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L2 空間だけが内積を持つ〜ヒルベルト空間と直交射影

には内積が入ります[1]。二乗可積分な関数どうしを掛けて積分するだけ。

右辺が有限になるのはコーシー・シュワルツの不等式からで、これはヘルダーの不等式で ととったもの。

内積からノルムが復元されます。 となり、 ノルムがちょうど内積の言葉で書ける。

完備でもあるので、 は内積空間として完備、つまりヒルベルト空間になります[2]。

内積があると角度がはかれる

内積が入ると、ノルムだけでは言えないことが言えるようになります。2 つの関数のなす角のようなものが定まる。

コーシー・シュワルツの不等式は、右辺の絶対値が 以下であることを保証します。角度が定義できるのはこのおかげ。

のとき と は直交するといいます。このときピタゴラスの定理がそのまま成り立つ。

で内積が入るのは だけ

内積から来るノルムは、中線定理を満たします[2]。逆にこの等式が成り立てば、ノルムから内積を復元できる。

でこれが成り立つかを調べると、 以外では崩れます[2]。台の交わらない 2 つの関数で確かめると早い。

、 で と が交わらず測度が ずつだとします。 なので左辺は 、右辺は 。

等しくなるのは 、つまり のときだけです。

直交射影がとれる

ヒルベルト空間でいちばん効く定理が射影定理です[2]。閉部分空間 と任意の について、 の中で にいちばん近い元がただひとつ存在する。

その元を と書くと、差 が のすべての元と直交します。最短距離を与える点から下ろした線が垂直になる、という素朴な図がそのまま成り立つ。

空間が と の直和に分かれます。バナッハ空間一般では、こうはいかない。内積があってはじめて「垂直」が定義できるからです。

手順にすると 3 段。

f を閉部分空間へ落とす

残りが部分空間と直交する

空間が直和に分かれる

最小二乗法も条件付き期待値も、この射影の言い換えです。近似したい対象を部分空間へ落とす、という同じ操作。

正規直交系とベッセルの不等式

を満たす族を正規直交系といいます[2]。

任意の について、係数 の二乗和がノルムを超えません[3]。ベッセルの不等式です。

証明は射影から出ます。有限個の が張る部分空間へ落とすと、射影のノルムがもとのノルム以下になるだけ。

系が完全なとき、つまり張る空間が稠密なとき、不等号が等号になります[3]。これがパーセバルの等式。

右の展開は の意味で収束します。各点収束ではありません。

ベッセルの不等式

どんな正規直交系でも成り立つ。係数の二乗和がノルムを超えない、という上からの評価

パーセバルの等式

系が完全なときだけ成り立つ。関数の情報が係数だけで完全に決まる

フーリエ級数が で収束する

上で は完全な正規直交系です[4]。だから二乗可積分な関数は、フーリエ級数で 収束する。

これもリース・フィッシャーの定理と呼ばれる主張のひとつ[4]。逆向きに、二乗総和可能な係数列を与えると、それを係数に持つ 関数が存在します。

各点収束のほうは、ずっと難しい問題。 の枠なら収束が素直に言えるのに、各点で追うと議論がまるごと変わります。

跳びのそばに残る山はギブス現象と呼ばれます。高さが減らないのに幅が縮むので、二乗して積分した誤差は に落ちる。

収束が測っているのは平均的な近さであって、各点での近さではありません。

高さの残る山があっても、幅が縮めば二乗積分の寄与は消える。

収束と一様収束の違いが、目に見える形で出ています。

可分なら と同じ

可算な完全正規直交系を持つヒルベルト空間は、係数列との対応で と同一視できます[1]。

パーセバルの等式から、この対応はノルムを保ちます。関数の空間と数列の空間が、内積まで込めて同じものになる。

上の とフーリエ係数の空間 が対応するのは、この一般論の一例です[4]。

の側で見る

関数として扱える。積分や微分の操作がそのまま書ける

の側で見る

数列として扱える。係数の減り方だけを見ればよく、計算が離散になる

リースの表現定理

ヒルベルト空間の連続線形汎関数は、内積の形に必ず書けます[2]。

証明は射影定理から出ます。 の核が閉部分空間なので、その直交補空間の元を使って を組み立てる。

の双対が 自身と同一視できる、という主張になります[5]。一般の では双対が になり、自分自身とは限りません。

の中でヒルベルト空間になるのはどれですか。

  • のすべて
  • だけ
  • と
__RESULT__

ノルムが内積から来るための必要十分条件が中線定理です。台の交わらない指示関数で計算すると、左辺が 、右辺が になり、一致するのは のときだけになります。

よくある誤り

どの にも内積が入ると思う。中線定理が成り立つのは だけです。
パーセバルの等式がどんな正規直交系でも成り立つと思う。完全でなければベッセルの不等式どまりです。
フーリエ級数の 収束から各点収束を結論する。ギブス現象が残る例があります。
射影定理をバナッハ空間一般で使う。垂直が定義できるのは内積があるときだけです。
ベッセルの不等式の向きをとり違える。係数の二乗和がノルム以下、という向きです。
との同一視に完全性が要らないと思う。完全な正規直交系があってはじめて全単射になります。
リースの表現定理を 一般に当てる。双対は であって、自分自身とは限りません。

参考文献

Hilbert space. Wikipedia(英語).
Hilbertraum. Wikipedia(ドイツ語).
Parseval's identity. Wikipedia(英語).
Riesz–Fischer theorem. Wikipedia(英語).
J. K. Hunter. *Measure Theory*. University of California at Davis, 2011.
掛けて積分すれば内積になり、コーシー・シュワルツが角度を定義してくれます。中線定理を台の交わらない指示関数で試すと、釣り合うのは $p = 2$ のときだけ。閉部分空間への直交射影がとれること、ベッセルの不等式が完全な正規直交系でパーセバルの等式に変わること、フーリエ級数が $L^2$ で収束する一方で跳びのそばの山が消えないことを見ます。可分なら $\ell^2$ と同じ、というところまで。