コンパクト性定理:無限と有限をつなぐ重要な定理 - 記号論理学
コンパクト性定理(compactness theorem)は、モデル理論の基本定理の一つです。無限と有限をつなぐ橋渡しの役割を果たし、数学のさまざまな分野で応用されています。
コンパクト性定理の主張
コンパクト性定理は次のように述べられます。
論理式の集合 Γ がモデルを持つための必要十分条件は、Γ の任意の有限部分集合がモデルを持つことである。
言い換えれば、Γ が充足不能なら、Γ のある有限部分集合が充足不能です。無限個の式すべてを満たせない場合、有限個の式だけでもう矛盾しているのです。
Γ が充足可能 ⇔ Γ の任意の有限部分集合が充足可能
Γ が充足不能 ⇔ Γ のある有限部分集合が充足不能
名前の由来
「コンパクト性」という名前は、位相空間論のコンパクト性に由来します。
論理式の集合に適切な位相を入れると、モデルの集合がコンパクト空間になります。コンパクト空間では、開被覆が有限部分被覆を持つという性質があり、これがコンパクト性定理に対応しています。
証明の概略
コンパクト性定理は、完全性定理から導けます。
Γ からある式 φ が論理的に帰結するなら(Γ ⊨ φ)、完全性定理より証明可能です(Γ ⊢ φ)。証明は有限なので、Γ の有限部分集合 Γ₀ から証明できます。
Γ が充足不能なら、Γ ⊨ ⊥(矛盾)なので、有限部分集合から矛盾が導けます。つまり有限部分集合が充足不能です。
Γ が充足不能と仮定
Γ ⊨ ⊥(矛盾が帰結)
完全性定理より Γ ⊢ ⊥
証明は有限、有限部分集合で足りる
応用例:無限モデルの存在
コンパクト性定理の典型的な応用を見てみましょう。
T を任意の有限モデルを持つ理論とします(すべての有限サイズのモデルが存在)。このとき、T は無限モデルも持ちます。
証明:T に「少なくとも n 個の要素がある」という文 ψₙ を追加した集合を考えます。T ∪ {ψ₁, ψ₂, ψ₃, …} の任意の有限部分集合は、十分大きな有限モデルで充足されます。コンパクト性定理より、全体もモデルを持ち、それは無限モデルです。
サイズ 1, 2, 3, … の各モデルが存在。
コンパクト性定理により、無限モデルの存在が従う。
応用例:非標準モデル
自然数の理論(ペアノ算術)にコンパクト性定理を適用すると、興味深い結果が得られます。
ペアノ算術の公理に、「c はすべての標準的自然数より大きい」という無限個の文を追加します。各有限部分集合には十分大きな自然数でモデルを与えられます。よって、コンパクト性定理より全体にモデルが存在し、それは「無限大の自然数」c を含む非標準モデルです。
通常の自然数 0, 1, 2, … に加えて、「無限大」の要素を持つモデル。ペアノ算術は満たすが、我々の直観とは異なる。
コンパクト性定理の限界
コンパクト性定理は強力ですが、二階論理では成り立ちません。
「ちょうど有限個の要素がある」という性質は、二階論理では表現できますが、一階論理では表現できません。コンパクト性定理があるため、一階論理では有限性を特徴づけられないのです。
次回は、レーヴェンハイム・スコーレム定理について学びます。