代数多様体の特異点とは、滑らかでない点のことです。特異点における局所環は正則ではなく、いくつかの特徴的な性質が現れます。
特異点の代数的な特徴
点 が特異点であるとき、局所環 について以下が成り立ちます。
極大イデアルの生成元の最小個数が Krull 次元より大きい
接空間の次元が多様体の次元より大きい
局所環が正則でない
直感的には、特異点では「余分な方向」が生じており、座標が素直に取れない状況です。
結節点(node)の例
曲線 の原点を考えます。この点では曲線が自分自身と交差しています。
座標環は で、原点の局所環では極大イデアル が単項イデアルになりません。 だけでも だけでも を生成できないのです。
この点での接空間は2次元になります。曲線自体は1次元ですが、原点では2本の枝が交わっているため、接線が2本存在するのです。
尖点(cusp)の例
曲線 の原点も特異点ですが、結節点とは異なる種類です。
結節点
2本の枝が異なる方向から交わる。局所環の整閉包を取ると、2つの離散付値環の直積になる。
尖点
1本の枝が折り返すように尖っている。局所環の整閉包を取ると、1つの離散付値環になる。
尖点では曲線が自己交差していませんが、それでも特異点です。原点でのパラメータ付け を見ると、 の前後で曲線は滑らかに通過しますが、 座標では原点で「尖って」見えます。
特異点の解消
特異点をもつ多様体を、ブローアップという操作で滑らかな多様体に変形できることがあります。代数幾何学の重要な定理として、特性 の体上ではすべての特異点が解消できることが知られています(広中の定理)。
特異点の解消は、局所環を正則局所環に「修正」する操作と見なせます。元の環の情報を保ちながら、正則性を回復するのです。