「すべての」を形式化する|記号論理学の全称量化子 ∀

全称量化子(universal quantifier)は、「すべての」を形式化する記号です。記号 ∀ で表し、述語論理の表現力を飛躍的に高める核心的な概念です。

全称量化子 ∀ とは

∀x φ(x) は「すべての x について φ(x) が成り立つ」を意味します。∀ は「for all」の A を逆さにした記号です。

たとえば「すべての人間は死ぬ」は、H(x) を「x は人間」、M(x) を「x は死ぬ」として、∀x(H(x) → M(x)) と書けます。これは「すべての x について、x が人間ならば x は死ぬ」という意味です。

∀x φ(x) の読み方

「すべての x について φ(x)」または「任意の x に対して φ(x)」

典型的な使用パターン

「すべての A は B である」は ∀x(A(x) → B(x)) と書く

議論領域

全称量化子の意味を確定するには、議論領域(domain of discourse)を指定する必要があります。議論領域とは、変項 x が動く範囲、つまり「すべての」が指す対象の全体です。

議論領域が自然数全体なら、∀x(x + 0 = x) は「すべての自然数について、0 を足しても変わらない」という意味になります。議論領域が人間全体なら、∀x H(x) は「すべての人間について H が成り立つ」となります。

議論領域が狭いとき

∀ は少数の対象について「すべて」を主張する。

議論領域が広いとき

∀ は膨大な(あるいは無限の)対象について「すべて」を主張する。

全称量化子の入れ子

複数の変項を量化することもできます。∀x ∀y φ(x, y) は「すべての x とすべての y について φ(x, y) が成り立つ」を意味します。

たとえば「すべての数 x, y について x + y = y + x」は、加法の交換法則を表す文です。

量化子が同種(両方 ∀ または両方 ∃)なら順序を入れ替えても同じ意味になります。∀x ∀y φ(x, y) と ∀y ∀x φ(x, y) は同値です。

全称量化と含意

「すべての A は B である」という文の形式化には注意が必要です。

素朴に ∀x(A(x) ∧ B(x)) と書くと、「すべての x について、A(x) かつ B(x)」となり、意味が変わってしまいます。これは「すべてのものは A であり、かつ B である」という主張になります。

正しくは ∀x(A(x) → B(x)) です。これは「すべての x について、A(x) ならば B(x)」であり、「A であるものについては必ず B である」という意味になります。

正しい形式化

「すべての A は B」は ∀x(A(x) → B(x))

誤った形式化

∀x(A(x) ∧ B(x)) は「すべてが A かつ B」の意味になってしまう

全称量化子の否定

∀x φ(x) の否定は、「すべての x について φ(x)」が偽である、つまり「ある x について φ(x) でない」です。

¬∀x φ(x) ≡ ∃x ¬φ(x)

これは量化子の否定に関する重要な同値式です。「すべてが P であるわけではない」は「P でないものが存在する」と同じ意味です。

「すべての鳥が飛べる」の否定

「すべての鳥が飛べるわけではない」

「飛べない鳥が存在する」

空虚な真理

議論領域に A(x) を満たすものがまったく存在しない場合、∀x(A(x) → B(x)) は真になります。これは含意の性質から来ています。

たとえば「すべてのユニコーンはピンク色である」は、ユニコーンが存在しないので真とみなされます。A(x) が偽なら A(x) → B(x) は真だからです。

これは直感に反するかもしれませんが、論理学ではこのように扱います。「例外が存在しない」という意味で真なのです。

次回は、全称量化子と対をなす存在量化子 ∃ について学びます。