有限生成な k 代数〜多項式で書ける環と外れる有理関数体
体 上の代数 が有限生成であるとは、有限個の元 がとれて、 のどの元も たちの多項式として書けることをいいます。
かっこの中に並ぶ が生成元です。使えるのは足し算と引き算とかけ算だけで、割り算は入らない。
定義は、多項式環からの全射としても書ける。 と決めれば、変数 本の多項式環から へ全射がとれます。
核を と置けば です。有限生成な 代数はすべてこの形をしている。
生成元の選び方は 1 通りではなく、本数も変わります。
有限生成と有限は違う
有限生成と、 加群として有限。この 2 つは別の条件です。
有限個の元の多項式で全部が書ける。 は 1 本で生成される。 上のベクトル空間としては無限次元でよい
上のベクトル空間として有限次元。 は が 1 次独立なので有限ではない
有限のほうが強い条件です。 加群として有限なら、 代数としても有限生成になる。
逆は成り立たず、 が反例。 のほうは両方をみたし、 上 2 次元で 1 本で生成される。

代数幾何が座標環として直接に扱うのは、真ん中の段までです。最も外の段は、完備化や関数体として脇に現れる。
例:多項式で書ける環
は定義そのものです。生成元は変数 本。
は に同型です。2 本でとれますが、 1 本でも足ります。
は に同型です。生成元は と の 2 本で、 だけでは が作れません。
は と書けます。生成元は と の 2 本。
後ろの 2 つは、分母を 1 つだけ許した形です。その分母を新しい生成元に加えれば、多項式の枠に収まる。
分母を無制限に許すと、この手は通らない。
有理関数体は外れる
有理関数体 は、 代数としては有限生成ではありません[1]。
と書けたとします。 と置く。
生成元の多項式として書ける元は、分母が の冪になる。 のどの元も の形になるはずです。
には既約多項式が無限にある。そこから を割らないものを 1 つとり、 と呼びます。
とすると 。 は既約だから素元でもあり、 が を割るなら も割る。
は を割らないと決めていました。矛盾するため、有限生成ではない。
同じ議論は が有限体でも通ります。 の既約多項式が無限にあること、それだけを使っているため。
例:形式的べき級数環
も有限生成ではありません。こちらは数え上げで分かる。
を有理数体にとります。有限生成な 代数は多項式環の商で、単項式が可算個しかないため、集合として可算になる。
のほうは係数の列全体と対応するので、非可算です。濃度が違うため、有限生成にはなれない。
例:部分環では壊れる
有限生成な環の部分環が、また有限生成とは限りません[1]。
の中で、 軸の上で定数になる多項式を全部集めます。 が によらない、という条件。
集めたものは環になり、 と書ける。
は有限生成ではありません。生成元を有限個とると、 の 1 次の項に現れる の次数に上限ができるためです。
上限を と置く。生成元をかけ合わせると の次数が上がるため、積の の 1 次の項は、もとの の 1 次の項の定数倍を足したものにしかならない。
そこに現れる の次数は 以下のままです。 は に属するのに、選んだ生成元からは作れない。
商と 1 つの元での局所化では壊れない
とし、 をイデアルとします。 は像 で生成されるため、有限生成になる。
での局所化 も と書けます。生成元が 1 本増えるだけ。
素イデアルでの局所化 は違う。分母に の外の元をすべて許すため、一般には有限生成でなくなります。
が例です。 の をいくらでも分母に使えるため、有理関数体と同じ数え上げが通る。
体拡大の有限生成とは別のもの
体の話では、有限生成という言葉が別の意味で使われます。
体拡大 が有限生成とは、有限個の元 をとって と書けること。こちらは分数を許します。
は体拡大としては有限生成で、 1 本で生成される。ところが 代数としては有限生成ではありません。
2 つを分けているのは、かっこの形が と で変わるところ。
ネーター環になる
ヒルベルトの基底定理から、 がネーターなら もネーターです。剰余環もネーターなので、有限生成な 代数はすべてネーターになる。
