健全性と完全性:証明と意味論の対応関係 - 記号論理学
健全性(soundness)と完全性(completeness)は、証明体系と意味論の関係を表す重要な概念です。この2つが成り立つとき、「証明できること」と「論理的に正しいこと」が一致します。
意味論と構文論
論理学には2つの側面があります。意味論(semantics)は真理値や論理的帰結を扱い、構文論(syntax)は証明や導出を扱います。
意味論では、Γ ⊨ φ は「前提 Γ がすべて真のとき結論 φ も真」を意味します。構文論では、Γ ⊢ φ は「前提 Γ から証明規則を使って φ が導出できる」を意味します。
真理値の世界。モデル、真理値表、論理的帰結を扱う。
記号操作の世界。公理、推論規則、証明を扱う。
健全性と完全性は、この2つの世界をつなぐ橋渡しの役割を果たします。
健全性とは
健全性(soundness)とは、証明可能な式はすべて論理的に正しい、という性質です。
もし Γ ⊢ φ ならば Γ ⊨ φ
これは「証明体系が嘘をつかない」ことを意味します。証明規則に従って導いた結論は、必ず意味論的にも正しいのです。
証明できるものは、真理値表で確認してもトートロジーか正しい帰結である。証明体系を信頼できる。
もし健全でない体系なら、正しくない命題が「証明」されてしまう。そのような体系は役に立たない。
完全性とは
完全性(completeness)とは、論理的に正しい式はすべて証明可能である、という性質です。
もし Γ ⊨ φ ならば Γ ⊢ φ
これは「証明体系に漏れがない」ことを意味します。意味論的に正しいことは、証明規則を使ってすべて導けるのです。
完全性は健全性の逆方向です。両方が成り立つとき、⊨ と ⊢ は一致します。
命題論理の健全性と完全性
命題論理において、自然演繹も公理系も健全かつ完全です。つまり、命題論理では「証明できる」ことと「トートロジーである」ことが完全に一致します。
健全性の証明は比較的容易です。各推論規則が妥当な推論であることを確認すればよいのです。たとえばモーダスポネンスは、真理値表で確認すると確かに妥当です。
完全性の証明はより技巧的です。任意のトートロジーに対して証明が構築できることを示す必要があります。
各規則が妥当であることを確認
規則の組み合わせも妥当
証明可能な式は論理的に正しい(健全性)
完全性定理の意義
命題論理の完全性定理は、1920年代にポストとベルナイスによって示されました。
この定理の意義は、真理値表という「機械的な」方法と、証明という「人間的な」方法が同じ結果を与えることを保証する点にあります。どちらの方法を使っても、正しい命題を漏れなく特定できます。
強完全性と弱完全性
完全性には2つのバージョンがあります。
弱完全性は、トートロジーがすべて証明可能、つまり ⊨ φ なら ⊢ φ です。前提のない場合です。
強完全性は、任意の前提からの帰結が証明可能、つまり Γ ⊨ φ なら Γ ⊢ φ です。これはより一般的な主張です。
トートロジーが証明可能。⊨ φ ⟹ ⊢ φ
任意の帰結が証明可能。Γ ⊨ φ ⟹ Γ ⊢ φ
命題論理では、弱完全性から強完全性が導けます。演繹定理と呼ばれる補助定理を使います。
次回からは、命題論理を超えた述語論理の世界に入っていきます。