電子の質量は直接測れないので電場と磁場で比電荷を出す
電子 1 個の質量は、はかりに載せて測れません。電荷も直接は数えられない。
それでも という比なら測れます。この量を比電荷と呼びます[1]。
電場や磁場のなかで電子がどれだけ曲がるかを見ると、この比だけが式に残るためです。
電場のなかでは放物線を描く
平行な極板のあいだへ電子を横から打ちこみます。受ける力は で、向きは一定。
進む向きには力がないので等速、垂直な向きには等加速度になります。斜方投射と同じ形なので、軌道は放物線[1]。
加速度に と が別々ではなく、 という比の形で入っています。ここが要点です。
極板の長さを 、入射の速さを とすると、通り抜けるまでの時間は 。そのあいだのずれは次のとおり。
を測れば が出ます[1]。
磁場のなかでは円を描く
磁場をかけると、力は速度に垂直なので円運動になります。半径は次の形。
これを比の形に直します[2]。
半径 と磁束密度 は測れます。残る をどう決めるかが問題になる。
速さを決める 2 つの道
1 つは加速電圧を使う方法です。電圧 で加速すれば、得たエネルギーがすべて運動エネルギーになります。
ここにも しか出てきません。 の式へ代入すると、比電荷が求まります。
もう 1 つは速度選択器です。電場と磁場を直交させ、2 つの力がつり合う速さの電子だけを通す[3]。
電荷も質量も消えました。どんな粒子でも、この速さのものだけが直進します[3]。

電荷が分かれば質量も分かる
比電荷だけでは、 と を別々には出せません。もう 1 つ独立した測定が要ります。
それがミリカンの油滴の実験で、電気素量 そのものを測りました。2 つを合わせれば質量が出ます。
年、トムソンは陰極線を電場と磁場で曲げ、この比を測りました。出てきた値は水素イオンのおよそ千倍[4]。
比電荷が千倍だということは、とても軽いか、とても電荷が大きいか のどちらかを意味します。
実際は前者だった。原子よりずっと小さくて軽い粒子がある、という結論につながる。
例 1:速度選択器を通す
、 を直交させます。
秒速 。これより速い電子は磁場の力が勝って曲がり、遅い電子は電場の力が勝って逆へ曲がります。
例 2:円の半径から出す
例 1 を通った電子を、 だけの領域へ入れます。半径が と測れました。
に近い値が出ました。半径と磁束密度と速さだけで、比電荷が決まります。
例 3:加速電圧から速さを出す
静止した電子を で加速します。
例 1 とほぼ同じ速さ。 という身近な電圧で、光速の 2 パーセントに達します。
例 4:極板のあいだで曲げる
の電子を、長さ 、電場 の極板間へ入れます。
通り抜ける時間は 。加速度は次のとおり。
ずれます。ブラウン管はこの原理で電子を画面上の位置へ振り分けていました。
例 5:実験値から逆算する
、、 で、ずれが と測れたとします[1]。
計算すると [1]。測るのは長さと電圧と速さだけで足ります。
例 6:陽子と比べる
陽子の質量は です。
電子の 分の 1。同じ電場で同じだけ加速したとき、陽子は電子よりずっと曲がりにくくなります。
速度選択器を通り抜けた粒子について、正しいのはどれですか。
- 電荷が同じものだけが通る
- 速さが のものだけが通る
- 質量が同じものだけが通る
押さえどころ
| 比電荷 | |
| 電場での軌道 | 放物線。 |
| 磁場での軌道 | 円。、 |
| 加速電圧 | |
| 速度選択器 | 。電荷にも質量にもよらない |
| 質量を出すには | 電気素量 を別に測る |
電場でも磁場でも、式に出てくるのは と の比だけです。1 個の電子を捕まえて量る必要がありません。
曲がり方を測れば比が出て、電荷を別に測れば質量も出る。原子より小さい世界の量を、目に見える長さと電圧から決めた道すじです。















つり合いの条件 eE=evB から電荷が両辺で消え、v=E/B だけが残ります。電荷にも質量にもよらないので、速さだけで選り分けられる。質量分析器の前段に置かれるのは、そろった速さで入れるためです。