Krull 次元は素イデアルの包含列(鎖)の長さで定義されます。なぜこのような定義が自然なのか、具体例を通じて理解しましょう。
素イデアルの鎖
環 における素イデアルの鎖とは、真の包含関係で並べた列
のことです。この列の長さは (イデアルの個数から 引いた値)と定めます。Krull 次元は、このような鎖の長さの上限です。
多項式環での具体例
( は体)を考えます。以下のような鎖が作れます。
は零イデアルで素イデアルです。 は で生成される素イデアルで、 軸に対応します。 は原点に対応する極大イデアルです。
この鎖の長さは であり、これより長い鎖は作れません。よって です。
幾何学的な対応
という包含列。各素イデアルが次の素イデアルに真に含まれる。
\text{平面} \supsetneq \text{y軸} \supsetneq \text{原点} という降下列。各部分多様体が次の部分多様体を真に含む。
素イデアルの包含と部分多様体の包含は逆向きに対応します。小さい素イデアルは大きい多様体に、大きい素イデアルは小さい多様体に対応するのです。
なぜ鎖の長さで次元を測るのか
次元の多様体には、 次元の超曲面、 次元の部分多様体、…、 次元の点、という自然な階層があります。このような「次元が ずつ下がる部分多様体の列」が取れる最大の長さが、もとの多様体の次元です。
素イデアルの鎖はこれを代数的に表現しています。鎖の長さの上限が次元を与えるのは、部分多様体を段階的に取っていける回数を数えているからです。
鎖の条件と次元
ネーター環では、素イデアルの昇鎖(ascending chain)は有限で止まります。しかし、鎖の長さの上限が有限とは限りません。 となるネーター環も存在します。
体上有限生成な環(アフィン環)では、次元は常に有限であり、幾何学的な次元と一致します。この場合、最大の長さの鎖は必ず から極大イデアルまで到達します。