命題論理を公理から構築する|記号論理学の公理系
自然演繹とは異なるアプローチとして、公理系(axiomatic system)があります。少数の公理と推論規則だけを使って、命題論理のすべての定理を導く体系です。ヒルベルト流と呼ばれることもあります。
公理系とは何か
公理系は、証明なしに正しいと認める命題(公理)と、公理から新しい命題を導く規則(推論規則)からなります。公理は体系の出発点であり、そこから推論規則を繰り返し適用して定理を導きます。
多くの推論規則を使う。仮定を立てて解消するスタイル。
少数の公理と最小限の推論規則。公理から演繹的に導くスタイル。
古典的な公理系の例
命題論理の代表的な公理系を紹介します。含意 → と否定 ¬ を基本結合子とし、他の結合子は定義で導入します。
公理は 3 つだけです。
φ → (ψ → φ)
(φ → (ψ → χ)) → ((φ → ψ) → (φ → χ))
(¬φ → ¬ψ) → (ψ → φ)
これらは公理スキーマと呼ばれ、φ, ψ, χ に任意の論理式を代入したものがすべて公理として認められます。
推論規則:モーダスポネンス
公理系で使う推論規則は、モーダスポネンスただ一つです。
$$
φ と φ → ψ から ψ を導きます。この一つの規則と 3 つの公理だけで、命題論理のすべての定理が証明できます。
公理系での証明の例
p → p を公理系で証明してみましょう。自然演繹では一瞬でしたが、公理系ではやや技巧が必要です。
まず公理 2 に φ = p, ψ = p → p, χ = p を代入すると、(p → ((p → p) → p)) → ((p → (p → p)) → (p → p)) を得ます。
公理 1 に φ = p, ψ = p → p を代入すると、p → ((p → p) → p) を得ます。
モーダスポネンスで (p → (p → p)) → (p → p) を得ます。
公理 1 に φ = p, ψ = p を代入すると、p → (p → p) を得ます。
最後にモーダスポネンスで p → p を得ます。
公理を適切に代入
モーダスポネンスで中間結果を導く
さらにモーダスポネンスで最終結果
なぜ公理系は複雑なのか
公理系での証明は、自然演繹と比べて人工的で複雑に見えます。p → p のような自明な命題でさえ、5 ステップもかかります。
しかし、公理系には理論的な利点があります。体系の構造が単純なので、メタ定理(体系に関する定理)を証明しやすいのです。たとえば「この体系で証明可能なすべての式はトートロジーである」といった性質を示すのに、規則が少ない方が扱いやすいです。
連言と選言の定義
公理系では、連言と選言を含意と否定で定義します。
p ∧ q は ¬(p → ¬q) と定義できます。「p ならば q でない」が成り立たない、つまり p と q が両方真ということです。
p ∨ q は ¬p → q と定義できます。「p でないならば q」は「p または q」と同値です。
p ∧ q ≡ ¬(p → ¬q)
p ∨ q ≡ ¬p → q
公理系のバリエーション
命題論理の公理系は一通りではありません。異なる公理の選び方があり、どれも同じ定理の集合を導きます。
たとえばウカシェヴィチの公理系、メンデルソンの公理系など、さまざまなバリエーションがあります。公理の数や形が異なっても、最終的に証明できる定理は同じです。
次回は、公理系と自然演繹の関係、特に健全性と完全性について学びます。