どのイデアルも有限個の元で生成されます。方程式を有限個で書ける、ということ。
極小素イデアルも有限個しかないため、図形の既約成分が有限個に収まる。無限個の成分をもつ図形は、この枠には現れません。
逆は成り立たない。 はネーターですが、有限生成ではありません。
次元が有限になる
Krull 次元も有限です。ネーターの正規化定理から従う[3]。
が 上有限生成なら、代数的に独立な がとれて、 が 上の加群として有限になります。
この がちょうど 。 が整域なら、商体の 上の超越次数とも一致します[1]。
整域ならもう 1 つ、素イデアル について次が成り立つ[4]。
余次元と次元を足すと全体に戻る、という形です。
ザリスキの補題
体 が体 上の代数として有限生成なら、 は の有限次拡大になります[2]。ザリスキの補題という。
に条件はつきません。代数閉でなくても成り立つ。
が 代数として有限生成でなかったのは、この補題の特別な場合でもあります。 は 上有限次でないため、有限生成にはなれない。
非可算な体なら証明が短い
が非可算のときは、次元を数えるだけで証明が済みます[1]。
有限生成な 代数 は、生成元の単項式で張られる。単項式は可算個しかないため、 の 上の次元はたかだか可算です。
いっぽう の次元は非可算になる。 に対する たちが 1 次独立なので、 の濃度だけ独立な元が並びます。
が体で、 上超越的な元 を持ったとします。 で が に埋め込まれ、 の次元が非可算になる。可算だったことに反します。
だから のどの元も 上代数的。有限個の代数的な元で生成される環は 上有限次なので、 は有限次拡大になる。
上の代数ならこれで済みます。一般の体では別の筋がいる[2]。
極大イデアルが点になる
を 上有限生成、 を極大イデアルとすると、 は 上有限生成な体です。ザリスキの補題から、 の有限次拡大になる。
が代数閉なら有限次拡大は 自身しかないため、。
でこれを使うと、 の像が と書けます。 は に入るため 。
左辺がすでに極大だから、等号になる[2]。極大イデアルを点と呼べる根拠がここにあります。
代数閉でないと崩れる。 の は極大ですが、剰余体が で、 の点には対応しません[2]。
幾何との往復
k 上有限生成な整域をとる
多項式環の剰余として書き直す
定義イデアルの零点として図形を得る
逆向きもたどれます。既約アフィン多様体の座標環は、 上有限生成な整域になる。
この往復があるため、環の言葉と図形の言葉を行き来できる。有限生成でない環には、対応する古典的な図形がありません。
スキーム論では枠が広がり、 のような環も空間として扱えます。それでも有限型という条件は、多くの定理で仮定に残る。
例:生成元の本数を数える
同じ環でも生成元の本数は変わります。
は 1 本。 は 2 本いる。 だけでは が作れず、 だけでは が作れません。
は の部分環で、 を含まない。尖点の座標環にあたります。
| 1 本 | |
| 2 本 | |
| 2 本。 を入れれば と書ける | |
| 本 | |
| 有限本では足りない |
最小の本数は、その図形が入る最小のアフィン空間の次元にあたる。 なら平面までで、直線には入りません。
次のうち 代数として有限生成でないものはどれですか。
について正しいのはどれですか。
- ネーターだが 代数として有限生成ではない
- 代数として有限生成だがネーターではない
- どちらもみたす
形式的べき級数環はネーターです。ところが を有理数体にとると、有限生成な 代数は可算集合になり、 の濃度に届かない。ネーターであることと有限生成であることは、別の条件です。
有限個の生成元で書けるかどうか。この 1 点を確かめれば、ネーターであることも、次元が有限であることも、剰余体が有限次拡大になることも、そこから導けます。












有理関数体 k(t) が外れます。生成元を有限個とると分母に使える既約多項式が有限個に限られ、それ以外を分母にもつ元が作れません。k[t,t−1] は分母が t の冪だけなので 2 本で生成でき、k×k×k は k 上 3 次元になる。