同一性をどう形式化するか|記号論理学における等号の論理
等号(=)は、2つの項が同じ対象を指すことを表す特別な述語です。「2 + 2 = 4」や「明けの明星 = 宵の明星」のように、数学でも日常でも広く使われます。等号を形式的に扱うことで、より豊かな推論が可能になります。
等号を含む論理
等号を含む述語論理を、等号付き一階述語論理(first-order logic with equality)と呼びます。等号は通常の述語とは異なる特別な扱いを受けます。
等号 = は2項述語として扱われますが、その解釈は固定されています。任意の構造において、t = s は「t と s が同じ対象を指す」ことを意味します。
通常の述語は、解釈によって意味が変わる。しかし等号は、常に「同一性」を意味する。
中置記法で t = s と書く。P(t, s) のような前置記法は使わない。
等号の公理
等号には、いくつかの基本的な性質があります。これらを公理として採用します。
反射律:∀x (x = x)。すべての対象は自分自身と等しいです。
対称律:∀x ∀y (x = y → y = x)。x = y なら y = x です。
推移律:∀x ∀y ∀z (x = y ∧ y = z → x = z)。等しさは推移的です。
自分自身との等号は常に成り立つ。最も基本的な性質。
等号が同値関係であることを保証する。
置換原理
等号のもう一つの重要な性質は、置換原理(substitution principle)またはライプニッツの法則です。
等しいものは、任意の文脈で置き換えてよい。形式的には、t = s ならば、任意の式 φ(x) について φ(t) ↔ φ(s) が成り立ちます。
これは無限個の公理スキーマとして表されます。各述語 P について、∀x ∀y (x = y → (P(…, x, …) ↔ P(…, y, …))) が成り立ちます。
等号の推論規則
自然演繹では、等号に対する導入規則と除去規則を設けます。
等号導入(=I):任意の項 t について、t = t を導入できます。何も前提なしで、反射律を使えます。
等号除去(=E):t = s と φ(t) から φ(s) を導きます。等しい項で置き換えてよいという規則です。
t = t はいつでも導ける。証明不要の自明な真理。
t = s があれば、φ の中の t を s で置き換えられる。逆方向も可(対称律より)。
等号を使った証明例
「ソクラテスは哲学者であり、ソクラテスはプラトンの師である」から「ある哲学者がプラトンの師である」を導いてみましょう。
P(x) を「x は哲学者」、T(x, y) を「x は y の師」、s を「ソクラテス」、p を「プラトン」とします。
前提:P(s), T(s, p)
P(s) ∧ T(s, p) が成り立つので、∃x(P(x) ∧ T(x, p)) が存在導入で導けます。
P(s) と T(s, p) から P(s) ∧ T(s, p)
存在導入で ∃x(P(x) ∧ T(x, p))
定義的同一性
等号は、定義を形式化するのにも使われます。
「偶数とは、2で割り切れる整数である」という定義は、∀x(E(x) ↔ ∃y(x = 2·y)) のように書けます。
「ソクラテスとは、プラトンの師かつアテネの市民である」という定義は、∀x(x = s ↔ (T(x, p) ∧ A(x))) のように書けます(ただしこれは通常一意に定まりません)。
数学の定義の多くは、等号を使って表現されます。
次回は、述語論理の完全性定理について学びます。