決定可能性と決定不能性:機械的に判定できる問題とは - 記号論理学

決定可能性(decidability)は、問題を機械的に解けるかどうかを問う概念です。記号論理学と計算理論が交わる重要なテーマであり、チューリングやチャーチの先駆的研究に基づいています。

決定可能性の定義

理論 T が決定可能(decidable)であるとは、任意の文 φ について、φ が T の定理かどうかを判定するアルゴリズムが存在することです。

アルゴリズムとは、有限時間で必ず停止し、正しい答え(YES または NO)を返す手続きです。

決定可能

機械的な判定手続きが存在する。入力に対して必ず有限時間で答えが出る。

決定不能

そのような手続きが存在しない。一般には解けない問題。

決定不能の例:述語論理の妥当性

チャーチとチューリングは1936年に、一階述語論理の妥当性問題が決定不能であることを証明しました。

与えられた論理式 φ がトートロジー(すべての解釈で真)かどうかを判定する一般的なアルゴリズムは存在しません。

命題論理の妥当性

決定可能。真理値表で機械的に判定できる。

述語論理の妥当性

決定不能。一般的な判定アルゴリズムは存在しない。

セミ決定可能性

述語論理は決定不能ですが、セミ決定可能(semi-decidable)です。

妥当な式については、有限時間で「YES」と答えられます(完全性定理より証明が見つかる)。しかし、妥当でない式については、探索が永遠に続く可能性があり、「NO」と確定できないことがあります。

妥当な式

証明を探索

有限時間で発見(YES)

妥当でない式の場合、反例を見つけられるかもしれませんが、保証はありません。

決定可能な断片

述語論理全体は決定不能ですが、いくつかの断片は決定可能です。

単項述語論理:述語がすべて1項(単項)の場合、妥当性は決定可能です。

いくつかの冠頭標準形の断片:量化子のパターンが限定された式のクラスで、決定可能なものがあります。

決定可能な断片

単項述語論理、∀ 形式の式など。限定されたクラス。

決定不能になる境界

2項述語と2つの量化子があれば、もう決定不能に十分。

停止問題との関係

決定不能性の最も有名な例は、チューリングの停止問題です。

「プログラム P を入力 x で実行すると停止するか」を判定する一般的なアルゴリズムは存在しません。この結果は対角線論法で証明されます。

述語論理の決定不能性は、停止問題の決定不能性に帰着させて証明できます。論理式の妥当性判定ができれば、停止問題も解けることになり、矛盾します。

帰納的可算と帰納的

決定可能性に関連する概念として、帰納的可算性があります。

集合 S が帰納的可算(recursively enumerable)であるとは、S の要素を列挙するアルゴリズムが存在することです。S と補集合 S̄ が両方とも帰納的可算なら、S は帰納的(recursive)、つまり決定可能です。

帰納的(決定可能)

YES も NO も有限時間で判定できる。

帰納的可算だが帰納的でない

YES は判定できるが、NO は確定しないことがある。

述語論理の妥当な式の集合は、帰納的可算だが帰納的ではありません。

実用的な含意

決定不能性は理論的な限界ですが、実用的には多くの問題が解けます。

自動定理証明器は、多くの場合に有用な結果を出します。決定不能性は「最悪の場合」の限界であり、実際に遭遇する問題の多くは扱えます。

また、決定可能な断片(命題論理、特定の述語論理の断片など)だけで十分な応用も多くあります。

次回からは、発展的なトピックとして様相論理を紹介します。