因子とは何か - Weil 因子と Cartier 因子(代数幾何学)

代数幾何学では、曲線や曲面の上にある「特別な場所」を代数的に記述する道具が必要になります。たとえば、ある関数が零点を持つ場所や極を持つ場所を、単に集合として扱うのではなく、重複度も含めて正確に記録する仕組みが欲しいところです。この役割を果たすのが因子(divisor)という概念です。

因子には大きく分けて Weil 因子と Cartier 因子の 2 種類があり、それぞれ異なる視点から同じ現象を捉えています。

Weil 因子

余次元 1 の既約部分多様体の形式的な整数係数の和。幾何的に「どこに、何重の零点・極があるか」を直接記述する。

Cartier 因子

局所的に 1 つの関数の零点・極として書ける因子。層の言葉と相性がよく、連接層や直線束と自然に結びつく。

両者は、多様体が十分よい性質(正規性やネーター性など)を持つとき一致しますが、特異点がある場合には食い違いが生じます。

Weil 因子の定義

を正規ネーターな整スキームとします。 上の Weil 因子とは、余次元 1 の既約閉部分多様体(素因子)の形式的な整数係数の和です。つまり、 の素因子を とすると、Weil 因子

という形をしています。 がすべて 以上のとき、有効因子(effective divisor)と呼ばれます。

具体的な例で考えてみます。射影直線 の場合、素因子は各点 に対応します。たとえば は、点 に重複度 の零点、点 に重複度 の極を持つような状況を表しています。

素因子余次元 1 の既約閉部分多様体
Weil 因子素因子の整数係数の形式和
有効因子係数がすべて非負の Weil 因子
因子の次数係数の総和 (曲線の場合)

Weil 因子の全体は自然にアーベル群をなし、この群を Weil 因子群 と書きます。加法は係数ごとの和で定義されるので、群の構造は素因子を基底とする自由アーベル群そのものです。

有理関数と主因子

Weil 因子の中でも特に重要なのが、有理関数から作られる因子です。 の関数体 の元 に対して、各素因子 における の位数 を考えます。これは、 に沿ってどれだけの重複度で零点(正の値)や極(負の値)を持つかを測る整数値です。

から定まる Weil 因子

主因子(principal divisor)と呼びます。 が正規ネータースキームであれば、 となる は有限個しかないため、この和はきちんと定義されます。

たとえば 上で有理関数 を考えると、 で 2 位の零点、 で 1 位の極を持ちます。また、 での振る舞いも考慮する必要があり、 となります。

主因子全体は の部分群をなし、商群

Weil 因子類群(divisor class group)です。2 つの Weil 因子が同じ類に属するとき、それらは線形同値であるといいます。

Cartier 因子の定義

Cartier 因子は、因子を「局所的に 1 つの関数で書ける」という条件で捉え直したものです。

を整スキームとし、 の有理関数の層(の可逆元のなす層)、 を正則関数の可逆元のなす層とします。 上の Cartier 因子とは、大域切断

の集まりであって、 は開被覆、各 で、重なり 上で を満たすものです。

言い換えると、Cartier 因子は商層 大域切断です。

層の商をとることで、局所的な有理関数の選び方の自由度(正則な可逆関数倍の不定性)を吸収している。

直感的には、Weil 因子が「零点・極の場所と重複度のリスト」であるのに対し、Cartier 因子は「局所的にその零点・極を定義する関数の貼り合わせデータ」にあたります。

両者の関係

が正規ネーターな整スキームのとき、Cartier 因子から Weil 因子への自然な準同型が存在します。Cartier 因子 に対して、各素因子 上での の位数を読み取ることで、Weil 因子 を対応させるわけです( となる をどれか 1 つ選べば、貼り合わせ条件から結果は の選び方によりません)。

この対応は常に単射ですが、全射になるかどうかは の性質に依存します。

条件Weil = Cartier か
正規 + 局所 UFD一致する
正規 + 非 UFD一致しないことがある
非正規Weil 因子の定義自体に注意が必要

たとえば滑らかな多様体の局所環は正則局所環であり、正則局所環は UFD なので、滑らかな多様体では Weil 因子と Cartier 因子は完全に一致します。一方、二次錐面 のような特異点を持つ多様体では、Weil 因子として定義できても Cartier 因子としては表せない因子が存在します。

Cartier 因子と直線束

Cartier 因子の重要な側面は、直線束(階数 1 の局所自由層)との対応です。Cartier 因子 に対して、 上では で生成される の部分層を考え、貼り合わせ条件を使ってこれらを大域的に貼り合わせると、 加群の層 が得られます。この層は直線束、すなわち各点の近傍で と同型になる層です。

この対応のもとで、Cartier 因子の線形同値は直線束の同型に対応します。したがって、Cartier 因子の類群はピカール群 上の直線束の同型類がなすアーベル群)と同型になります。

Cartier 因子

直線束

ピカール群 の元

この対応があるおかげで、因子の問題を層の問題に翻訳でき、コホモロジーなどの強力な道具が使えるようになります。リーマン・ロッホの定理をはじめとする代数幾何学の中心的な結果は、この因子と層の対応の上に成り立っています。

具体例 - 射影直線の場合

射影直線 は代数閉体)の場合を見てみます。 は滑らかなので、Weil 因子と Cartier 因子は一致します。

素因子は閉点 そのもので、Weil 因子は は閉点)の形です。有理関数 の主因子は、 の零点と極を重複度込みで記録したものになります。

ここで重要な事実として、 上の任意の有理関数の主因子は次数 です。つまり零点の重複度の和と極の重複度の和が常に等しくなります。逆に、次数 の因子はすべて主因子になるため、Weil 因子類群は次数の情報だけで決まります。

この同型は因子の次数写像 から誘導されます。直線束の言葉では、)がすべての直線束を尽くしており、 となります。

射影直線 上の Weil 因子 は閉点)について正しいのはどれですか?

  • は有効因子である
  • は主因子である
  • の因子類は で非自明な元を定める
  • に対応する直線束は と同型である
__RESULT__

の次数は です。 では次数 の因子はすべて主因子になるため、 は線形同値の意味で と同値です。有効因子ではありません( の係数が負)。対応する直線束は です。