図形の次元と座標環の次元、なぜこの 2 つは一致するのか
図形の次元と、座標環の Krull 次元は同じ数になります。
図形の側では、真に縮んでいく既約閉集合の鎖を数えます。環の側では、真に大きくなる素イデアルの鎖を数える。
数えているものが裏返しの関係にあるので、長さがそろいます。以下ではこの対応を作り、4 通りの定義が一致することを確かめます。
体は代数閉体とします。閉体でないと、点とイデアルの対応が崩れるためです[4]。
座標環
をアフィン代数的集合とし、 を の上で消える多項式の全体とします。
これを座標環といいます。 の上の多項式関数がなす環です。
は根基イデアルです。 が で消えるなら も消えるためです。
零点定理から、代数的集合と根基イデアルが 1 対 1 に対応します[4]。この対応は包含を逆にします。
既約であることと素であること
が既約であることと、 が素イデアルであることが同値になります。
が素でないとしましょう。 かつ となる 2 つがとれます。
と はどちらも の真の閉部分集合で、合わせて を覆います。したがって は既約ではありません。
逆向きも同じ形の議論です。 と真に分かれるなら、それぞれで消える多項式をとれば積が に入ります。
既約閉集合と素イデアルの 1 対 1 対応が、これで得られました。
包含が裏返る
対応の向きを図にしておきます。

左では図形が縮み、右ではイデアルが太ります。段の数は変わりません。
長さは段の数から 1 を引いた値です。どちらの側で数えても になります。
定理: 2 つの次元は一致する
を既約なアフィン多様体とすると、次が成り立ちます[1]。
左辺は に含まれる既約閉集合の鎖の長さの上限、右辺は の素イデアルの鎖の長さの上限です。
証明は対応をたどるだけです。 の既約閉部分集合と の素イデアルが 1 対 1 に対応し、包含が逆になります。
したがって長さ の鎖どうしが対応し、上限も一致します。新しい計算はどこにも要りません。
対応が閉体でだけ成り立つ点に注意が要ります。 では が極大なのに、実数の点に対応しません[4]。
例: 平面と曲線と曲面
具体的に数えます。
座標環は です。鎖は で長さ 。図形の側は平面、 軸、原点の 3 段です。
が既約なら座標環は です。素イデアルは と極大イデアルしかなく、鎖の長さは になります。曲線が 次元であることと合っています。
なら座標環は で、次元は です。 のような鎖がとれます。
は既約でありません。極小素イデアルが と の 2 つあり、どちらから伸ばしても長さは です。次元は になります。
最後の例は整域でないので、定理の仮定を外れています。それでも次元は最大値として定まる。
既約でない場合は、成分ごとに次元を測って最大をとります。成分の次元がそろっているとは限りません。
超越次数という第 3 の定義
が既約なら座標環は整域で、その商体を関数体 といいます。
代数的に独立な関数を何本とれるか、を数えています[1]。
なら で、 が独立です。超越次数は になります。
放物線 の関数体は です。 は に代数的に従うので、独立なのは だけ。超越次数は です。
この定義は双有理不変です。関数体が同型な 2 つの多様体は、同じ次元をもちます。
ネーターの正規化定理
3 つの定義が一致することの根拠になるのが、正規化定理です[3]。
を 上有限生成な代数とすると、代数的に独立な がとれて、 が 上有限生成加群になります。
この が の Krull 次元です。 が整域なら、商体の超越次数とも一致します[3]。
幾何の言葉では、どのアフィン多様体も への有限射をもつということです。分岐被覆として 次元空間の上に乗る。
有限射は次元を変えません。だから の次元 が、そのまま の次元になります。
例: 正規化を作ってみる
正規化の を実際に選びます。
は に同型です。 をとれば 自身が なので、 になります。
は に同型です。 ととると、 は 上整ではありません。
代わりに をとります。 は をみたすので 上整で、 が出ます。
座標をうまくとり替えると整になる。正規化定理が保証しているのは、このとり替えがいつでも可能だという点です。
有限射として見る
有限射がどう見えるかを動かします。
円の上の点を横軸へ落とすと、たいていの点の上に 2 点が乗ります。左右の端でだけ 1 点に重なる。
どこでも有限個なので、円と直線の次元は同じ です。有限射は次元を変えません。
を へ落とすと、 の上に点がなくなります。これは有限射ではなく、座標のとり替えが要る場合にあたります。
接空間という第 4 の定義
滑らかな点でだけ使える定義もあります[1]。
点 での局所環を とすると、接空間は です。 が滑らかならこの次元が に一致します。
特異点では使えません。接空間のほうが大きくなるためです。尖点では曲線が 次元なのに接空間は 次元になります。
滑らかな点は稠密に存在するので、どこか 1 点で測れば十分です。実用上は計算しやすい点を選びます。
例: 部分多様体と余次元
を既約閉部分多様体とすると、余次元を と定めます。
環の側では、 に対応する素イデアル の高さがこれにあたります。 から までに何段あるかを数えている。
、 を 軸とすると です。鎖は で高さ 、余次元も になります。
上有限生成な整域では、 が成り立ちます。上の例なら です。
この等式は一般の環では崩れます。有限生成という条件が効いている場面です。
例: 積をとる
と を体 上の既約多様体とすると、積の次元は足し算になります。
関数体の超越次数で見ると分かりやすい。 から 本、 から 本の独立な関数がとれ、合わせて独立なままです[1]。
なら座標環が で、次元は です。
曲線と曲線の積は曲面になります。 が 次元であることも同じ理由から出る。
例: グラフとして書き直す
写像のグラフを使うと、次元の計算が楽になることがあります。
を多項式写像とし、グラフ を考えましょう。
は と同型です。第 1 成分への射影が逆写像を与えるためです。
したがって になります。 の次元より 小さく、 という 1 本の式で切った形と辻褄が合う。
放物線 が と同型で 次元なのも、この見方の特別な場合です。
4 つの定義を並べる
| 定義 | 数えるもの |
|---|---|
| 図形の鎖 | 既約閉集合の縮む鎖の長さ |
| Krull 次元 | 素イデアルの伸びる鎖の長さ |
| 超越次数 | 代数的に独立な関数の本数 |
| 接空間 | 滑らかな点での接空間の次元 |
上の 2 つは対応で直結しています。3 番目は正規化定理を経由し、4 番目は滑らかな点でだけ成り立ちます。
計算するときは 3 番目が最も速いことが多い。関数体を見て独立な変数を数えるだけで済みます。
例: 次元を 4 つ計算する
は に同型なので次元 です。関数体は で超越次数も 。
の関数体は です。、 で書けるので超越次数は 、次元も になります。
は既約な曲面の座標環で、次元は です。 本の式で 次元から 落ちています。
は被約でありません。根基をとると になるので、台は 軸で次元は です。
被約でない環でも Krull 次元は定まります。冪零元は素イデアルにすべて含まれるので、次元には効きません[2]。
練習
を かつ で定義される図形とします。 の次元はいくつですか。
- 0
- 1
- 2
- 3
成分に分けて、それぞれの次元の最大をとる。既約でない場合の基本手順です。
よくある誤り
並べておきます。
どの定義で測っているかを言えるようにしておくと、迷ったときに別の道へ移れます。












z=0 は xy 平面を切り出し、xy=0 はその中の 2 直線を残します。X は x 軸と y 軸の和で、どちらの成分も 1 次元です。座標環は k[x,y]/(xy) に同型で、素イデアルの鎖は (x)⊊(x,y) の長さ 1 が最長になります。