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不等式を数学的帰納法で示す|2 の n 乗と n の 2 乗の逆転はどこか

から順に入れると、 と並びます。大小が 2 度いれかわり、 から先は が離していく。

canvas: 絵を作れませんでした

を帰納法で示すなら、出発点は 。命題が成り立ちはじめる場所を探すのが最初の仕事です。

等式なら左辺を変形して右辺にたどり着けば終わります。不等式では、仮定から進んだ先が目標にわずかに届かないことがある。どれだけ余りを残して進むかが、そのつど問題になります。

例:2 の n 乗と n

先に易しい形で進め方を見ます。 を示す。

のとき

を仮定し、両辺を 倍する。

最後の から来ています。仮定を使って まで下げ、そこから へ落とす。2 段階に分かれる。

仮定だけでは に届かず、 という別の条件を足して届かせました。この足し方が不等式の帰納法の中心にあります。

例:2 の n 乗と n の 2 乗

を示します。

のとき

を仮定し、両辺を 倍する。

あとは を示せば まで届きます。差をとって形を整える。

なら となるため、この差は正。

途中で「あと何を示せば届くか」を書き出すと、目標との距離が見えます。答案でも、その 1 行を残しておくと筋が読みとりやすくなる。

ベルヌーイの不等式

のもとで、次が成り立ちます。ヤコブ・ベルヌーイが 1689 年の無限級数についての論考で使い、名前がついたものです[1]

左辺は 乗、右辺は 1 次式。伸び方がまるで違うのに、左が下回ることはありません。

canvas: 絵を作れませんでした

例:ベルヌーイの不等式の証明

のとき で、等号が成り立ちます。

を仮定し、両辺に をかける。ここで より となるため、不等号の向きは変わりません。

だから、この項を捨てても不等号は保たれる。

という条件が効いたのは、両辺に をかけた場所です。負の数をかければ向きが変わるため、符号の確認がそこに入ります。

余った を捨てて目標の形にそろえる。不等式では、こうして余りを切り落とす操作がくり返し現れます。

ベルヌーイの不等式の証明で、 という条件はどこで使いますか。

  • 出発点の確認
  • 仮定の両辺に をかけるとき
  • を使うとき
  • 使わない
__RESULT__

負の数をかけると不等号の向きが変わります。 だから、向きを変えずにかけられます。

例:入れ子になった平方根

で定まる数列について、すべての を示します。

のとき

を仮定する。

平方根は大小の向きを保つので、中身をくらべるだけで済みました。 という数は、 を解いて見つけたものです。

漸化式で定まる数列の評価では、この形がよく使える。上から押さえる数を先に見つけておくと、帰納の段階がそのまま通る。

命題を強めると通ることがある

仮定をそのまま使っても目標に届かないとき、証明したい命題をわざと強くする手があります。

について、 を示す場合です。

と、少しずつ増えています。

そこで「 以上」ではなく「増えていく」を示す。差をとると、先頭が 1 つ抜けて末尾が 2 つ増える。

で、そこから増えていくのだから、すべての

を直接示そうとすると、仮定した から先へ進めません。「増えていく」という強い性質のほうが、かえって示しやすくなります。

補足:番号のとり方を変える

帰納法を回す番号は、 そのものでなくてもかまいません。 個の正の数の相加平均が相乗平均以上であることを、 の場合に について回した例があります[2]

、つまり のときは、両辺を 2 乗して整理すると に落ちる。

で成り立つと仮定し、 個を前半と後半に 個ずつ分ける。前半の相加平均を 、相乗平均を 、後半をそれぞれ とすると、仮定から

右端は 個全体の相乗平均です。よって でも成り立つ。

の累乗でない は、あとから別の議論で埋める。回す番号を選び直すと届く、という例です。

を帰納法で示すとき、出発点はどこにとりますか。

__RESULT__

では では で、どちらも不等号が成り立ちません。 が最初に成り立つところです。

不等式の帰納法では、仮定から進んだ先と目標の差をどう埋めるかが決め手になります。追加の条件を足す、余った項を捨てる、示す命題を強くする、番号のとり方を変える。手は 1 つではありません。

出典

Jakob Bernoulli. Positiones arithmeticae de seriebus infinitis earumque summa finita. Basel, 1689. Universitätsbibliothek Basel の電子版.
Cauchy's proof of the inequality of arithmetic and geometric means. A.-L. Cauchy, Cours d'analyse, 1821, pp. 457-459 の対訳.
$2^n$ と $n^2$ は $n = 3$ で $8 < 9$ と逆転し、$n = 4$ で $16 = 16$ と並びます。だから出発点は $n = 5$。等式なら右辺にたどり着けば終わりますが、不等式では仮定から進んだ先が目標に届かないことがある。$k \ge 1$ という別の条件を足して押しこむ二段構え、ベルヌーイの不等式で $x \ge -1$ が効く場所、入れ子の平方根を上から押さえる形を順に見ます。$b_n \ge \dfrac{1}{2}$ のかわりに「増えていく」を示すと通る例まで。