特異点があると局所環はこう壊れる|結節点と尖点で比べる
特異点では、局所環の極大イデアルが「太りすぎ」ます。
次元の曲線なのに、極大イデアルを生成するのに 2 つの元が要る。この生成元の個数と次元のずれが、特異性の代数的な正体です。
以下では結節点と尖点という 2 つの特異点について、局所環を実際に書き下します。整閉包を計算し、完備化を比べ、両者がどこで分かれるかを見ていく。
滑らかな点の局所環は正則である
比較の基準を先に決めます。ネーター局所環 が正則であるとは、次が成り立つことでした[1]。
右辺は極大イデアルの生成元の最小個数で、埋め込み次元と呼ばれます。中山の補題から、 の基底を持ち上げれば の生成元が得られるためです。
左辺は Krull 次元です。曲線の点なら 、曲面の点なら になります。
滑らかな点では両辺が一致します。曲線の滑らかな点なら 次元の正則局所環、つまり離散付値環になる。
埋め込み次元は次元より小さくならない
ずれる向きは片方だけです。いつでも次の不等号が成り立ちます。
クルルの標高定理から従います。 が 個の元で生成されるなら、 の高さは 以下になるためです。
したがって特異点では、必ず埋め込み次元のほうが大きくなります。余分な生成元が要る状態、と言い換えられる。
幾何の言葉では、接空間が多様体自身より大きいということです。 次元の曲線の上に 次元の接空間がぶら下がっている。
例: 結節点の局所環
曲線 の原点を調べます。座標環と局所環は次のとおりです。
次元は です。曲線が既約なので は 次元の整域で、局所化しても次元は落ちません。
埋め込み次元を計算しましょう。、 です。
定義式 の両辺は、どちらも に入っています。 次の項が現れないので、 と のあいだに線形な関係は生まれない。
次元 に対して埋め込み次元 。ずれているので、この局所環は正則ではありません。
証明: 極大イデアルは単項にならない
同じことを、単項性の側から確かめておきます。
と書けたとします。 なので 、 と書ける。
なので の形です。代入すると となります。
両辺の 次の項を比べると 、 が出ます。ここで は定数項です。
から なので です。同じ議論を に当てると が出て、 と矛盾します。
したがって は単項ではありません。 次元の局所整域であっても離散付値環にならない、という例になっています。
接空間が本体より大きい
数の上のずれを図にしておきます。

薄く引いた 2 本が、接錐を与える と です。接線が 2 本あるので、それらが張る空間は平面の全体になります。
滑らかな点なら接線は 1 本で、接空間も直線 1 本です。曲線と同じ 次元でおさまる。
例: 尖点の局所環
尖点でも同じ計算をします。曲線は 、局所環は です。
定義式の両辺は に入ります。 は 次、 は 次だからです。
やはり 次の関係が出ないので、埋め込み次元は になります。次元は なので正則ではありません。
結節点と尖点は、この計算では区別が付かない。どちらも「 次元なのに埋め込み次元が 」でそろっています。
尖点の局所環をパラメータで書き直す
区別を出すには、別の量が要ります。まず尖点の座標環を 変数で書き直しましょう。
、 とすると をみたします。この対応で次の同型が得られる。
右辺は のうち、 の 次の項をもたない多項式の全体です。 が基底になります。
だけが抜けている。この 次元ぶんの穴が、尖点の特異性そのものです。
整閉でないことが特異性の現れ
の商体は です。 と書けるためです。
は の元ではありませんが、 上整です。 なので、 という monic な関係をみたします。
つまり商体の中に、整だが環に入らない元がある。 は整閉ではありません。
ここが分かれ目です。 次元のネーター局所整域では、整閉であることと離散付値環であることが同値になります[5]。
したがって曲線の点については、次の 3 つが同じことになります。滑らか、正則、整閉。特異点とは整閉でない点のことです。
整閉包をとると何が起きるか
整閉でないなら、整閉包をとって直せばよい。この操作を正規化といいます。
尖点の場合、整閉包は です。 は単項イデアル整域なので整閉で、 上有限生成加群になります。
結節点の場合も計算できます。 と置くと となり、次の表示が出ます。
は商体の元で、 をみたすので整です。整閉包はやはり になります。
どちらも整閉包は 、つまり滑らかな直線です。曲線としては同じものへ直る。
