縦ではなく横に切る……ルベーグ積分の定義と可積分の条件
積分は 3 段階で組み立てます。単関数、非負可測関数、そして一般の可測関数の順[2]。
出発点は単関数です。互いに交わらない可測集合 と非負の定数で書かれた関数に対し、高さと測度を掛けて足す。
かつ のときは と約束します。この約束がないと、零関数の積分が定まりません。
台が区間である必要はありません。可測集合でありさえすれば測度が定まるので、有理数全体のような集合でも高さを掛けられる。ここがリーマン積分との最初の分かれ目です。
同じ単関数を違う形で書いても、積分の値は変わりません[3]。定数倍、和、単調性の 3 つも、定義からすぐ出ます[4]。
非負可測関数は下から近づける
つぎの段階です。 が可測なとき、下にある単関数の積分の上限として定めます[1]。
値は に入る。有限とは限らない点が、リーマン積分と違うところ。
注目したいのは、下からしか近づけていないことです[4]。リーマン積分では上と下から挟んで一致を要求しましたが、ここではその手続きが要りません。
可測性を先に仮定しているので、挟み込みの代わりが済んでいる。上と下がずれる心配は、可測でない関数のところで起きるからです。
縦に切るか横に切るか
リーマン積分は定義域を縦に割り、各区間での高さを見ます。ルベーグ積分は値域を横に割り、同じ高さになる を集める[1]。
集めた の集まりは区間になるとは限りません。ばらばらに散らばっていても、可測でありさえすれば測度が測れる。
横に切る利点は、関数が激しく上下しても層の形が壊れないことです。縦に切ると、区間の中での振れ幅が大きいままで細分が効きません。
増加列の極限としても書ける
上限で定義しましたが、単関数の増加列の極限としても同じ値になります[2]。
近づけ方によらず同じ値になる点が効いています。値域を に刻む標準的な列を使ってもよいし、別の列でもよい。
この事実は単調収束定理から出る。定義から直接ではありません。
線形性は自明ではない
定数倍と単調性は定義からすぐ出ます。ところが和については、そう簡単にいきません[4]。
を示すには、 と を近づける単関数列を用意して足し、極限をとる必要があります。その極限の交換を支える道具が単調収束定理[4]。
順序が効いています。単調収束定理を先に証明し、それから線形性を導く。定義だけを見て線形性を当然と思うと、証明の骨格を見落とします。
単関数の積分を定める
上限で非負可測関数の積分を定める
単調収束定理を示す
線形性が従う
符号のある関数へ広げる
一般の可測関数は正部分と負部分に分けます[3]。
どちらも非負可測なので、すでに積分が定まっています。差をとって の積分とする。
両方が のときは定義しません。 が意味を持たないから。片方が有限なら、値は を含めて定まります。
と の両方が有限。可積分と呼ぶのはこの場合で、 に属する
片方だけが無限大。値は決まるが可積分ではない
両方が無限大。 になるので、値を与えない
可積分の条件
を満たす可測関数を可積分といいます[2]。 なので、これは両方の積分が有限であることと同値。
可積分関数の全体を と書きます。この空間の上では積分が有限な実数値になり、線形性も三角不等式も素直に使える[3]。
a.e. で等しい関数は、積分の値も等しくなります[3]。積分から見ると、測度 の差は存在しないのと同じ。
集合の上での積分
可測集合 の上での積分は、指示関数を掛けるだけで定まります[4]。
リーマン積分では、長方形でない領域の上での積分を定めるだけで一仕事でした。ルベーグ積分ではその手間がありません。 が可測でさえあれば、形は問わない。
互いに交わらない可測集合の列 については、積分も可算加法的になります。
層ケーキの公式
積分を、水位ごとの測度の積み重ねとして書き直せます[1]。非負可測な に対して次が成り立つ。
右辺は についての広義リーマン積分。単調減少な関数なので、リーマン積分の意味でちゃんと定まります。
横に切るという発想を、そのまま式にしたもの。高さ の層の「幅」が で、それを について積み上げています。
層ケーキの公式は、ルベーグ積分をリーマン積分に翻訳する道具でもあります。
右辺は単調減少関数の広義リーマン積分なので、値を数値的に求めやすい。
例:ディリクレ関数
を で積分します。これは単関数そのもので、台は 。
有理数全体の測度が なので、答えは です。リーマン積分だと上積分が 、下積分が で一致せず、積分可能になりません。
可算個の点で値を変えても積分が動かない、という性質がそのまま出た形。
例:端で発散する関数
を で考えます。 で値は に発散しますが、可積分。
一方 を で見ると、値は に近づくのに積分が発散します。
可積分かどうかは、値が有界かどうかとも、定義域が有界かどうかとも別の話。 が有限かどうかだけが問われます。
| を で | 非有界だが可積分。積分は 2 |
| を で | 非有界で可積分でない。積分は無限大 |
| を で | 有界だが可積分でない。積分は無限大 |
| を で | 有界で可積分。積分は 1 |
例:数え上げ測度なら級数になる
に数え上げ測度を入れます。各 1 点集合の測度が なので、積分は級数と一致する。
可積分の条件 は、絶対収束にあたります。級数の絶対収束と積分の可積分性が、同じ枠に収まっている。
級数の項の順序を変えても和が変わらないのは、この見方では測度が順序を持たないからです。
非負可測関数の積分を定義するとき、上からの近似を使わないのはなぜですか。
- 上からの近似では値が大きくなりすぎるから
- 可測性を先に仮定しているので、上下の食い違いが起きないから
- 単関数が上から近づけられないから









リーマン積分では上積分と下積分の一致を要求しました。ルベーグ積分では関数の可測性を先に課しているので、下からの上限だけで値が決まります。