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極大イデアルが点になる理由(ヒルベルトの零点定理)

点を 1 つ選ぶと、そこで消える関数の全体が極大イデアルになります。

この向きは計算するだけです。難しいのは逆向きで、極大イデアルがいつでも点から来るかどうかが問題になります。

答えは体によって変わります。代数閉体なら来る、そうでなければ来ないことがある。分かれ目を作っているのがザリスキの補題です[1]

点から極大イデアルへ

を体、 とします。 で消える多項式を集めましょう。

評価写像 を考えます。これは全射な環準同型です。定数がそのまま送られるためです。

核が で、準同型定理から次が成り立ちます。

剰余環が体なので、 は極大イデアルです。

具体形も分かります。 はどれも で消えるので で、左辺がすでに極大なので等号になります。

逆向きが問題になる

極大イデアル を先に与えられたとき、対応する点を作れるでしょうか。

と置きます。 は体で、 上有限生成な代数です。

もし なら、 の像を と書けます。 となるので、 です。

問題は かどうか。ここでザリスキの補題が効きます。

ザリスキの補題

が体 上の代数として有限生成なら、 の有限次拡大です[1]

証明には正規化定理が使えます[2] 上有限にとると、 が体であることから が出ます。

なら の中に逆元をもたない元があり、その上で有限な も体になれないためです。

なら 上有限生成加群、つまり有限次拡大になります。

が代数閉体なら有限次拡大は 自身しかありません。したがって です。

弱い零点定理

いまの議論をまとめます[1]

を代数閉体とすると、 の極大イデアルはすべて の形です。

極大イデアルで割って体 を作る

上有限生成なのでザリスキの補題が使える

が代数閉体なら

の像が点の座標を与える

同じことを別の形で言うと、真のイデアル には共通零点が必ずあります。 を含む極大イデアルをとれば、それが点を与えるためです。

代数閉でないと崩れます。 は真のイデアルですが、実数の共通零点がありません[1]

対応を絵にする

点とイデアルの往復を描いておきます。

左から右へは、いつでも作れます。右から左へ戻れるかどうかが、体の性質に依存します。

代数閉体なら往復が閉じます。極大イデアルの集合と が 1 対 1 に対応する。

例: 代数閉でない体で数える

崩れ方を具体的に見ます。

既約多項式は 次と、判別式が負の 次です。極大イデアルは の 2 種類あります。前者が実数の点、後者は共役な複素数の組にあたります。

は極大で、剰余体は です。有理数の点には対応しません。剰余体は の有限次拡大になり、ザリスキの補題の主張どおりです。

のとき既約で、剰余体は です。有限体上でも、剰余体は有限次拡大になります。

代数閉体なので、極大イデアルは だけです。剰余体はすべて で、点と 1 対 1 に対応します。

代数閉でない体では、剰余体が大きくなる極大イデアルが出てきます。それでも有限次拡大には収まる。

「点」の定義を剰余体まで込みにすると、この差も扱えます。スキーム論の考え方です[3]

強い零点定理

イデアル全体との対応も書けます[1]

を代数閉体、 をイデアルとすると、 の上で消える多項式の全体は の根基になります。

したがって代数的集合と根基イデアルが 1 対 1 に対応します。包含は逆向きです。

根基をとる操作が要るのは、冪で消える情報が図形に見えないためです。 は同じ零点をもちます。

太った図形が細くなる

根基をとる操作を動かします。

太さは冪零元のぶんです。 には という元があります。

零点の集合として見ると、太っていても細くても同じ直線です。差が見えるのは環の側だけになります。

古典的な代数幾何では根基をとって細くしていました。スキーム論では太さも残します[5]

素イデアルまで広げる

極大イデアルだけを点とすると、既約な部分多様体が扱いにくくなります。

素イデアルまで点と見なすのが、スキーム論の立場です[3] は素イデアル全体の集合になります。

素イデアル には既約閉集合 が対応し、 はその生成点と呼ばれます。閉包が になる点です。

なら が平面の生成点、 が曲線 の生成点、 が通常の点です。

古典的な点は閉点として全部残っています。増えたのは、部分多様体を代表する点のほうです[4]

剰余体という視点

点を とすると、剰余体 が「その点での値がなす体」になります。

上有限生成なら、閉点の剰余体は の有限次拡大です。ザリスキの補題の言い換えになります[1]

なら です。 点ですが、値が複素数になる点だと読めます。

なら です。次数のぶんだけ大きな有限体になります。

点に体が付いている、と見ると代数閉でない体でも困りません。座標が に入るとは限らないだけです。

練習

の極大イデアルとして、実数の点に対応しないものはどれですか。

__RESULT__

で割ると になります。剰余体が より大きいので、実数の点には対応しません。 の点としては の共役な組にあたります。ほかの 3 つは剰余体が で、実平面の点に対応します。

剰余体を計算する。それが対応するかどうかの判定になります。

よくある誤り

まとめます。

どんな体でも極大イデアルが点に対応すると思う。代数閉体でだけ成り立つ。
零点定理に根基が要らないと思う。 は零点が同じでイデアルが違う。
素イデアルをすべて閉点だと思う。閉包が広がる生成点がある。
剰余体がいつでも だと思う。代数閉でなければ有限次拡大になりうる。
ザリスキの補題を代数閉体でだけ成り立つと思う。任意の体で成り立つ。
冪零元があると点が増えると思う。台は変わらず、環だけが太る。

剰余体を計算する習慣が付くと、代数閉かどうかで迷わなくなります。

参考文献

Hilbert's Nullstellensatz, Wikipedia (English).
Noether normalization lemma, Wikipedia (English).
Scheme (mathematics)), Wikipedia (English).
Dimension of an algebraic variety, Wikipedia (English).
Schema (algebraische Geometrie)), Wikipedia (Deutsch).
点で消える関数を集めると極大イデアルになります。この向きは評価写像を書くだけで済み、難しいのは逆向きです。剰余環が $k$ 上有限生成な体になることからザリスキの補題を使うと、代数閉体では剰余体が $k$ 自身になり、点の座標が読めます。$\mathbb{R}[x]$ の $(x^2+1)$ が反例になる。根基をとる操作、冪零元による太り、素イデアルまで点を広げるスキームの立場、剰余体という視点まで扱います。