原点の上に何点あるか
違いは、原点の上に何点乗るかに出ます。正規化写像で原点へ行く を数えましょう。
と が、どちらも原点へ送られます。原点の上には 2 点乗っている。
尖点では事情が違います。、 で原点へ行くのは だけなので、上に乗る点は 1 つです。
整閉包の形で分かれる
点の個数は、整閉包の局所的な形に現れます。
整閉包は原点の上に 2 つの極大イデアルをもつ。局所化して完備化すると、2 つの離散付値環の直積に分かれる。枝が 2 本あることの代数的な言い換えである。
整閉包は原点の上に極大イデアルを 1 つしかもたない。完備化しても離散付値環 1 つのままで、直積には割れない。枝は 1 本しかない。
正規化が有限射になることは、一般の設定でも保証されています[4]。ネーター性と被約性を仮定すれば、整閉包は元の環の上で有限加群です。
有限であるおかげで、原点の上の点は有限個に収まります。数えられる量になる、という点が大切です。
完備化すると違いが目に見える
局所環そのものは、どちらも整域です。曲線が既約だからで、この段階では違いが出ません。
完備化すると分かれます。結節点の完備局所環を書きましょう。標数が でなければ は の中で平方根をもちます。
をみたす がとれるので、定義式が 2 つの因子に分かれます。完備局所環は整域ではなくなる。
尖点では が の中でも既約です。完備局所環は整域のままになります。
局所環では見えず、完備化すると見える。枝の本数はそういう量です。
重さを 1 つの数で測る
枝の本数だけでは足りません。両者を同じ土俵で比べるために、整閉包との差を測ります。
を特異点の局所環、 をその整閉包として、次の商の長さを と書きます。
尖点なら 、 です。商は が張る 次元なので 。
結節点も になります。異なる型でありながら、重さは等しい。
この が、そのまま種数の落ち方になります[3]。次数 の平面曲線なら、算術種数から の総和を引いたものが幾何種数です。
のような高次の尖点では になります。同じ尖点でも重さが違う。
一覧
ここまでの計算をまとめます。
| 次元 | どちらも 1 |
| 埋め込み次元 | どちらも 2 |
| 整閉包 | どちらも |
| 原点の上の点 | 結節点は 2 点、尖点は 1 点 |
| 完備局所環 | 結節点は非整域、尖点は整域 |
| どちらも 1 |
上の 2 行では区別が付かず、下の 3 行で分かれます。同じ「特異」でも、どこまで下りるかで見える情報が変わる。
次元が上がると話が変わる
曲線では、特異であることと整閉でないことが一致していました。次元が 以上では一致しません。
正則なら整閉です。しかし逆は成り立たず、整閉でも特異な点があります。
錐 の原点がその例です。この環は整閉ですが、埋め込み次元 に対して次元は なので正則ではありません。
正規化は余次元 の特異点しか消せないためです[2]。曲線ではすべての特異点が余次元 なので、正規化だけで足りていました。
特異点の解消
高い次元では、ブローアップを繰り返す方法が要ります。標数 の体の上では、いつでも解消できることが知られています[2]。
広中平祐が 1964 年に証明した定理です。任意の代数多様体 に対して、非特異な と固有な双有理写像 が存在します。
正標数では未解決です。次元が 以上の場合は、いまも一般には分かっていません。 次元まではすべての標数で解決されています。
解消とは、局所環を正則局所環へ直す操作です。曲線での正規化は、その最も簡単な場合にあたります。
練習
次元の局所整域について、正則であることと同値でないものはどれですか。
- 離散付値環である
- 整閉である
- 完備局所環が整域である
- 極大イデアルが単項である
尖点が反例になる点が要です。整域性だけでは特異性を測れません。
よくある誤り
まとめとして、つまずきやすい点を並べます。
区別のこつは、どの量で見ているかを言えるようにすることです。次元・埋め込み次元・整閉包・完備化と、段階を分けて確かめていく。










結節点の局所環は 1 次元の局所整域で、完備化すると整域ではなくなりました。ところが尖点の局所環は完備化しても整域のままで、それでも正則ではありません。完備局所環が整域かどうかは、正則性とは別の情報です。ほかの 3 つはいずれも 1 次元では正則性と同値になります。