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コーシー列に行き先がある(Lp 空間の完備性とリース・フィッシャー)

のとき、 はノルム について完備です[1]。コーシー列には必ず の中に行き先がある、という主張。

ノルム空間で完備なものをバナッハ空間といいます。 がバナッハ空間になる、と言い換えられる[4]。

リース・フィッシャーの定理と呼ばれます。リースとフィッシャーが 1907 年にそれぞれ独立に示しました[1]。

完備でないと何が困るか

コーシー列に極限があるかどうかが、空間の使いやすさを決める。極限が外へ出てしまうなら、近似で作った対象がその空間の元だと言えません。

リーマン積分可能な関数の全体を で測ると、完備になりません。有理数を 1 点ずつ足していく列がコーシー列で、極限がディリクレ関数になるから[3]。

ルベーグ積分に移ってはじめて、この穴が埋まります。完備性は測度論を採る動機のひとつ。

関数の列を作る

コーシー列だと確かめる

同じ空間の中に極限が現れる

証明の道筋

で見ます。まず部分列を選び直して、差のノルムが急速に小さくなるようにする[3]。

コーシー列なので、こういう選び方ができる。差を と置くと、ノルムの級数が収束する。

つぎに を考えます。非負なので単調収束定理が使え、ミンコフスキーの不等式と合わせるとこの和の ノルムが有限だと分かる。

ノルムが有限なら、値は a.e. で有限。だから は a.e. で絶対収束する。

その和に を足したものを と定めます。部分和がちょうど なので、部分列は a.e. で に収束する。

最後に での収束を言います。 を で押さえられるので、優収束定理が使える[3]。

もとの列がコーシーなので、部分列が収束すれば全体も同じ極限に落ち着く。これで完備性が出ました。

例:完備でないノルム空間

穴があく様子を、具体的な空間で見ておく。 上の連続関数の全体に を入れると、完備になりません。

真ん中で から へ立ち上がる関数を、傾きを急にしながら並べます。 番目は幅 の区間だけで斜めに上がり、外では か 。

差のノルムは重なっていない部分の面積で、 が大きいほど小さくなります。だからコーシー列。

ところが極限は で 、 で をとる階段関数で、連続ではありません。極限が空間の外へ出ています。

まで広げると、この階段関数もちゃんと元として入ります。完備化とは、こうした穴を埋める操作のこと。

は別に扱う

本質的上限のノルムでは、積分を使う議論が通りません。代わりに零集合を数え上げます[3]。

各組 と各 について、 が成り立たない点の集まりは零集合です。これらを全部合わせても、可算個なのでまた零集合。

その外側では が実数のコーシー列になり、各点で収束します。極限を と定めると、評価が一様なので の意味でも収束する[3]。

可算個の零集合を合わせても零集合、という性質がここで効いています。非可算個だと合併が零集合とは限らず、この議論は通りません。

系:a.e. 収束する部分列がとれる

証明の途中で出てきた事実を、独立に書き出しておきます[3]。

で が で成り立つとき、a.e. で に収束する部分列 がとれる。

収束と a.e. 収束は別の概念ですが、部分列を選ぶ自由があれば橋がかかります。証明でよく使う道具。

収束

ノルムの意味で近づく。積分を通した平均的な近さで、各点でのふるまいは問わない

a.e. 収束

ほとんどの点で値が近づく。 収束からは部分列でしか言えない

全体が a.e. 収束するとは限らない

部分列でしか言えないのはなぜか。全体が a.e. 収束しない例があるからです[3]。

の上で、区間を走査する列を作ります。まず 、つぎに と 、つぎに 4 等分した区間を順に、という具合。

それぞれの指示関数を並べると、 ノルムは区間の長さの 乗なので に落ちます。ところがどの点でも、 をとる番号と をとる番号が無限に交互に現れる。

各点で振動し続けるので、収束する点がひとつもありません。それでも では に収束しています。

この列から部分列を選び直すと、a.e. 収束するものがとれます。たとえば各段の最初の区間だけを拾えば、 へ落ちる場所が増えていく。

収束から言えること

a.e. 収束する部分列が存在する。全体については何も言えない

a.e. 収束から言えること

優収束定理の仮定がそろえば 収束が出る。蓋がないと言えない

完備性から出てくるもの

完備であることは、いくつもの道具の前提になります。

級数の判定がそのひとつ。 なら が で収束します[3]。絶対収束から収束が出るのは、完備な空間に限った話。

縮小写像の不動点定理も完備性を要求します。積分方程式の解の存在を の中で言うとき、この形が効いてくる。

なら内積が入るので、完備性と合わせてヒルベルト空間になります[2]。直交射影が存在するのは、完備であることの帰結です。

完備性が支えているのは、近似で作ったものが同じ空間に残るという保証です。

コーシー列の極限が外へ逃げないので、構成した対象を空間の元として扱える。

quiz で確かめる

が で成り立つとき、 について言えることはどれですか。

  • は a.e. で に収束する
  • a.e. で に収束する部分列がとれる
  • は一様に に収束する
__RESULT__

区間を走査する列は ノルムが に落ちるのに、どの点でも と を往復して収束しません。それでも部分列を選び直せば、a.e. 収束するものがとれます。

よくある誤り

収束すれば a.e. 収束すると思う。言えるのは部分列についてだけです。
a.e. 収束すれば 収束すると思う。背の高いスパイクが反例になります。
完備性を「極限が存在すること」だけだと思う。極限が同じ空間の元であることまで含みます。
でも積分を使う証明が通ると思う。零集合を数え上げる別の議論が要ります。
リーマン積分の枠でも完備だと思う。 で測ると穴があります。
絶対収束から収束が出るのを当然だと思う。完備な空間でだけ成り立ちます。
部分列の選び方が特別だと思う。差のノルムが 以下になるよう選ぶだけです。

参考文献

Riesz–Fischer theorem. Wikipedia(英語).
Lp space. Wikipedia(英語).
J. K. Hunter. *Measure Theory*. University of California at Davis, 2011.
Lp-Raum. Wikipedia(ドイツ語).
差のノルムが $2^{-j}$ 以下になるよう部分列を選び、その差を級数として足し上げる。単調収束定理で a.e. 絶対収束を言い、優収束定理で $L^p$ 収束に持ち上げる。これで $L^p$ がバナッハ空間だと分かります。$p = \infty$ では零集合を数え上げる別の議論が要ること、連続関数の空間を $\|\cdot\|_1$ で測ると穴があくこと、そして $L^p$ 収束しても全体が a.e. 収束するとは限らない例まで。