可能性と必然性を形式化する|様相論理入門 - 記号論理学

様相論理(modal logic)は、「必然性」と「可能性」を形式化する論理体系です。古典述語論理を拡張して、「必ず〜である」「〜かもしれない」といった様相的な表現を扱えるようにします。

様相論理の動機

古典論理では、命題は真か偽かのどちらかです。しかし日常では「必然的に真」「偶然的に真」「可能的に真」といった区別をします。

「2 + 2 = 4」は必然的に真です。どのような状況でも成り立ちます。

「東京は日本の首都である」は真ですが、偶然的です。歴史が異なれば別の都市が首都だったかもしれません。

「明日雨が降る」は可能的に真です。実際に降るかはわかりませんが、降る可能性はあります。

必然的真理

あらゆる可能な状況で真。論理的真理や数学的真理。

偶然的真理

実際には真だが、そうでない状況もありえた。経験的事実。

様相演算子

様相論理では、2つの基本的な演算子を導入します。

□φ(ボックス φ):「φ は必然的に真である」「φ は必ず成り立つ」

◇φ(ダイアモンド φ):「φ は可能的に真である」「φ は成り立ちうる」

これらは互いに定義できます。□φ ≡ ¬◇¬φ(必然は、不可能でないことの否定)、◇φ ≡ ¬□¬φ(可能は、必然的に否定されないこと)。

必然性 □

すべての可能な状況で真。「どうあっても」。

可能性 ◇

少なくとも一つの可能な状況で真。「ありうる」。

可能世界意味論

様相論理の意味論は、クリプキが開発した可能世界意味論で与えられます。

モデルは、可能世界の集合 W、世界間のアクセス可能性関係 R、各世界での命題の真偽を定める付値 V からなります。

□φ が世界 w で真 ⇔ w からアクセス可能なすべての世界で φ が真

◇φ が世界 w で真 ⇔ w からアクセス可能な少なくとも一つの世界で φ が真

可能世界の集合を考える

世界間のアクセス関係を定める

□ は「すべてのアクセス可能な世界で」

◇ は「ある アクセス可能な世界で」

様相論理の体系

アクセス関係の性質に応じて、さまざまな様相論理の体系があります。

K:最も基本的な体系。アクセス関係に条件なし。

T:反射的(wRw が常に成立)。□φ → φ が公理。必然ならば現実。

S4:反射的かつ推移的。□φ → □□φ が公理。必然の必然は必然。

S5:同値関係。◇φ → □◇φ が公理。可能ならば必然的に可能。

T 体系

「必然ならば真」が成り立つ。直観的な様相概念に近い。

S5 体系

「可能なら、どの世界からも可能」。形而上学的必然性に適する。

様相論理の応用

様相論理は、哲学以外にも多くの分野で応用されています。

時相論理:□ を「常に」、◇ を「いつか」と解釈。プログラムの検証に使われます。

認識論理:□ を「知っている」と解釈。知識の性質を分析します。

義務論理:□ を「義務である」と解釈。倫理的推論を形式化します。

時相論理

「プログラムは常に安全である」「いつかは停止する」などを表現。

認識論理

「A は φ を知っている」「A は φ かもしれないと思っている」などを表現。

様相論理と古典論理の関係

様相論理は古典論理の保守的拡張です。様相演算子を含まない式については、古典論理と同じ定理が成り立ちます。

様相論理を述語論理と組み合わせた様相述語論理もあります。「すべての人は必然的に死ぬ」□∀x(H(x) → M(x)) のような式が扱えますが、量化と様相の相互作用には微妙な問題があります。

次回は、直観主義論理について学び、記号論理学の講座を締めくくります。