代数幾何学では、多様体の「滑らかさ」を局所環の性質として捉えます。微分幾何学でいう滑らかな多様体に対応する概念を、純粋に代数的な言葉で定式化するのです。
滑らかさの直感
微分幾何学では、多様体が点 で滑らかとは、 の近傍がユークリッド空間の開集合と同相で、座標変換が滑らか(無限回微分可能)であることを意味します。
代数幾何学では、座標変換の滑らかさの代わりに、局所環の代数的な性質で滑らかさを定義します。
代数的な滑らかさの条件
代数多様体 が点 で滑らかであるとは、 における局所環 が正則局所環であることです。
正則とは、極大イデアル の生成元の最小個数(これを埋め込み次元という)が、環の Krull 次元と一致することでした。つまり
が成り立つとき、その点は滑らかです。
なぜこれが滑らかさを表すのか
次元多様体の滑らかな点では、 個の局所座標が取れるはずです。これは極大イデアルがちょうど 個の元で生成できることに対応します。
局所環は正則。極大イデアルは次元と同じ個数の元で生成できる。局所座標が素直に取れる。
局所環は非正則。極大イデアルを生成するのに次元より多くの元が必要。座標が「足りない」か「余分な関係がある」状態。
ヤコビアン判定法との関係
具体的な多様体が点 で滑らかかどうかは、ヤコビアン判定法で調べられます。 が で定義されるとき、 でのヤコビ行列のランクが に等しければ は滑らかです。
この判定法は、暗に「定義方程式から余分な生成元が出ない」ことを確認しています。ヤコビ行列が最大ランクなら、方程式の本数と次元の落ち方が一致し、局所環が正則になるのです。
滑らかさの帰結
滑らかな点の局所環は、多くのよい性質をもちます。正則局所環は整域であり、UFD(一意分解整域)であり、Cohen-Macaulay 環でもあります。これらの性質は、滑らかな点での計算を大幅に簡単にしてくれます。