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接空間が大きすぎる点〜正則局所環とザリスキ接空間

接空間は、方程式から 1 次の項だけをとり出したものです。

で割るという操作が、 次以上を捨てることにあたります。残った線形方程式の解空間が接空間になる[1]。

滑らかな点では、この解空間が図形と同じ次元におさまります。特異点では大きくなる。

以下では余接空間の作り方から始め、6 つの点で実際に次元を計算します。導分としての読み方と、拡大したときの見え方まで進む。

余接空間

を局所環、 を剰余体とします。

これを余接空間といいます。 の元を の差を無視して見たもので、 上のベクトル空間になります。

が 加群、 がその部分加群で、商には が で作用します。だから 上の空間になる。

接空間はこの双対です。

次元は同じなので、どちらで数えても結果は変わりません。

1 次の項だけが残る

で割ることの意味を、座標で見ましょう。

が原点を通り、 で定義されているとします。局所環の極大イデアルは の像です。

の中では、 の形の項がすべて になります。 を展開したとき、残るのは 次の部分だけです。

したがって接空間は、 という連立 1 次方程式の解空間になります[1]。

係数行列がヤコビ行列です。接空間の次元は からヤコビ行列のランクを引いた値になります。

例: 直線と放物線

いちばん簡単な場合から確かめます。

の原点では 、 です。解空間は で 次元、 も 次元なので一致します。

の原点では 、 です。 次の項 は に落ちて消えます。

やはり接空間は 次元です。放物線が原点で 軸に接している、という事実がそのまま出ています。

次の項が残っていることが要です。 なら方程式が 1 本効き、次元が 落ちます。

例: 尖点と結節点

次の項が消える場合を見ます。

の原点では です。 次の項も 次の項も に落ちるので になります。

方程式が 1 本も効かず、接空間は平面ぜんぶで 次元です。曲線は 次元なので、ずれが あります。

でも同じです。展開すると で、最低次が 次なので 。

接空間はやはり 次元になります。この計算では尖点と結節点を区別できません。

区別には接錐が要ります。 次の部分 が 直線に分かれるか、 のように重なるかで型が決まります[5]。

線形方程式として見る

いまの計算を図にします。

左では赤い直線が接空間で、 次元です。右では薄い四角が接空間で、平面の全体を占めます。

方程式が 1 本効くか効かないか。その差がそのまま次元の差になります。

導分としての接ベクトル

接空間には、微分の側からの読み方もあります[1]。

が導分であるとは、 線形で をみたすことです。

導分の全体は、 の双対と自然に同型になります。 を に制限すれば、 の上で になるためです。

で とすると、 なので です。

つまり接ベクトルとは、方向微分を与える写像のこと。座標を持ち出さずに定義できます。

二重数からの射

もう 1 つの言い換えが、二重数を使う形です[1]。

を係数とすると、 の射が、点と接ベクトルの組に対応します。

環準同型 を と書くと、 から が導分になります。

積を計算すると です。ライプニッツ則がそのまま出てきます。

「厚みをもった点」を図形へ写す操作が、接ベクトルを選ぶことにあたる。幾何の言葉だけで書けています。

例: 導分を書き下す

、 を原点とします。導分は の形です。

、 で、 は自由に選べます。接空間は 次元です。

に制限すると条件が付きます。 なので、 が要る。

したがって の形に限られ、接空間は 次元です。 軸方向だけが許されています。

では が自動的に成り立ちます。条件が付かないので 次元のままです。

拡大すると何が見えるか

接空間が「拡大したときの姿」だという読み方を、動かして確かめます。

左の円は、拡大するほど直線に近づきます。接線 1 本で近似できる、という状況です。

右の尖点は、いくら拡大しても直線になりません。 の側に曲線がないので、片側しか伸びない。

直線で近似できない点では、 次の近似が意味をもちません。接空間が大きくなるのは、この失敗の現れです。

次元との不等号

ネーター局所環では、いつでも次が成り立ちます[1]。

クルルの標高定理から出ます。 が 個で生成されるなら、高さは 以下になるためです[3]。

等号が成り立つとき を正則といいます。接空間が図形と同じ大きさに収まる状態です[2]。

不等号は片側にしか開きません。接空間が小さすぎることはありません。

正則パラメータ系

で正則なとき、 の基底を へ持ち上げた を正則パラメータ系といいます[2]。

中山の補題から、これらが を生成します。基底が生成元へそのまま昇格する形です。

幾何では局所座標にあたります。 次元の点のまわりを 本の関数で書ける、という状況です。

余接空間の側で言えば、 が基底になります。微分形式の基底が、そのまま座標の微分として得られる。

例: 場所によって次元が変わる

同じ図形でも、点によって接空間の次元が変わります。

をとりましょう。原点では 次元でした。

では 、 です。どちらも でないので、方程式が 1 本効きます。

したがって接空間は 次元で、 は滑らかな点です。特異なのは原点だけになります。

錐 の原点では 次元です。 となり、 変数の空間から条件が 1 つも引けません。原点以外では 次元になります。

練習

の原点における接空間の次元はいくつですか。

  • 1
  • 2
  • 3
  • 0
__RESULT__

は 次から始まるので、 の中で になります。方程式が 1 本も効かず、接空間は が張る 次元です。 自身は 次元の錐なので、ずれが あり、原点は特異点になります。

最低次の項が 次かどうか。確かめるのはそこだけです。

よくある誤り

まとめます。

接空間を そのものだと思う。接空間はその双対で、余接空間が である。
接空間が図形より小さくなることがあると思う。標高定理から、その向きにはずれない。
接空間の次元で特異点の型が決まると思う。尖点と結節点はどちらも 次元になる。
微分を使うので標数を気にしなくてよいと思う。形式的な偏微分は標数 で になることがある。
すべての点で次元が同じだと思う。特異点でだけ大きくなる。
を の元の 2 乗の集合だと思う。積の有限和まで含めたイデアルである。

次以上を捨てて 次だけを見る。この一行に操作の中身が入っています。

参考文献

Zariski tangent space, Wikipedia (English).
Regular local ring, Wikipedia (English).
Krull dimension, Wikipedia (English).
Section 10.140: Smooth algebras over fields, The Stacks Project.
Singular point of an algebraic variety, Wikipedia (English).
$\mathfrak{m}^2$ で割ることは、方程式から 2 次以上を捨てて 1 次だけを残すことです。残った連立 1 次方程式の解空間が接空間で、係数行列がヤコビ行列になります。直線・放物線・尖点・結節点・錐で次元を計算し、導分としての読み方と二重数からの射という言い換えを並べる。拡大すると滑らかな点は直線に見え、尖点は尖ったままです。標高定理から接空間が小さくなることはなく、等号が正則性になります。