 1 つの整数にまとめたことになる。

なら、 は で でも無限大でもありません。ほとんどの点ではこの場合です。

例: 位数を 3 つ計算する

、つまり で計算します。点は です。

を で見ると、一様化元は で は単元です。よって 。

なら で、 に 3 位の極があります。

を で見ましょう。分子は 、分母は で なので単元です。。

同じ を で見ると、分母の が効いて になります。点を変えると値が変わる。

点と付値の対応

ここまでは点から付値を作りました。逆向きも成り立ちます。

滑らかな射影曲線 について、 の点と、関数体 上の離散付値のうち 上自明なものが 1 対 1 に対応します。

対応は素直です。付値 に対して、 の元がなす付値環をとり、その極大イデアルに対応する点を選びます。

付値環がネーターであることと、離散付値環または体であることが同値なので[5]、この対応の行き先はちょうど曲線の点になります。

曲線を関数体から復元できる、という言い方もできます。幾何の対象が、体の代数的な情報だけで書き直せる。

例: 射影直線のすべての付値

で対応を確かめます。関数体は です。

有限な点 からは が出ます。 で何回割れるかを数える付値です。

無限遠点にも付値があります。 を一様化元として、 となる付値です。

多項式 が高次なほど、無限遠で速く発散します。だから位数は負で、次数のぶんだけ深い極になる。

上の自明でない離散付値はこれで尽きます。有限な点たちと無限遠点、合わせて の点の全体です。

位数の総和は 0 になる

射影直線では、きれいな等式が成り立ちます。

が でない有理関数なら、零点の位数の和と極の位数の和が釣り合います。

で確かめましょう。、、ほかの点では です。和は になります。

なら 、、 です。合計はやはり 。

多項式で試すと の役割が見えます。 は原点に 3 位の零点をもち、無限遠に 3 位の極をもちます。

コンパクトな曲線では零点と極が同じ数だけある。この釣り合いが、因子の理論の出発点になります。

完備化すると形が 1 つに決まる

局所環を完備化すると、さらに形がそろいます。

滑らかな点の完備局所環は、剰余体上の形式的べき級数環に同型です。 になります。

どの曲線のどの滑らかな点でも同じ形です。局所的には曲線どうしの区別が付かない、ということです。

違いが出るのは大域的な構造だけになります。曲線の分類が大域の問題になるのは、この事実の裏返しです。

局所環

点ごとの情報を保つ。曲線が違えば環も違い、有理関数の分母の許され方に差が出る。

完備局所環

どの滑らかな点でも に同型。局所的な情報がすべて同じになるので、大域の差だけが残る。

と の関係と同じ形です[2]。数論と曲線論が同じ言葉で書ける理由が、ここにあります。

特異点では対応が崩れる

対応が成り立つのは滑らかな点だけです。特異点では 2 つのずれ方をします。

尖点では、局所環が離散付値環になりません。位数の値が の全体を動かないためです。

結節点では、原点の上に付値が 2 つ乗ります。正規化で原点へ行く点が 2 つあり、それぞれが付値を与えるからです。

滑らかな点。局所環が離散付値環になり、点と付値が 1 対 1 に対応する。
尖点。局所環が離散付値環でなく、整閉包をとると付値が 1 つ現れる。
結節点。整閉包をとると付値が 2 つ現れ、1 点に 2 つの物差しが乗る。

いずれの場合も、正規化してから数えれば付値の側は正しく並びます。ずれているのは、もとの曲線の点の側です。

練習

の点 における の位数はいくつですか。

  • 0
  • 1
  • 2
  • 定まらない
__RESULT__

曲線の上では が成り立ちます。 は で なので単元で、 での一様化元は です。両辺の位数を比べると となり、位数は です。 での接線が 軸に平行であることと対応しています。

定義式を使って位数を比べる、という手が使えると計算が速くなります。

よくある誤り

最後に並べます。

座標関数の位数がいつでも だと思う。放物線の は原点で位数 である。
位数が一様化元の選び方で変わると思う。単元倍の違いしか出ないので変わらない。
特異点にも離散付値環が対応すると思う。尖点の局所環は極大イデアルが単項でない。
零点だけを位数で測ると思う。極は負の位数として同じ写像に含まれる。
無限遠点を忘れる。多項式の位数の総和が になるのは、無限遠の極を数えたときである。
局所環と完備局所環を同じものだと思う。完備化するとどの点でも同じ形になる。

一様化元を 1 つ書き下してから計算を始めると、ほとんどの誤りは防げます。

参考文献

Discrete valuation ring, Wikipedia (English).
Diskreter Bewertungsring, Wikipedia (Deutsch).
Anneau de valuation discrète, Wikipédia (français).
Regular local ring, Wikipedia (English).
Section 10.50: Valuation rings, Lemma 10.50.18, The Stacks Project.
曲線の滑らかな点を 1 つ選ぶと、そこに離散付値環が 1 つ決まります。局所環を書き下し、正則性から極大イデアルが単項になることを確かめ、一様化元が局所座標にあたることを見ていきます。放物線の原点で $y$ の位数が 2 になる計算、円の点で $x-1$ の位数が 2 になる計算、尖点で対応が崩れる理由まで。零点と極を 1 つの整数にまとめると、射影直線では位数の総和が 0 になる。完備化すると、どの滑らかな点も $k[[t]]$ に同型です。